231 / 247
17
視線の先には輝く貴方
しおりを挟む「美香さん!」
「梓ちゃん、間に合って良かったね」
「え、すごい!」
美香さんのラインで現場に戻ると、そこは裏路地に佇む喫茶店のセットになっていた。この建物、どうなってるの!? どこから持ってきたの?
セットを眺めていると、私しかびっくりしてないことに気づいたわ。……落ち着きましょう。
「ふふ、昼休みで大きなセット組んだみたい。普通は、そんな反応になるよね」
「……すみません、はしゃいじゃって」
「梓ちゃん、可愛い!」
「わっ!?」
「Aグループのみなさん、スタッフに従って移動をお願いします」
深呼吸していると、美香さんに抱きしめられちゃった。勢いにびっくりしたけど、それよりも良い匂い!
これ、次マリと会う時自慢できるかも……。サインもらうよりすごいことだよね!?
なんて戯れてると、副監督さんの声がスタジオに響く。
Aグループだから、私たちね。その声に反応して、私と美香さん、それにグループの人たちが移動を始める。
「頑張ろうね!」
「はい!」
午前中は、物珍しくてキョロキョロしすぎちゃったから、午後はちゃんと前向いて歩かないと!
それに、女優さん俳優さんの方も向いちゃダメよ。カメラを意識してもダメ!
結構コツは掴んだから、次はちゃんとできるはず!
***
「ストップ! サヤ役の右髪櫛入れて」
「はい!」
午後からは、青葉くんと奏くんも一緒の現場だった。
奏くんの立ち回りやセリフ回しはもちろん、青葉くんの機敏な動きにも目が離せないの。
青葉くんったら、監督さんの一声でパッと走って女優さんの髪やメイクを直しててね。そんな指示でどう直すの? ってものまでササッと直しちゃうんだからやっぱり彼はプロなんだって改めて実感したわ。
これは、現場で青葉くんを知る人なら惚れちゃうよ。気持ち、すごくわかるもん。
「五月くん、どう?」
「……格好良いです」
「あはは。さっきから、梓ちゃんそっちばかり見てる」
「う……。すみません」
全体が止まると、エキストラも止まるの。ちょうど隣に居た美香さんが話しかけてきて、私は視線が青葉くんを向いていることに気づく。……恥ずかしい。
それでも、目で追っちゃうくらい格好良いの。
監督さんの言葉に嬉しそうな表情をする青葉くん……。きっと、私がいくら頑張ってもあんな顔してくれないと思う。
「でも、いつもより張り切ってるから、梓ちゃんが見てるからかもね」
「え? なんて」
「再開します! エキストラさん、元の場所に戻ってください」
美香さんが耳打ちした言葉を聞き返そうと思い振り向くも、監督さんの声にかき消されちゃった。
聞き間違えじゃなければ、私が青葉くんの役に立ててるってことで良い? だったら、嬉しいな。
「テイク2、行きます! ……スタート!」
「ねえ、今日のお昼さっ」
「どうせ、パスタだろ?」
「どうせって何よー! 限定10食なんだよ!」
私たちエキストラは、主人公たちがお昼何を食べるかの会話をしている後ろで歩く人をやるの。
簡単そうに聞こえるでしょう? すっごく難しいのよ。
普通に歩くんだけど、どうしても視線が主人公たちに行っちゃうし、クレーン車みたいな機械に乗ったカメラも気になる。それに、人とぶつからずに歩くのも結構大変。
それに、私は黒の服を着ているから、赤い服とか淡い服の人たちとあまり交わらない方が良いんだって。色合いとかも大事だとか。
「カット! そこのエキストラ!」
「!?」
「そこ、5人纏まっちゃってるから、もう少しバラけて。主人公より目立つ場所は作らない!」
「はい!」
「はい!」
あー、びっくりした。私が言われたのかと思った。
助監督さんの声で、カメラに照明、それに長いマイクを持った音響さんの手も止まる。それだけじゃないわ。役者さんに他のエキストラさんも止まるの。
これ、自分が失敗しちゃったら、結構ショックよね。だって、みんなの手を止めることになるんだもの。
「ついでに、サナエ役のチーク変えて! やっぱり、ピンクよりオレンジ系の方が白シャツに映える」
「はい!」
「30秒で!」
「わかりました!」
30秒でチークって変えられるの!?
