72 / 247
07
自分の意思はどこにあるの?
しおりを挟む「雅人と何かあったの?」
やっと落ち着いた私は、目の前にいるソラ先輩に話し始める。
「先輩には会ってないです。あの、私、やっぱりこういうことは止めようと思って……」
「……アズサちゃんと何かあったの?」
私って、わかりやすいのかな?
詩織にもすぐバレたし、ソラ先輩にもわかっちゃうなんて。
「……梓、泣いてたんです。それで、友達巻き込んでまでしたいことじゃないなって思って」
「あ、泣かせたの僕だ。ふみかちゃんもその場にいたの?」
「6限に……」
「じゃあ、すれ違ったんだ。僕は、その前に教室帰ったから」
「ソラ先輩、梓に……」
ソラ先輩は、私の質問にキョトンとした表情になった。なんか、びっくりしてるって感じに近いかな。
「……流石に、廊下ではしないよ。経験ないって言ってたから、見えるところにキスマ付けただけ」
「……?」
「ほら、雅人って初めての子と遊ぶの好きじゃん?巻き込まれちゃったらアレかなって思って、偽装しといた。泣かれちゃったけど」
「……」
ソラ先輩、私のお願いちゃんと聞いてくれてたんだ。勘違いして、責めなくてよかった。
……にしても、ソラ先輩って絶対そういう身体に残るようなもの付けないって聞いたんだけどな。なんで、梓には付けたんだろう。
「でも、僕が教室帰る時はもう泣き止んでたよ?」
「え……。でも、すごく泣いてて」
「なんでだろう。付き添い君居たでしょ?」
「あ、はい。橋下くん……あの、芸能人の橋下くんが居ました」
「え!?あれ、橋下奏だったの!?わかんなかった」
じゃあ、泣いてたのってソラ先輩関係なかったのかな。それとも、怖くて思い出し泣きしてたとか?
……梓って経験ないんだ。いつも早く帰ってるから、彼氏と一緒にいるんだと思ってた。純情なんだ、私と違って。
私はもう、汚れきっちゃってるから。
「……だから、もう止めたいんです」
「それは自由だからいつでも止めて良いんだよ。強制してるものではないし、学校側にバレたら大きなリスクあるし」
あれ、思った以上にあっさりしてる。
……私、もしかして飽きられてた?
なんか、それはそれで嫌だな。
「……ふみかちゃん」
そんなことを考えていると、ソラ先輩がなんだか悲しそうな顔をして話しかけてきた。
「ふみかちゃんにとって、セックスって何?」
「え……」
「僕にとっては、コミュニケーションのひとつなんだ。ほら、放課後友達とカフェしたりショッピングしたりと同じ感覚。……他の人の感覚とズレてるのはわかってるよ。でも、僕にとってはそれが普通で日常なんだ」
「……コミュニケーション」
「うん。だから、相手が恋人じゃなくても僕はできる。……ふみかちゃんは?」
「私は……」
……そんなの、考えたことなかった。
みんなしてるから。
私もしないと、遅れちゃうから。
経験しておけば、してない人より前に進んでるから。
じゃあ、私の意思は?
私は、ソラ先輩の言葉に気まずくなり視線をそらす。すると、
「……セックスはステータスじゃないんだよ。経験したから偉くなるわけじゃないし、相手が必ず手に入るわけでもない」
そう言って、私の手を握ってきた。
その手は、温かい。さっきまで背中をさすってくれた、温かい手。
その体温に、自分自身、雅人先輩のことが好きではないことに気づいてしまった。他の人としてるところを想像すると、すごく嫌な気持ちになっていることにも。
チグハグすぎる感情に追いつけなくなった私は、新しい涙を頬に伝わせる。
「最初に言わなくて、ごめんね。ふみかちゃんは、そういう遊びに向いてなかったんだ」
「……そう、みたいです」
「気づいてあげられなくて、ごめんね」
謝らないでください。
私は、その一言が出ずに、しばらくの間ソラ先輩の体温を感じながら泣き続けた。
***
私たち4人は、ケーキ屋さん「サクラ」に来た。
扉を開けると、見知った顔が店番をしているのが視界に飛び込んでくる。……なんだか、驚いたような顔してるわ。
「こんにちは」
「…………」
双子が早速ショーウィンドウを覗きあーでもないこーでもないとキャッキャしている中、私は店番しているエプロン姿の男子に声をかける。しかし、相手は瞬きもせずにこちらを見て固まっていた。
……何か喋ってよ。青葉くんも困ってるじゃないの。
「…………え、ちょっ、マ?え?」
「何よ」
「ええ……。嘘だろ」
「だから、何よ!」
「…………母さん!あずが男連れてきた!!あずが!!!」
「はあ!?」
目の前で固まっていた男子……幼馴染の桜田ひかるは、奥に繋がる扉を急に開けたと思ったらそんな言葉を大声で叫び出した。
ちょっと待ってよ!それは語弊だわ!
