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05:幸せの連続
生存報告
しおりを挟む私は今、……えっと、その、生きている。
いえ、生きてるのだけど、そうじゃない。そう言うことを言いたかったわけじゃなくて、……とにかく、頭が混乱するような出来事に襲われたの。だから、「生きてます」という生存報告をしただけで、深い意味はない。
そして多分、彼の行動にも深い意味はない。
ないって言って!
「……そあ、え」
「どうぞ、ごゆっくりくつろいでくださいな」
「本当、可愛らしいわ。レーヴェったら、いつまで経っても女性を連れてこないんだもの」
「……あう」
「ふふ、緊張しているステラ嬢も可愛らしいです」
さっき言いかけたことを話すわ。驚かないでね。
私は今、レオンハルト様の住むお屋敷に来ている。正確には、お屋敷に入ってすぐのホールに居る。
しばらく会えないのが寂しすぎて、幻覚を見てるわけじゃないわ。だって、さっき3回もほっぺをつねって確かめたもの。全部痛かった。
じゃなくて! 今は、こっちでしょう。
目の前には、レオンハルト様のご両親がいらっしゃる。挨拶、挨拶しないと。
「はっ、初めまして。ステラ・ベルナールと申します。レオンハルト様に、いつもお世話になっておりまして、えっと、ありがとうございます!」
「ふふ、初めまして。ああ、本当に可愛い!」
「礼儀正しいね。レーヴェ、ちゃんと案内するんだよ」
「わかりました、父様」
「ちゃんと掴んでおきなさいよ!」
「か、母様……」
ちゃんと挨拶できたかしら……。今の出来事なのに、何を口にしたのかさっぱり覚えていない。
でも、そうね。レオンハルト様は、ご両親と仲が宜しいみたい。それが、とても羨ましい。
私も、もう一度で良いからお父様とお母様にこうやって接したいな……。
その光景にポーッとしていると、急に目の前に彼のお母様がやってきた。
そして、間髪入れずに私をぎゅーっと抱きしめてくる。
「ひゃわっ!?」
「あ~、可愛い! ねえ、ひゃわって! パパ、ひゃわって!」
「こらこら、レーヴェに怒られるぞ」
「ムー……。ステラちゃん、ギューくらい良いわよねえ」
「は、はひ……」
「困らせちゃダメだぞ。……では、私たちは下がりますので。どうぞごゆっくり」
「ごゆっくり~。……ねえ、貴方。結婚式は盛大に……」
彼のお父様はとても冷静沈着で、まるで将来のレオンハルト様を見ているようだったわ。でも、お母様はなんというかとてもお若い。態度だけじゃないわ。見た目も、どう見ても30代に見える。
……あれ、レオンハルト様って御年21とおっしゃっていたわよね。他のご兄弟もいらっしゃるお話を聞いていたけど……謎すぎるわ。
私は、そんなお2人の背中を見ながらしばらくの間フリーズしていた。ってことは、レオンハルト様もだと思う。話しかけてこなかったし。
しばらくして横を見ると、
「ごめんなさい、悪気はないんです……」
と言いながら、顔を真っ赤にした彼と目が合った。
その表情が、なんだかとても面白い。思わず、笑ってしまったわ。
すると、レオンハルト様が唐突に抱きしめてくる。それがまるで「お返しです」と言わんばかりのタイミングだったから、気恥ずかしさはない。彼のお母様とは違った温かさだわ。私は、こっちの方が好きかも。
「ここに居れば、ギューし放題ですよ?」
「え……」
「嫌ですか?」
「え、あ……」
「ふふ、しばらく会えないなら、これくらいはしないと」
「……余裕ないれす」
「なくて良いですよ。そっちの方が可愛い。それより、部屋に案内します。本を読みましょう」
「はい、読みたいです」
「こちらにどうぞ」
どうして、そんなに余裕なの!? 私は、こんな一杯一杯なのにっ!
それに、侯爵様のお屋敷はうちとは比べ物にならないわ。別棟なんて、もってのほか。
マーシャルに着飾ってもらって良かった。いつもの格好だったら、申し訳なくて入れないもの。
私は、レオンハルト様と手を繋ぎながら、長すぎる廊下……多分、1人じゃ迷子になると思う。そのくらい広い廊下をゆっくりと歩いて行った。書斎にでも行くのかな。そんな感じがする。
にしても、途中数人の使用人さんたちとすれ違って挨拶したけど……どうしてみんな瞬きをしないでこちらを見てくるの? もしかして、そういう規則があるとか!?
侯爵家で働くのって、大変なのね……。やっぱり、伯爵家のうちとは大違いだわ。
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