191 / 247
15
離れたくない
しおりを挟む「っス。鈴木は?」
「よお、和哉。落ち着いて眠ってるよ」
「心配はないってことで良いか?」
「ああ。事務所で抱えてる主治医が見てくれたから、もう大丈夫」
「……はあ」
俺は、奏が見ているとわかっているのに、青葉の家の玄関にへたり込んで泣きそうになった。
だって、鈴木が倒れたって受話器越しに聞こえてくるわ、聞いたこともないような青葉の鋭い声と奏の怒鳴り声が響いてるわで。
急いで行こうと思ったが、救急車とか入れば完全邪魔じゃん? 落ち着こうと思ってコンビニ寄ってきたけど、会計中なんて店員の言葉が聞こえなかった。
落ち着いたから来て良いよって連絡もらえた時は、鈴木と同じクラスになった時より嬉しかったわ。
「大丈夫か?」
「おう。悪ぃ……」
ヘタってしまった俺を、奏が立ち上がらせてくれる。しかも、持っていたコンビニの袋も持ってくれるとか、優しすぎるぜ。
「目の前で冷や汗かいて震えながら倒れんだもん。オレも青葉も、ビビったわ」
「青葉は、どこに?」
「寝室。梓の隣にずっと居るよ。ありゃあ、テコでも動かねえ」
「……そっか」
奏の苦笑いした顔に、やっと俺は安堵した。笑ってるってことは、本当に大丈夫なんだ。良かった。良かった……。
俺は、そのまま青葉の家に上がった。
やべ、涙出てきそう。奏が見てないうちに、ワイシャツで拭いて……。うん、見られてない。
「鈴木、やっぱ体調悪かったのか?」
「丸1日何も食べてなかったから、低糖で倒れたっぽい」
「あー。そういやあ、そんな会話してたな」
別に、盗み聞きしてたわけじゃないぞ! 聞こえてきただけだ。
以前、篠田たちがそんなことを話していたのを「偶然」聞いただけ。
なんて、脳内で言い訳していると、知らない人がリビングにいることに気づく。その人は、持っていたティーカップをゆっくりと机に置きこちらを見てきた。
「えっと、……こんにちは」
「こんにちは」
「さっき話した主治医な。神田さん、点滴終わるまで居るから」
「点滴?」
「ブドウ糖入れてんの。しばらくしたら、起きるらしい」
「……そうか」
神田と呼ばれた主治医は、俺に向かってバカ丁寧に頭を下げてくる。びっくりして、俺も急いで頭を下げた。
てか、家で普通に点滴できるってすごいな。どうなってんだ? やっぱ、芸能人とかって普通に病院行けない時もあるからとか?
……うーん、聞ける雰囲気ではない。まあ、きっと「大人の事情」ってやつなんだろう。今回は、それに助けられたってことだ。俺は、鈴木が無事ならなんでも良い。
「お顔を見てきても良いですよ」
「え?」
「行ってこいよ。そこの扉出て、突き当たりの部屋に居るから」
「……おう」
とりあえず、鈴木の顔見て安心しよう。
……注射の針って見えねえよな。俺、アレ苦手なんだ。皮膚に針がぶっ刺さってるって、普通じゃねえ。……うう、見るのも怖い。
けど、鈴木が戦ってんだ。俺が怖がってどうする!
空いているソファに荷物を置いた俺は、奏に指さされた方向へと歩いていく。
***
「……温かい」
鈴木さんは、腕に点滴の針を刺して眠っている。
先ほどまで冷たかった手に触れると、温かい。それだけで、涙腺が崩壊したかのように目からボロボロと涙が溢れてくる。
倒れた時は、正直もう目を覚まさないんじゃないのかって思った。それほど鈴木さんは、冷や汗をかき手足を痙攣させ冷たくなった身体で意識を失っていたから。
さっき、透さんに連絡入れたら「やっぱりダメだったか」って言ってた。それが心配だったから、学校に行かせたくなかったんだって。
それに、鈴木さんから低糖の話を俺にしないよう釘刺されてたらしく。何度も謝罪されて、こっちが恐縮しちゃったよ。
今、こっちに向かってきてくれてるんだ。そろそろ着く頃だと思う。
「……鈴木さん、そういうのは言ってくれないとわからないよ」
きっと、聞けば心配かけてしまうと思ったんだろうな。……最悪、離れてしまうとも。
そんなことで距離を置くほど、表面上で「好き」と伝えたわけじゃないのに。
俺は、鈴木さんの手を握りながら、先ほど2人で話した内容を思い出す。
彼女には、将来の話もした。
俺は、高校を卒業したら海外へ行って、父さんのところで本格的にメイクの勉強をする。
セフレ作っても放置していたのは、そこだ。どうせ、それまでの辛抱だって思ってたから。まさか、好きな人ができるなんて考えてもいなかったんだ。
その話をしても、鈴木さんは「青葉くんの夢は応援したい」と言ってくれたのに。彼女の倒れた姿を見て、俺が離れられなくなった。……なんて、言ったら怒るだろうな。
「……鈴木さん」
好きだ。
離れたくない。ずっと一緒に居たい。
依存だって、なんだって良い。隣に居て欲しい。
俺って、こんな束縛する奴なんだ。自分でもびっくりしてる。
「青葉、来たぞ」
「眞田くん?」
鈴木さんの手に力を入れていると、ノックの音と共に眞田くんの声が聞こえてきた。
俺は、繋いだ手を離しドアへと向かう。
0
お気に入りに追加
55
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。
捨てられた王妃は情熱王子に攫われて
きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。
貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?
猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。
疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り――
ざまあ系の物語です。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる