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悪いことは重なってやってくる

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「梓ちゃん、青葉くんのこと好きだったんでしょ?」
「……うん」
「青葉くんも酷いよ。学校では、梓ちゃんに近づいてさ。私、青葉くんも梓ちゃんのこと好きなんだと思ってた。そうとしか見えないし」

 ミカさんと別れた私たちは、学童へ向かっていた。

 ミカさんは、もう少し待ってみるって言ってた。今日、時間があったらご飯一緒に食べようって思ってたから残念だったな。
 ……いいえ。そもそも、私たち恋人でもなんでもない。ただのクラスメイトだって、わかってたことでしょ? なんで、そんなに落ち込んでるのよ。

「うん……」
「なのに、自分には恋人が居ました? 梓ちゃんの気持ち踏み躙って!」
「……ミカさん、有名な人だから。言えなくて当然だよ」
「だったらさあ「それより、そうやって由利ちゃんが怒ってくれるのが嬉しいよ」」
「……梓ちゃん」

 本当だよ。私は、そっちが嬉しい。
 だって、今日1日避けられて辛かったから。きっと、理由があってそうなっちゃったんだよね。だから、由利ちゃんは待っててくれたんだよね。

「梓ちゃん、ごめんね。こんな時に話すことじゃないんだけど」
「うん」
「梓ちゃんって、いつも早く帰るでしょう? 私たち、その理由が知りたくて昨日後をついてっちゃったんだ」
「……え?」

 由利ちゃんは、歩きながらゆっくりと話してきた。
 その言葉が出てきた途端、身体の血液がサーッとなくなっていく感覚に襲われる。どうやって歩いていたのか忘れてしまったように、私は立ち尽くす。

「……私は途中で帰ったんだけど、マリちゃんとふみかちゃんは梓ちゃんが買い物行くところまで見てて。その」
「……」

 見られた。

 昨日、お母さんのジャージでスーパーに行ったわ。ほとんどすっぴんで、髪の毛も適当に結んで。なんなら、古臭いサンダルもはいてた気がする。
 それを見られたってこと? だから、今日1日避けられたの?

「本当に、ごめんね。梓ちゃんにも色々事情があって、そうしてたのに。私もついてっちゃったから」
「……ううん。話してくれてありがとう」
「梓ちゃん……」

 なんの涙だか、自分でもわかってない。でも、止められなかった。
 由利ちゃんが心配しているのをわかっていながらも、私はボロボロと泣いている。

 家族のことで、可哀想と言われるのが嫌だった。
 だから隠したのに、今はそれを後悔している。あんな姿、見られたくなかったな。見られるくらいなら、学校でカミングアウトして「可哀想」って言われた方がマシだった。でも、もう遅い。

「……鈴木さん?」
「ねえちゃん?」
「……おねえちゃん、泣いてるの?」

 すると、前から青葉くんと瑞季、要がやってきた。脱いだセーターを肩にかけ、前髪を掻き上げた青葉くんは、私たちを見て驚いている。

「ごめん、話してる途中だったよね。迎え行くってラインしたんだけど……」
「……う、う、うわあああああ、あああああぁぁ」

 醜態とか無様とか、今の頭では考えられない。

 私は、外だとわかっていながら、みんなの居る前で声を上げて泣いた。  
 双子が心配して近寄ってきても、青葉くんがオロオロしながらタオルで顔を拭いてくれても、私の涙は止まらなかった。


***


「って感じで、今気まずいんです」
「……」

 梓が帰った後、私は久しぶりに先輩と話していた。放課後だから、中庭には人が全くいない。2人きりで嬉しいな。
 マリは、正門にミカさんが居ることを聞いて会いに行っちゃった。私はソラ先輩と一緒が良いから残ったけど。

 私の話を聞いたソラ先輩は、ベンチに背中を預けながら無言でいる。こうやって、考えてる姿も格好良いな。

「梓、酷いですよね。友達だって思ってたのに、隠し事して」
「……ふみかちゃんは、隠し事してないの?」
「え?」

 あれ、ソラ先輩怒ってる?
 やっぱり、梓のことが好きだから肩持つのかな。そんな先輩見たくないな。

 なんて思っていると、ソラ先輩は隣に置いた荷物を取って立ち上がってしまう。

「ふみかちゃんだって、僕たちと学校でセックス楽しんでたの友達に言ってないんでしょう?」
「……え」
「話を聞いても、君を擁護する気にはなれないよ。気をつけて帰ってね」
「せ、先輩!」

 いつもの優しい口調ではない。
 先輩は、そう言って校舎に戻ってしまった。私が呼んでも、振り向きもしない。

「……わかってるよ。わかってるけど、いつもみたいに「酷いね」って話聞いてよ」

 気持ちが追いついてなかったから話したかっただけなのに。いつもなら話を聞いて、その後に私の気持ちも聞いてくれるのに。なんで、今日はしてくれなかったの?

 こんなことなら、私もミカさんのところ行けば良かったな。

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