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13:支援型異術

攻撃、防御、特殊、そして「支援」

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「ということで、結果を話そうと思う」

 レオンハルト様とルワール様を連れてきた後のこと。
 私は、大神官様の話に耳を傾け……ダメ、集中できない!

 だって、大神官様の頭に大きなコブがあるんだもの。笑ってしまうわ……。
 さっきね、上着を着た私を見た大神官様が「隠れる前に!」とかなんとか言ってどさくさに紛れて私の胸を触ろうとしたのよね。それを、レオンハルト様が阻止してあろうことかそのまま拳を固めてガンッと。
 びっくりしたわ。大神官様って、偉い人じゃなくてエロい人だったのね。やっぱり、尊敬に値しない。子どもの姿をしているからって、油断ならないわ。

「まず結論、双方今まで発見されてないタイプの異術であると判明した」
「攻撃、防御、特殊に当てはまらないということでしょうか」
「そうことじゃ。他人の異術を強化するもの、異力消費を抑えるもの……私はそれらを総合して、「支援」型と名付けた」
「支援型……」

 多分、とても重要な話をしているのでしょうけど、私の頭にはちゃんと入ってこない。
 いえ、入ってきているのだけど、なんというかレオンハルト様とルワール様のように驚きはないというか。お2人とも、ものすごく驚いているのよね。それが、私にはない。

 でもそうね……。ここに来てやっと、自身が異術持ちだということを実感した。私にとっては、大きな進歩だと思う。
 ってことは、私は本邸に帰れるのかしら。そうすれば、温かいご飯にフカフカベッド、ドレスにアクセサリー……それに、小さい頃にお父様お母様にいただいたうさぎのぬいぐるみも戻ってくるってことよね。

 私ね、1年前までぬいぐるみがないと眠れなかったの。だから、ずっと抱いてたわ。ソフィーの異術が開花した時も。
 別棟に連れて行かれて一番悲しかったのが、いつも居るぬいぐるみがなかったことだったかも。今になってはもう、あまり覚えていない。

「……え?」
「大丈夫ですか、ステラ嬢?」
「え、こ、これ……」

 昔のことを思い出していると、不意に両腕に違和感を覚えた。びっくりして声を出すとすぐに、隣に居たレオンハルト様の心配そうな顔が覗いてくる。

 それに気恥ずかしくなった私は、すぐさま視線を下に向ける。
 すると、両腕に今までなかったものが見えた。…。これは何?

「ステラ・ベルナールには悪いが、少々異力を抑制させてもらうぞ。君は、他の異術者よりも異力が多すぎるんでな」
「……ごめんなさい」
「君が悪いわけじゃあないぞ。なんだ、すぐ謝るのは癖か?」
「わ、私が悪いなら謝るのは当たり前かと」
「謝ってばかりだと謝罪のが軽くなってしまう。それは、自身の価値を下げるのと同等じゃ。きっとその調子だと安定するまでは宮殿にいた方が良いじゃろうから、その間に性格も直していけると良いな」
「……私は、まだお屋敷に帰れないのですか?」

 大神官様は、私の両腕に付けられた石でできたような感じのブレスレットを手にしてそうおっしゃった。これが終われば帰れると思ったけど、そうじゃないってこと? レオンハルト様の方を見ると、なぜか悲しそうな表情で私の頭を撫でてきた。聞いたらいけないことだったかしら。

 私は、法によって宮殿で保護されているという事実しか知らない。何度かルワール様に理由を尋ねたのだけど、「未成年だから」ってことしか返ってきてないの。未成年なら、私だけが保護対象になるはずはないのだけど。
 多分だけど、異術の種類に何か問題があるのでしょうね。ってことは、やっぱり私のせいじゃないの。

「帰りたいのか?」
「できれば……」
「君は、家族に何をされていたのか覚えてないのかの?」
「……どういう意味でしょうか?」
「君が家族からされていたことは、虐待だよ。そこの彼が君を救出しなかったら、君は今ここにいなかった。無論、新しい異術の型を発見するような歴史的瞬間もなかったんだ」
「……虐待」
「そう。虐待じゃ」
「で、でも、私に異術がなかったから……。お役に立てることがなかったから、そうなったんです」

 大神官様の言葉を否定したくて声を張った。
 小さな部屋の中、声が反響してなんだか自分のものじゃないような錯覚がする。でも、それは紛れもなく私の声。「本邸に帰りたい」と泣いたあの時の声と似ている気がした。

 自分のせいで、お父様とお母様が様が謂れのない事を批判されるのは嫌。だって、ここまで育ててきてくださったんですもの。
 私はただ、期待に応えられなかっただけ。ソフィーの方が優秀だった、それだけの話でしょう。

「君は、伯爵の仕事をしていたと聞く。十分、役に立っていたと思うぞ」
「でも、ソフィーは異術を開花させて……」
「確かに、君の妹の異術は国が指定する危険種に分類されるほど強力な部類に入る。しかし、途中開花の者はそもそもあまり異力量がないんじゃ。故に、そこまで役に立っているとは言えん。今までは君の異術の恩恵を受けて多少強力な技を使い悪さをしていたようだが……それも、君が近くに居ないこと、それに異術持ちだと自覚したことにより恩恵を受けられなくなる」
「悪さ?」

 色々聞きたいことがあったけど、一番耳に残ったのは「悪さ」という言葉だった。
 ソフィーの異術が危険種に分類されていることはもちろんのこと、そもそもどんな異術を使うのか私は知らない。開花して次の日には、別棟に移っちゃったし。

 大神官様は、先程のすけべ顔丸出しの表情から一変して、真面目そうな表情でこう続けた。

「そうだ。君の妹は、人の感情を操る異術を持つ。それを使って、今まで君や両親はもちろん、使用人を操っていたのだろうな」


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