0
お気に入りに追加
55
あなたにおすすめの小説
【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?
との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」
結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。
夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、
えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。
どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに?
ーーーーーー
完結、予約投稿済みです。
R15は、今回も念の為
【完】貴方達が出ていかないと言うのなら、私が出て行きます!その後の事は知りませんからね
さこの
恋愛
私には婚約者がいる。
婚約者は伯爵家の次男、ジェラール様。
私の家は侯爵家で男児がいないから家を継ぐのは私です。お婿さんに来てもらい、侯爵家を未来へ繋いでいく、そう思っていました。
全17話です。
執筆済みなので完結保証( ̇ᵕ ̇ )
ホットランキングに入りました。ありがとうございますペコリ(⋆ᵕᴗᵕ⋆).+*
2021/10/04
えっと、幼馴染が私の婚約者と朝チュンしました。ドン引きなんですけど……
百谷シカ
恋愛
カメロン侯爵家で開かれた舞踏会。
楽しい夜が明けて、うららかな朝、幼馴染モイラの部屋を訪ねたら……
「えっ!?」
「え?」
「あ」
モイラのベッドに、私の婚約者レニー・ストックウィンが寝ていた。
ふたりとも裸で、衣服が散乱している酷い状態。
「どういう事なの!?」
楽しかった舞踏会も台無し。
しかも、モイラの部屋で泣き喚く私を、モイラとレニーが宥める始末。
「触らないで! 気持ち悪い!!」
その瞬間、私は幼馴染と婚約者を失ったのだと気づいた。
愛していたはずのふたりは、裏切り者だ。
私は部屋を飛び出した。
そして、少し頭を冷やそうと散歩に出て、美しい橋でたそがれていた時。
「待て待て待てぇッ!!」
人生を悲観し絶望のあまり人生の幕を引こうとしている……と勘違いされたらしい。
髪を振り乱し突進してくるのは、恋多き貴公子と噂の麗しいアスター伯爵だった。
「早まるな! オリヴィア・レンフィールド!!」
「!?」
私は、とりあえず猛ダッシュで逃げた。
だって、失恋したばかりの私には、刺激が強すぎる人だったから……
♡内気な傷心令嬢とフェロモン伯爵の優しいラブストーリー♡
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
愛のゆくえ【完結】
春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした
ですが、告白した私にあなたは言いました
「妹にしか思えない」
私は幼馴染みと婚約しました
それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか?
☆12時30分より1時間更新
(6月1日0時30分 完結)
こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね?
……違う?
とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。
他社でも公開
伝える前に振られてしまった私の恋
メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。
そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。
完結 この手からこぼれ落ちるもの
ポチ
恋愛
やっと、本当のことが言えるよ。。。
長かった。。
君は、この家の第一夫人として
最高の女性だよ
全て君に任せるよ
僕は、ベリンダの事で忙しいからね?
全て君の思う通りやってくれれば良いからね?頼んだよ
僕が君に触れる事は無いけれど
この家の跡継ぎは、心配要らないよ?
君の父上の姪であるベリンダが
産んでくれるから
心配しないでね
そう、優しく微笑んだオリバー様
今まで優しかったのは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる