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01:不思議な出会い
人違いじゃないの?
しおりを挟むカバンに便箋をしまった私は、両手を前に出して拘束しやすいようにした。
でも、一向に手錠がされない。
「ぶはっ! ははは!」
「……おい、ラファエル。出てくるなと行っただろ」
「いや、だって……ぶふっ。ひひっ、ご、ごめ……」
「……?」
不思議に思って顔を上げると、そこには挨拶をしてくださった軍人さんとはまた別の軍人さんが居た。……この方は、どこから現れたの? 全く気づかなかったわ。
そういえば、騎士は2人ペアで活動するのが基本だったわね。仕事で来てるなら、それは不自然ではない。
ラファエルと呼ばれた軍人さんは、お腹を抱えて笑っている。とても楽しそうだわ、どうしたのかしら……。
「失礼しました、ステラ嬢……と、お呼びしても?」
「あ、はい……。なんでも……」
「私のことは、レオンハルトとお呼びください」
「そっ、そんな……罪人にファーストネームを呼ばせるなんて」
「罪人じゃないですって!」
「……?」
よくわからないけど、とりあえず両手をおろしても良いかしら。痺れてきたわ。
ゆっくりと手をおろしても、最初にいた軍人さんが怒ることはなかった。
それよりも、後から来た軍人さんったらずっと笑ってるわ。どうして?
「ふっ……ふふ。良いねえ、レーヴェが好くのもわかる。周りに居ないタイプだ」
「おい、茶化すなら向こうに行け」
「やだよ。女に興味のない親友が、女に告白するなんて場面を見ずに熟睡できないじゃんか」
「しなくて良い。失せろ」
「やだってば。今君から離れたら、この周りにいる女の子たちに囲まれちゃうじゃんか。あー、モテる男は辛いねえ」
「そもそも俺は、お前を呼んでない」
「細かいことはいいじゃん。それより、伯爵のご令嬢をこんなところで立たせて良いの?」
「あっ……失礼しました、ステラ嬢。あの、よかったらお茶でもいかがでしょうか?」
「!?」
軍人さんは、そう言って私に向かって跪き手を差し出してきた。その瞬間、周囲からどよめきが起きる。
これは、何? どうして、私に向かって手を差し出しているの……?
膝だって、地面についたらお洋服が汚れてしまうわ。それに、私は彼の手に置ける何かを持っていな……持ってたわ。
「こちらでよろしいでしょうか?」
「え?」
「……? 便箋に、ソフィーへの伝言を記してくれるのではなく? そのために、テーブルのあるところに誘ってくださったのかと」
「……ふふっ、ふ。レーヴェ、なんか勘違いしてるから、ちゃんと教えないと」
カバンから再度取り出した便箋と万年筆を、その手に置いた。すると、手渡された方の軍人さんがポカーンとした顔になってしまったわ。でも、もう一方の軍人さんは笑ってる。
また、私は失礼なことをしてしまったのかしら。途中までしか礼儀作法を勉強していないから、わからない。
跪いた軍人さんは、そのままの体制で私の手の甲を取ってきた。
あれ、渡した便箋は……なぜか、笑ってる彼が持ってる。いつのまにか渡したのかな。
なんて思っていると、跪いたままの軍人さんが口を開く。
「勘違いさせてしまって申し訳ありません。私が手紙で呼んだのは、貴女様の妹ではなく貴女様自身です。以前、王宮でお見かけしてからずっと忘れられずにいました。私は、ステラ嬢に交際の申し出をしたつもりです」
「え?」
「すみません、こんなところで。返事は急ぎませんので、ゆっくり考えていただけますか?」
「……???」
その言葉は、今まで生きてきた人生の中で1番難解なものだった。お仕事で使う数式をマスターするよりも難しい。
私に? 交際の申し出???
どこかで見たと思ってたけど、王宮で見たのね。でも、王宮なんて最近行ってない。最近彼に会った気がしたのだけど……。いえ、それは今考えても仕方ない。
私は、手の甲に口づけをする軍人さんをボーッと眺めることしかできない。身体がとても熱い。沸騰しそう。
「お茶は、またの機会にしましょう。もう少し、ステラ嬢が私に慣れたらその時に」
「は、はい……」
「今日は、お時間いただきありがとうございます。最後にひとつだけ、お願いを聞いていただけますか?」
「は、はい……」
それと、ここに来た時も感じたけど、やっぱり寒気がする。
早く帰って温かい飲み物を淹れよう。最近淹れ方がやっと安定してきたのよね。1年前までは、使用人たちに淹れてもらってたし。
にしても、今日ってそんなに寒くないんだけどな。さっきは感じなかったけど、今は背筋が凍る勢いで寒い。
立ち上がった軍人さんは、そんな私に向かって何かを差し出してきた。今度は、手だけじゃない。手のひらに何かが乗ってるわ。……箱?
でも、視界が掠れてしまった私にはわからない。
「あの、これをよろしかったら受け取っていただき……ステラ嬢?」
「……は、はい」
「ステラ嬢!?」
「は……」
それは、一瞬だった。
一瞬で、軍人さんたちやそれを注目する人々、そして、そのざわめきもがパッと消えた。消えたというより、真っ暗になった感じね。
自分の身体なのにも関わらず、コントロールのできない何かに襲われた私は、素直に意識を手放した。
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