上 下
148 / 247
12

新情報はまだまだ続く

しおりを挟む
「さっきの返事なんだけど……」

 今、返事くれるってことだよな……。
 俺は、鉛筆の動きを止めて鈴木の言葉を待った。でも、視線はキャンバスだ。直では見れねえ。

「まずは、濁しちゃってごめんね」
「い、いや。別に。青葉の前で、その……。あいつに、告白って怖くないぞって教えようとしてだな、その」
「うん。眞田くんって優しいね。知らなかった」
「……」
「私、親が仕事で居なくて、兄弟見たり家のことしたりで忙しくてクラスメイトに目を向けてなかったんだ。青葉くんと話して、それに気づいたよ」
「そうなのか」
「内緒ね。苦労人、なんて同情されたくないんだ」
「わかるなあ。大変だーなんて言われるくらいなら、お笑いとかドラマとかの話してぇ」
「そうなの! 私も、楽しい話がしたくて。自分じゃない人に、大変だって感情を押し付けられたくないというかなんというか」

 俺も、その気持ちわかる。家が花屋だから。
 男なのに花屋なんて、っていう言葉はまあ聞き飽きた。それよりも、「家の手伝いやらされるのが大変だよな」とか「遊ぶ時間なくて可哀想」なんて言葉が許せねえ。それを決めるのは、お前じゃなくて俺だ、って何度思ったことか。

 そっか、鈴木もそう思ってたのか。
 ってことは、もしかして俺ら相性良いのでは!?
 告白、受けてくれるって流れか!?

「私、眞田くんとは付き合えない」
「……そっか」
「うん。好きな人がいるんだ」
「……青葉か?」
「……うん。これも、内緒ね」
「わかったよ。言わな「でもね」」

 だよな。
 やっぱ、青葉は特別だった。

 俺の目から見ても、鈴木と青葉はお似合いだ。顔が良いとか外見の話じゃなくて、内面がお似合いだ。
 俺なんかより、ずっと。

 鈴木は、俺の返事に被せて口を開く。そして、

「でもね、眞田くんとは……その。仲良くしたいというか。付き合えないんだけど、これからも普通に会話とかしたいって言うのは難しいかな」

 と、こっちを向きながら言ってきた。

 え? 待て待て。
 鈴木に告って、そんなこと言われたやつ居ねえぞ。みんな、「ごめんなさい」までだったぞ。
 どう言うことだ!?

 俺は驚いて、膝の上に置いてあったキャンバスの上を転がる鉛筆を受け止められなかった。鉛筆は、そのまま芝生の上に落ちていく。

「……それって」
「私、好きですって告白されたの初めてなんだ。今まで「付き合ってください」ばっかりで、気持ちよりも私と付き合うっていうのが目的になってるというかなんというか。もちろん、中には気持ちがある人もいるだろうけど、言ってこない時点で論外」
「……」

 確かに、鈴木と付き合えたら「~奢る」とか、「~円」とかやってるやついたな。俺は、そういうの嫌いでやってねぇけど。
 そうやって、遊びに使われるのって嫌だよな。

 論外って手厳しいけど、それって鈴木が真剣に向き合ってる証拠だと思う。そういうところも、俺は好きだ。

「でね、眞田くんは青葉くんとかマリとも仲良いし、これからも普通におはようとか言ったり、時間あったらみんなでクレープ食べに行ったりしたいなって私は思ってるんだけど……」
「……く」
「え?」
「全っ然行く! むしろ、行こう。家の用事ない日とかにさ。俺、美味しいクレープ屋さん知っててその」
「良かったあ。ありがとう」

 むしろ、こっちがありがとうなんだけど!!
 何この展開……。手の震えが止まんねえぜ。気づかれてねえよな。

 鈴木ってば、なんでそんな安心した顔してんだ? 俺の方が安心なんだけど。
 これって、これからも鈴木と話しかけて良いし、ラインとかもして良いってことだよな!?
 ……やべえ、今青葉とすげえ話してぇ。

 っと、鉛筆落としたんだった。拾わねぇと……。あ……。

「はい、鉛筆。……今話したこと、ここだけの話ね」
「話したこと……」
「家のことでいつも早く帰ってることとか、青葉くんのこととか」
「……良いけど。青葉のことは、本人に言わねえのか?」
「言わないよ。青葉くんのトラウマを深くしたくない。もし、克服できたら、その時は……」
「……そっか。応援くらいは、させろよな」
「ありがと」
「こちらこそ」

 俺は、鈴木が拾ってくれた鉛筆を受け取りながらお礼を言った。

 ……2人とも、良いやつ。これで妬んでたら、俺はすげー嫌な性格の人だ。
 でも、どっちも相手のこと大切に思い過ぎ。これは、すれ違い多発案件だぞ。

 青葉も鈴木も、お互いのこと好きだって知ってるのって俺だけだよな。
 さっき、告るってラインきてたけど、いつ告るんだ?

「あ、チャイム。どこまで描けた?」
「え? ……桜の木とベンチまで」
「うわ、絵上手なんだ!」
「え、あ、ありがとう」
「すごい! 桜の木だ!」
「……お、おう」

 鈴木の絵を覗くと、なんだかよくわからないものが描かれている。
 ……うん。鈴木は、絵が芸術的いや、「前衛的」っていうのも新情報だな。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

踏み台令嬢はへこたれない

三屋城衣智子
恋愛
「婚約破棄してくれ!」  公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。  春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。  そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?  これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。 「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」  ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。  なろうでも投稿しています。

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

処理中です...