上 下
173 / 247
14

寂しさを紛らわせるために

しおりを挟む

 お昼休みが始まって少しした時。

『なあ、青葉。梓見なかった?』
『わぁ!?』
『ごめん、急に』
『こっちこそ、ごめん……』

 4限目の内容をノートに書き写していると、川久保さんが話しかけてきた。
 前から急に来たから、変な声を出しちゃった。でも、それを気にしてないくらい焦ってる。鈴木さん、さっきまで自席に居たけどどうしたんだろう。

『梓、お昼居なくてその……』
『さっきまで席に居たけど』
『あの、ちょっと色々あって。でも、お昼は一緒に食べようかなって思ったんだけど、その』
『……? 喧嘩したの?』
『うーん。まあ……。とにかく、梓知らない?』
『知らない。ラインは?』
『ありがとう。もう少し探してみる』

 ライン、まだしてないのかな?

 川久保さんは、歯切れ悪い返事をしながら篠田さんたちの方へと行ってしまった。「青葉も知らないって」と話しているのが聞こえてくる。
 ……鈴木さん、喧嘩するなんで珍しいな。

 いつものメンバーの4人が集まってるってことは、鈴木さんは1人でどこかにいるってことだよね。

『眞田くん、お昼なんだけど行く所できて……』
『あ、悪りぃ。委員会があって、行かなきゃいけねぇんだ』
『そうだった、忘れてた。ごめん』
『っつーことで、行ってくるわ。……おい、東雲行くぞ!』
『ういー。めんどー』
『行ってらっしゃい』

 とりあえず、探してみよう。
 お弁当入ってた手提げがないから、学食か、中庭辺りかな。

『……』

 芸術棟の方行ってたらアレだから、奏にも声かけておこう。あいつ、今日も学校来てるし。


***


「味がしみてて美味しい。朝揚げたの?」
「うん。昨日の夜に漬けておいて、朝揚げたの」
「一晩漬けると、やっぱり味が違うね」
「マジ、うまかった! まだ食いてえ!」
「いいよ、どうぞ。……あと青葉くん、これ。飲みかけだけど、良かったら」

 鈴木さんは、芸術棟の屋上に居た。
 ここは、普通科の生徒も立ち入りOKな場所。でも、教室から遠いためみんな滅多に来ない。……だから、ここを選んだのかな。
 学食から走ってきたから大変だったけど、見つかってよかった。

 俺は、鈴木さんから水色の水筒を受け取った。
 鈴木さんも飲んだやつってことだよね。よかったらというか、なんというかラッキーです。……って、俺気持ち悪いな。ニヤケそう。

「ありがとう」
「走ったの? 暑いでしょ。ここなら人来ないから、セーター脱いだら?」
「そうする」
「脱いだら貸して。畳んどく」
「大丈夫だよ、自分でやるから」
「青葉くんは、水分とって。倒れちゃう」
「……お言葉に甘えます」

 なにこの、新婚みたいな会話。ダメ、ニヤけるなって方が難しい。しかも、奏が唐揚げ食べながらめっちゃ笑顔でこっち見てるし。

 俺は、その恥ずかしさを紛らわせるため、鈴木さんからもらった水筒を素早く傾ける。すると、口の中に冷たいお茶が流れてきた。これは何茶だろう? ちょっと甘い。

 まさか、また鈴木さんと間接キスできると思ってなかったから嬉しいな。なんだか、いつものお茶より美味しい気がする。
 なんて、余韻に浸っていると、

「……喜んでるところ悪りぃんだけど、それ直前に飲んだのオレな」
「ブッッッッ!?」
「あ、青葉くん!? どうしたの!?」

 奏の唐突すぎる発言に、口の中に少しだけ残っていたお茶を噴いてしまった。すると、セーターを畳み終わった鈴木さんが急いでタオルで拭いてくれる。……あーあ、ワイシャツにシミ作って恥ずかしすぎる。

「あ、いや。急に飲んだから、その」
「わかる。冷たい飲み物って、むせるよね」
「う、うん。そうそう……はは」

 マジで、穴があったら入りたい。今なら、シャベルもらえれば喜んで自分で掘る。
 んでもって、奏。お前、そろそろ笑ってるのムカついてきたから殴るぞ……。

 ……ん? 待てよ。

「鈴木さんは、水筒のお茶飲んだの?」
「……? 飲んだよ、今日は黒豆茶」
「へえ」
「……五月、別に意味はないから」
「へえ」
「……こえぇよ」
「どうしたの? やっぱり、濃すぎた?」
「そんなことないよ。おいしかった」
「そう、よかった!」

 やっぱり。
 奏のやつ、羨ましすぎる。
 そして、今すぐアルコール100%の液体で唇をゴシゴシ拭いてやりたい。お前から、鈴木さんの痕跡を消してやる。化学室にあったかな。
 なんて思いながら睨んでいると、奏の顔からやっと笑みが消えた。

「もう少し食べ物もらっていい? お腹空いちゃった」
「うん! 作りすぎたから、いっぱい食べていいよ」
「ありがとう」

 多分だけど、篠田さんたちと食べるために作ったんだろうな。俺らが来なかったらこの量を1人で食べてたって考えると、奏に声かけて来てよかった。
 量の問題じゃなくて、これじゃ寂しすぎるでしょう。

「梓の飯は、食欲なくても食える!」
「俺も」
「……ありがと」

 喧嘩の内容は聞かないよ。
 川久保さんが俺に話しかけてきたってことは、あっちが悪いと思ってるってことだろうし。俺は部外者だから。
 
 頑張れ、鈴木さん。
 何があっても、味方だからね。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...