え? だって、今のチーク落として、その周りのベースから塗り直して……。って!? 青葉くん早い!
え、あんなスピードで良く均等に塗れるよね!? もうベース塗り終わって、チークポンポンしてる。
あの女優さんは、顔的にもオレンジの方がお似合いね。可愛い。
「よし、じゃあもう一度。エキストラさんも元の位置に戻って」
「はいっ!」
「はい!」
いつもは見ない青葉くんの姿、こんな間近で見られる日が来るなんて思ってなかったわ。
これは、奏くんに感謝しないとね。
ありがとう、奏くん。
0
お気に入りに追加
55
あなたにおすすめの小説
七年間の婚約は今日で終わりを迎えます
hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。
【完】貴方達が出ていかないと言うのなら、私が出て行きます!その後の事は知りませんからね
さこの
恋愛
私には婚約者がいる。
婚約者は伯爵家の次男、ジェラール様。
私の家は侯爵家で男児がいないから家を継ぐのは私です。お婿さんに来てもらい、侯爵家を未来へ繋いでいく、そう思っていました。
全17話です。
執筆済みなので完結保証( ̇ᵕ ̇ )
ホットランキングに入りました。ありがとうございますペコリ(⋆ᵕᴗᵕ⋆).+*
2021/10/04
浮気中の婚約者が私には塩対応なので塩対応返しすることにした
今川幸乃
恋愛
スターリッジ王国の貴族学園に通うリアナにはクリフというスポーツ万能の婚約者がいた。
リアナはクリフのことが好きで彼のために料理を作ったり勉強を教えたりと様々な親切をするが、クリフは当然の顔をしているだけで、まともに感謝もしない。
しかも彼はエルマという他の女子と仲良くしている。
もやもやが募るもののリアナはその気持ちをどうしていいか分からなかった。
そんな時、クリフが放課後もエルマとこっそり二人で会っていたことが分かる。
それを知ったリアナはこれまでクリフが自分にしていたように塩対応しようと決意した。
少しの間クリフはリアナと楽しく過ごそうとするが、やがて試験や宿題など様々な問題が起こる。
そこでようやくクリフは自分がいかにリアナに助けられていたかを実感するが、その時にはすでに遅かった。
※4/15日分の更新は抜けていた8話目「浮気」の更新にします。話の流れに差し障りが出てしまい申し訳ありません。
王太子殿下の子を授かりましたが隠していました
しゃーりん
恋愛
夫を亡くしたディアンヌは王太子殿下の閨指導係に選ばれ、関係を持った結果、妊娠した。
しかし、それを隠したまますぐに次の結婚をしたため、再婚夫の子供だと認識されていた。
それから10年、王太子殿下は隣国王女と結婚して娘が一人いた。
その王女殿下の8歳の誕生日パーティーで誰もが驚いた。
ディアンヌの息子が王太子殿下にそっくりだったから。
王女しかいない状況で見つかった王太子殿下の隠し子が後継者に望まれるというお話です。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】お飾りではなかった王妃の実力
鏑木 うりこ
恋愛
王妃アイリーンは国王エルファードに離婚を告げられる。
「お前のような醜い女はいらん!今すぐに出て行け!」
しかしアイリーンは追い出していい人物ではなかった。アイリーンが去った国と迎え入れた国の明暗。
完結致しました(2022/06/28完結表記)
GWだから見切り発車した作品ですが、完結まで辿り着きました。
★お礼★
たくさんのご感想、お気に入り登録、しおり等ありがとうございます!
中々、感想にお返事を書くことが出来なくてとても心苦しく思っています(;´Д`)全部読ませていただいており、とても嬉しいです!!内容に反映したりしなかったりあると思います。ありがとうございます~!
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる