116 / 247
10
最後まで騒がしい一家
しおりを挟む次の日の朝。
「青葉くん、ノート忘れてる」
今日は期末テスト初日!
放課後は、マリたちとテスト勉強の追い込みをやるの。双子のお迎えはパパにお願いしたし、ゆっくりできるわ。
だから青葉くんと居られるのも、朝のうちだけ。
「あ、ごめん! ありがとう」
……なんか、しんみりしちゃうな。こうやって、青葉くんが家にいる姿見れなくなっちゃうから。
でも、テストはバッチリ。
たくさん勉強したし、今回は高得点狙えそう。目指すは、10位以内ってとこ!
だって、10位までに入れたら昇降口前の掲示板に名前が載るから。
「後は忘れ物ないかな」
「あ、数学でコンパス使う」
私は、リビングで青葉くんと一緒に持ち物チェックをしていた。
双子は既に、学校へ行っちゃった。お母さんとパパは居るけど。
「忘れてた! 青葉くんは持ってる?」
「持ってる」
「そういうのは、夜のうちにやるのよ」
「はあい」
お母さんの言葉に返事をしつつ、私はソファの上に投げ出されていたコンパスをカバンに入れる。
色々ありすぎて、昨日はスマホを充電するだけで精一杯だった。
だって、青葉くんとひとつ屋根の下で寝るとか! 寝顔見に行こうと思ったんだけど、流石に嫌われそうだから止めたの。……ああ、見たかったな。こんなチャンス、もうないのに。
「あ! 鈴木さん、定規も必「青葉くん」」
「は、はい!」
青葉くんが何かを伝えようとしたのに、パパがそれを遮ってくる。怒ろうとしたけど、その前になんだか話し始めちゃったわ。
「青葉くん、うち全員鈴木さんなんだ。誰が呼ばれてるのかわからないぞ」
「えっ」
「下の名前なら、みんな違うからわかりやすいな!」
待って、パパ!
それって、青葉くんに私のこと名前で呼ぶように言ってくれてるの!?
嘘! 青葉くんが、私の名前呼んでくれるってこと?
たまには良いことするじゃないの、パパ!
「えっと、じゃあ……」
青葉くんが、「梓」って呼んでくれる?
それとも、ひかるみたいに「あず」とか?
この際、「あーちゃん」でも「あっちゃん」でもなんでも良いわ!
私は、筆入れの中に定規が入っているか確認しながらも、青葉くんの声に全神経を集中させた。すると、
「じ、じゃあ、……あ、あず。あずs「だから、僕のことは透くんと呼びなさい」」
あああああああああ!! 台無し!!!
ちょっと尊敬したら、コレよ! 慣れないことはするもんじゃないわ!
「イテッ! な、なんだ梓ちゃん。痛いじゃないか」
「パパのバカっ!!!」
「イテッ、イテッ!」
「もー、遅刻するって言ってるでしょう」
私がパパに向かってローキックをかましていると、それを見た青葉くんとお母さんが笑ってきた。
「そうだね。鈴木さん、そろそろ行こうか」
「……うん」
そうね。
最後の日は、このくらい明るくいた方がいいよね。
あーあ。名前、呼んで欲しかったな。
「……お母さん、パパ。頑張ってくる!」
「えぇ。テスト、回答欄ミスに気をつけてね。パパ?」
「……パパ?」
「おい! 昔の話を掘り返すな!」
「……やったことあるのね」
「おい! 青葉くんに笑われたじゃないか!」
「わ、笑ってませっふふ……」
「笑ってる!!」
パパってば、結構おっちょこちょいなんだ。私も気をつけないと。
笑い事じゃなくなったら大変。
私と青葉くんは、お母さんとパパに見送られて玄関を出る。
「五月くん、忘れ物は大丈夫?」
「はい。確認したので、大丈夫です」
「梓は?」
「大丈夫!」
「どれ、パパが頑張れのギューを「行ってきまーす」」
させるわけないでしょう!
そんな顔したって、絶対にさせないんだから!!
私に拒否されたパパは、あろうことか青葉くんの方を向いている。……この流れ、どこかで見たわね。
「青葉くん」
「は、はい」
「……青葉くん」
「…………はい、透さん」
「頑張れのギューをし「はいはい、青葉くん。行こうねー」」
やっぱり!!
油断も隙もないってこのことね。
私は、青葉くんの手を掴んで無理やり外へと連れ出す。お風呂みたいには、させないんだから!
「行ってきまーす」
「お邪魔しました」
「行ってらっしゃい、梓、五月くん」
「……」
「……?」
お母さんの声に、青葉くんがピタッと止まってしまった。後ろを振り向くと、少しだけ頬を染めて嬉しそうにする青葉くんが。
今まで見たことがないくらい幼い顔をした彼は、お母さんとパパの方を向いて、
「行ってきます」
と、なんだか泣きそうな声を絞り出していた。
それを見たお母さんとパパは、嬉しそうな顔をしている。……なんだろう?
「青葉くん、遅刻する」
「あ、うん! 行こう」
「……あ」
手を繋いでいることに今更ながら気づいた私は、振り解こうと手の力を抜いた。
でも、青葉くんは私の手を離さない。
そっか、最後だから優しくしてくれてるのかな。
今日だけだもんね。今だけ、この手は私が独占できるんだ。
「青葉くん、今日も暑いから水分ちゃんと摂ってね」
「うん。ありがとう」
テスト、頑張れそうだわ。
0
お気に入りに追加
55
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。
捨てられた王妃は情熱王子に攫われて
きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。
貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?
猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。
疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り――
ざまあ系の物語です。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる