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エピローグ
ずっとずっと、私の視界へ色を乗せて
しおりを挟む本当に、青葉くんは居なくなった。
夏休みが明けて学校に行っても、タピオカ屋さんの前を通っても、家に帰っても居ない。
信じられなくてマンションまで行って、同じ理由で来ていた奏くんと遭遇した時は笑ったな。そのまま、先輩の家の喫茶店に寄ってケーキを食べたわ。
でも、青葉くんが居なくなったの以外は、何も変わらない日常が回っていく。
学校は続くし、毎日ご飯を作って、テスト勉強もして。告白されたら断って、友達と昼ご飯食べて。そんなモノクロな日常を、私は繰り返す。
電話もメールも、忙しいみたいで全然できないの。最初はそれが寂しかったけど、2ヶ月経った時に「映画のクレジットに名前が載る」と連絡が来てなるほどって思った。青葉くんは、あっちで頑張ってるんだね。
しばらくして映画が上映されて、美香さんと観に行ったけどすごかったわ。内容もだけど、ちゃんと青葉くんの名前が載ってたから。美香さんに聞いたら「普通は2ヶ月じゃ載せてもらえないよ」って言っていた。
そんな彼女も、数週間後にパリに飛ぶんだって。お試しだから、すぐ帰ってくるらしいけど。
私は、もらった指輪を握りしめながらその映画を6回は観た。映画館に行けば、青葉くんの近くにいける気がして。全然感動ものじゃないのに、毎回エンドロールで泣いちゃうの。青葉くんがメイクした人を見つけても泣いたわ。馬鹿だよね。
その映画の上映期間が終わると、また私は途方もない時間に身を置くことになる。
それでも、毎日笑って過ごせていたのは、友達のおかげだと思う。マリたちに眞田くん、それにたまに様子を観に来てくれる奏くんのおかげ。
そうそう、牧原先輩は卒業して製菓学校に通ってるわ。先生たちから「医者を目指せ」なんて言われるくらい頭が良かったんだって。でも、先輩はお菓子を作りたいらしくね。卒業後、たまにお菓子の写真と共に喫茶店おいでって営業メールが来るわ。マリたちを連れて行くと、とても喜ぶの。
正直、2年は長かった。
他に好きな人ができたとか、そういうのじゃなくて。一度しかない高校生活を、青葉くんと過ごしたかったなっていう気持ちとの戦いって感じ。行事があるたび、少し寂しい気持ちになって。
でも、青葉くんは私が寂しくないようにこの時期に行ったんだもんね。その気持ちは、贅沢だよ。
こうやって私は、彼を待った。
一度もテレビ電話はしていない。ラインは週1、電話は月1あるかどうか。その間、映画は3本上映されて、全て観たわ。観すぎて、映画館のスタッフさんに顔を覚えられてしまうほどにね。
***
***
時は流れ、青葉くんがアメリカへ行って2度目の春。
そして今日は、高校の制服を着る最後の日でもある。
窓の外を見ると、満開の桜が出会いと別れを祝福するように宙を舞っていた。
とても美しい光景なのに、私の中には「綺麗」よりも「さくらんぼ食べたいな」って感想が浮かんでくる。今日は、卒業式が終わったらひかるのお店でさくらんぼケーキを買って帰ろう。
「梓ー、奏くん来てくれてるわよ」
「え!? 待って、今行くから!」
着なれた制服を姿見に映していると、リビングの方からお母さんの声が聞こえてくる。
奏くん、どうしたんだろう? 卒業式だから、一緒に行こうってことかな。一昨日、マリたちも交えて遊んだ時はそんなこと言ってなかったんだけど……。
私は、制服のリボンを整えて、髪とメイク、それに、首にかけてある指輪を再度確認して、カバンを持つ。この動作も、今日で最後ね。
……あ、待って。アイロンの電源切ってない。
「梓ー、早くしなさい」
「はあい! ……?」
電源をオフにした私は、今度こそ勢い良く部屋を出る。
でも、ドアを開けて部屋の外に一歩踏み出すと、そこにはまた壁があったの。びっくりして見上げると……。
「ただいま、鈴木さん。卒業おめでとう」
そこには、スーツ姿の青葉くんらしき人が居た。
唐突すぎて、思考が止まる。
うちの壁は、いつの間に青葉くんになったの?
あれ、なんか身長伸びてない?
というか、夢?
落ち着いて、私。
良くわからないうちに視界がぼやけていくから見えないけど、この声は青葉くん以外ありえない。それに、この体温は間違いようもないわ。夢なんかじゃない。
私は、そのまま目の前に居た人の胸の中に飛び込んでいく。
「おかえり、青葉くん」
次の言葉は何にしよう。
映画観たよ? それとも、おめでとうって言われたから「ありがとう」? 眞田くんが髪を染めた話でも良いかな。いえ、その前に……。
私は、数年ぶりに色付く視界へ、とびきりの笑顔を送る。
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