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憧れの「セイラ」
しおりを挟む「こんにちは、セイラです。本日は、プラネットのイベントにお越しくださりありがとうございます!」
ひゃー、顔ちっちゃい!
肌、どうやってお手入れしてるんだろう?すごく綺麗!
それにそれに!あの御御足!細いだけじゃなくて、形がもう芸術的!!
やっぱり、画面越しで観るのとは大違いね。何食べたらあんな風になるんだろう……。
「わあ……」
イベントが始まるとすぐ、ブースにセイラさんが現れた。真っ白なワンピースと赤いパンプスに身を包んだ彼女は、笑顔を振りまきながら私たちを見ている。
私の隣では、目をキラキラと輝かせたマリがセイラさんを見つめているわ。気持ち、すごくわかる。
「本当は、ここでドラマの宣伝やってこいって事務所から言われたのですが……。関係ないので、割愛します~」
え、こんなはっきり言っていいことなの!?
私は、セイラさんのぶっちゃけすぎる話を聞いて笑ってしまった。私だけじゃないわ、周りの人もみんな笑ってる。
軽い口調、コロコロと変わる表情は、あまり芸能人に興味のない私ですら虜にしてくるもの。そりゃあ、マリが夢中になるわけね。
「それより!プラネットの新作は、お手に取ってみましたか?」
セイラさんは先ほどの口調のまま、手に持っているネイル瓶を掲げて私たちに話しかけてくる。
その手も、細くしなやかで美しい。……本当、何食べたらこんな綺麗な人になるの?
「プラネットはその名の通り、惑星をイメージしたコスメがメイン!神秘的な宇宙、そこに散りばめられる無数の惑星を表現したデザインが豊富ですよね。私も、メイクさんにお願いしてアイシャドウをプラネットにしてもらっていますよ~」
へえ、メイクさんってそういう要望も聞くんだ。
青葉くんもそうなのかな。
というか、青葉くんもセイラさんのメイク担当とかすることあるのかな?
彼の仕事内容は聞いてるけど、どんな人にメイクするのかは聞いたことなかったなあ。雑誌かな、ドラマかな。それとも、ミュージックビデオとか?
……あ、でも、こういう現場って守秘義務多そう。公開前とかだと情報開示されないって、聞いたことがあるわ。
「私担当のメイクさん、ここにいるみなさんと同じ高校生なんですよ!私がプラネットを勧めたら、彼も気に入ってくれてね~。新作が発表される度にチェックしてるみたいです」
へえ。青葉くんのライバルかしら?
芸能界って、タレントさんもだけど私たちの年代の人も活躍できる場だよね。すごいなあ。
私もメイクできるけど、仕事にできるほどのウデも自信もない。だって、その人に似合うメイクとかわからないもの。
「……そんな、男女問わずに愛されるプラネット!今回のジェルネイルは、硬化時間の短縮、ネイルパーツの取れにくさ改善、発色改良がポイントです!これから、このブースにお試しコーナーができるから寄っていってくださいね~」
あ~。セイラさんが口を開く度、憧れが増してくる。
いいなあ、格好良い。
帰ったら、セイラさん出てるドラマとかCMチェックしよ。
「お試し行く?」
「行く!けど、サイン会とどっち先がいいかな」
「サインは結構並びそう」
「そしたら、サイン先にもらおうか」
「そうしよ!」
セイラさんのトークが終わると、お店の中はざわめきを取り戻す。
由利ちゃん、芸能人あまり興味ないって言ってたけど楽しんでる。セイラさんは、格別だもんね。
「……青葉くんも誘えばよかったかな」
「梓?なんか言った?」
「ううん。並ぼう!」
「行こ行こ~」
誘っても、チケットなかったし今回は仕方ないよね。
帰ったら、マリに何かお礼買わないと。そうそう、……お土産も買おうかな。
***
五月の教科書を借りて、勉強している時。
バイブ音が聞こえてきた。
スマホを確認したけど、オレのじゃない。ってことはだな。
「……梓から?」
「え、うん。なんでわかったの?」
「……顔」
「……」
梓から連絡が来たらしい。こいつ、こんなわかりやすいやつだった?
表情を柔らかくした五月は、スマホ見ながら何か文字を打っている。
「今から来るとか?」
「いや、俺の家教えたことないし来ないよ」
「へえ。呼べば良いのに」
「……やだ」
「なんでよ」
「……鈴木さんの家綺麗だから、俺の家見せるの恥ずかしい」
「いやいや、綺麗じゃん。物ないし」
「……鈴木さんちの綺麗さ舐めんなよ。毎日掃除機かけて、ほこりひとつないから」
「あー、小さい子どもいるもんな」
なんて会話中も、何やら嬉しそうに文字を打っている。
……どんな連絡が来たんだ?
オレは、親友の嬉しそうな顔を見ながら教科書に視線を戻した。
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