上 下
246 / 247
17

彼女が居たから、今の自分が居る

しおりを挟む


 指輪を受け取った日の夜のこと。つまり、青葉くんとの最後の夜。
 結局、彼はうちに来なかった。でも、その代わり……。

「青葉は座ってろ!」
「そうだぞ、主役!」
「う、うん……」
「青葉くん、どれ欲しい? 取るよ」
「えっと……」
「五月ー、もっと食えよ。そんなほっそい身体じゃあ、あっちで餓死すんぞ」

 青葉くんの家は、たくさんの人で溢れかえっていた。
 奏くんに眞田くん、東雲くん、マリにふみかに詩織、由利ちゃん、それに牧原先輩と理花まで。まだまだ居るわ。うちの家族全員に、青葉くんのご両親、それに美香さんも。
 全員、青葉くんのことを聞きつけて見送りにきたんだって。でも、マリたちはそれどころじゃないみたい。生千影さんに生美香さん……私も四月一日さんに影響されてるわ。とにかく、その2人の登場に、大いに興奮していたから。

 にしても、青葉くん嬉しそう。
 あの笑顔、今のうちに目に焼き付けておかないと。

「アメリカって、日本人男性が好かれるんだろ?」
「何それ」
「あー、聞いたことある。アメリカの人から見たら、可愛く見えるらしい」
「でも、俺は靡かないよ」

 そうそう。
 青葉くんにプロポーズされたこともみんな気づいたみたい。私たちの指輪を見て。
 牧原先輩は、「今からでも遅くないから、僕と」なんて言っていたけどごめんなさい。もう、私には青葉くんしか見えないの。

 パパは、「まだ早い」って言ってショック受けたような顔していたけど。お母さんはとても喜んでくれたわ。千影さんと四月一日さんも、「待ち受けにしたかいがあった」って言ってたけど……。それって、関係あるの?

「違う違う。女じゃねえよ、男からだよ」
「ぶっ!?」
「確かに、五月掘られそう」
「感想聞かせてね」
「や、やめてよ!」
「にいちゃん、ほられるって何?」
「子供に変なこと教えるな!!」

 なんか、男子たちで盛り上がってるわ。楽しそうだな。
 そこに、マリたちと双子も加わって笑ってるし。私も混ざろうかな。

「梓」
「理花、どうしたの?」

 青葉くんの方へ行こうと身体を向けると、後ろから理花が話しかけてきた。その手には、グラスが2つ。片方を私に差し出しながら、ニコニコと笑っている。

「おめでとう、梓」
「……まだ早いよ」
「でも、青葉くんからもらったんでしょう? 良いなあ」
「……」
「気まずいなんて思わないでね。嫌味言うつもりなら、こんなところ来てないし」
「……理花、ありがとう」

 そのグラスを受け取ると、すぐに縁に向かって乾杯してきた。ガラスの良い響きが、思った以上に部屋に反響する。けど、誰もこっちを見てないってことはそれほどでもないのかも。

 理花が飲んだのを見てから、私もグラスに口をつけた。

「あーあ。私がもっと早く五月くんに目を付けてれば良かった」
「私も、もっと早く梓ちゃんに目を付けてれば良かった!」
「!? み、美香さん」

 あっぶない! もう少しで吹き出すところだった!

 私たちが話していると、横から美香さんが入ってきた。しかも、勢いよく私に抱きついてくるの。今日も、とても良い香りがするわ。

「梓ちゃん、今日のメイクも可愛い!」
「ありがとうございます。美香さんも全身可愛いです。髪も、いつもより艶がありますね」
「わかる!? 昨日からトリートメント変えてみたの。やっぱり、梓ちゃんは私のことよくわかってるわ!」
「……はは」

 美香さんも、とても変わったな。以前よりも笑うようになった。
 奏くんに聞いたら、こっちがいつもの彼女だって言ってたけど。どうして、あんな塞ぎ込んだような性格になっちゃったんだろう? 私は、こっちの美香さんの方が好き。

 そんなはしゃぐ美香さんをみながら、理花が笑い声をあげる。

 パパは四月一日さんと、お母さんは千影さんと話してるし、青葉くんは相変わらずクラスメイトのみんなと牧原先輩、双子に囲まれて楽しそうだし。

 次は2年後ね。
 大丈夫。私は、あなたのこといつまでも待てるから。
 だから、楽しんできてね。



***



「五月、良かったね」
「うん」

 みんなが帰った後のこと。
 俺は、ベランダに出て星を眺めていた。すると、後ろから父さんがやってくる。

「学校に友達が居ないって言ってたのに、あんなたくさん来てくれたじゃないか」
「……うん。鈴木さんと話すようになって、いつの間にかみんな居たんだ。俺が壁作って今まで話してなかっただけで」
「そっか。梓ちゃんは、五月に良いものを運んできてくれるね」
「うん」
「絶対に悲しませるようなことするなよ」
「わかってる」

 まさか、みんな集まってくれるとは思っていなかった。
 奏が企画して、眞田くんがみんなに声をかけたんだって。鈴木さんも知らなかったらしく、驚いてたよ。

 あの空間は、鈴木さんがくれたものだ。
 俺は、それを一生かけて返せるかな。

「父さん、あっちでビシバシ鍛えてね」
「はいよ。現場のみんなも楽しみにしてるって」

 大丈夫。
 俺は、鈴木さんと一緒に居る未来を掴むために行く。
 帰ってきたらたくさん恩返しするからね。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

処理中です...