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10:覚醒
どんな顔して合えば良い?
しおりを挟むあれから、ルワール様……もとい、第二王子は、私の上半身を起こして診察をしてくださった。脈を測って心音を聞いて、たまに、タオルで涙を拭ってくださって。
聞けば、ルワール様も小屋の中を視たのですって。謝られたけど、なんて答えたら良いのかわからなかったわ。「よく頑張ったね」と言われた意味もわからなくて。
「うん、良好。レーヴェの異術が安定したきた証拠だ。舌の痺れはどう?」
「もうないです。異術ってすごいですね」
「癒しの異術は、普通に医療現場でも用いられるからね。術者が少なすぎて、それに頼ってばかりじゃ医療崩壊しちゃうけど」
「レオンハルト様は貴重なのですね」
「そゆこと。あいつこそ医者になった方が良いけど……まあ、想像つかないか」
「ふふ、レオンハルト様は軍人さんがお似合いです」
「同感」
こうやって、上半身を起こして話しているだけで息切れがすごい。やっぱり、体力がガクッと落ちているみたい。
でも、足は綺麗さっぱりとはいかないみたいだけど、傷口が塞がっていてびっくりした。あれだけ膿んでいたのに、治りかけ特有のかゆみがある。あとは、自然治癒で直した方が良いんだって。
癒しの異術ってすごいのね。異術自体を目の前で見たことないから、ちょっとだけ見てみたかったな。
そうやって異術の力を実感すればするほど、レオンハルト様に会いにくくなってることに気づいた。こんなすごいことができるお方なのに、私ときたら……。
どんな顔してお会いすれば良いのか、先ほどからずっと考えているのに結論も出ないし。せめてウジウジしないでパッとしなさいよって喝を入れてみたけど、でもでもだってな私が岩のようにずっしりと居座って動こうとしてくれない。
こう言う時、どうすれば良いのかな。いつもなら、目の前のことを1つずつこなして山を崩すように行動してる。でも、それすら難しくて……。
いえ、やってみましょう。ずっとここに居ても、第二王子に失礼だわ。
「あ、あの、アレクサンドラ第二王子」
「どうしたの?」
「い、今までご無礼を……」
「ああ、良いよ。ステラ嬢も、私を女性だと勘違いしていたのでしょう? 服を着替えさせたり勝手に診察してしまったり色々視たりと、ごめんなさいね。これでおあいこってことにできないかな」
「あ、は、はい。その、こ、光栄です」
「ん、良い子良い子。それと、君にはその名前じゃなくてファーストネームで呼んでほしいな」
「……ルワール様?」
「うん、よくできました」
ルワール様はとてもお優しい方だわ。
こうやって、正直に現状を話してくれるだけじゃなくて、私に気を遣ってくださるんだもの。頭を撫でられるのは……子ども扱いされているのかな。悪い気はしないけど、なんかくすぐったい。さっきメイドさんに髪の毛を整えてもらって良かった。
横になった私は、ルワール様のかけてくださったお布団を口元まで持っていきながら、照れ臭い気持ちを隠す。
身体が重いのは、栄養不足だって。さっきは軽かったって話をしたら、「それはマッサージしてもらっていたからでは?」って言われて解決した。そう言うことだったのね。
とにかく、身体の隅々まで診てもらって、「しっかり休養すれば後遺症とかは残らない」って太鼓判をいただいたからホッと一息はつけたかな。
さて、謝罪の次にすることは、今後のことね。ここまでは順調だわ。この調子で、どんどん状況を整理しましょう。
「あの、私はもうベルナールに戻れないのですか?」
「んー……。戻りたいの?」
「はい。その、お仕事しないと爵位が……」
「それって、君が気にすることじゃなくない?」
「いえ、お仕事をしていたのは私ですから責任があります。帳簿の書き方とか、表の見方とか、私じゃないとわからないこともありますし、今後私が回復するまでお父様がやって下さるのであれば引き継ぎを……」
ルワール様の話によると、私は王族に預かられた立場なのですって。だから、体力が回復するまでしばらくはここで生活をして良いとのことだった。さっき、診察しながら聞いたの。
お父様直筆の未成年身元預かり証を見せていただいた時は、正直悲しくなっちゃった。だってそれは、私が居なくても爵位のお仕事は回るってことと同義でしょう。「お前はベルナールにいらない存在だ」って言われたようで胸が痛んだ。正直、こうやって話している今も痛い。
お父様お母様に「いらない」って言われたら、私は本当に1人になっちゃう。それなら、もっとあの小屋で頑張れば良かったのかな。
「泣かないで。体力が戻ったら、ちゃんと君の要望通りに進めるから。今だけここに居て我慢してくれないかな」
「……私、居場所がなくなってしまうのが怖いんです。今までは、お仕事をすることで居場所を確保していました。だから、私がいなくてもお仕事が回るって気づかれたら、帰る場所が……」
「うーん、そもそも家族って……。まあ、もし君の居場所がなくなったら、私のところに助手にでも来るかい? 君なら大歓迎だよ」
「……私は、貴族としての誇りを捨てた人間以下の者です。ルワール様の視界に入るのも、本当は、その痛っ!」
ルワール様の提案に恐れ多くなった私は、そのまま毛布を鼻までかぶってモゴモゴと会話を続けた。すると、おでこに向かって彼がピシッとデコピンをかましてくる。地味に痛い。
見れば、少しだけ怒っているようなルワール様が視界に入り込んできた。
「はい、今からネガティブ発言禁止」
「へ……?」
「ネガティブなことを言ったら……どうしようかな。1回につき、1杯薬草茶を飲んでもらおうかな。苦ーいやつ」
「ヒッ、い、嫌です……」
「うんうん。言わなきゃ飲まなくて良いんだよ」
「……ルワール様、楽しそう」
怒ってるって思ったけど、よくよく見ると何だか楽しそうだわ。
薬草茶って、1回だけ飲んだことあるのだけど、もう一生飲みたくないくらい苦いの。効果はあるらしいわ。疲労回復とか、風邪防止とか。
それに、異術を操る人には、異力回復にもなるらしいし。私、その話を聞いて、異術者じゃなくて良かったって思っちゃったもん。それほど、薬草茶は苦い。
「楽しいよ。君とこうやって話してると「ルワール、ちょっと仕事の書類を持って来て良い……か」」
「!?」
そうやって顔だけ布団から出してルワール様と会話していると、カーテンの端から顔を覗かせてきたレオンハルト様と視線が合ってしまった。
すぐ目を瞑ったけど、今のは絶対にバレたわね。下手に目を瞑らなきゃ良かった。これじゃあ、「避けてます」って言ってるようなものじゃないの。
私は、キュッと目を瞑ってその場を逃れようと静かに息をした。
気づかれませんように、気づかれませんように。
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