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自分の意思はどこにあるの?

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「雅人と何かあったの?」

 やっと落ち着いた私は、目の前にいるソラ先輩に話し始める。

「先輩には会ってないです。あの、私、やっぱりこういうことは止めようと思って……」
「……アズサちゃんと何かあったの?」

 私って、わかりやすいのかな?
 詩織にもすぐバレたし、ソラ先輩にもわかっちゃうなんて。

「……梓、泣いてたんです。それで、友達巻き込んでまでしたいことじゃないなって思って」
「あ、泣かせたの僕だ。ふみかちゃんもその場にいたの?」
「6限に……」
「じゃあ、すれ違ったんだ。僕は、その前に教室帰ったから」
「ソラ先輩、梓に……」

 ソラ先輩は、私の質問にキョトンとした表情になった。なんか、びっくりしてるって感じに近いかな。

「……流石に、廊下ではしないよ。経験ないって言ってたから、見えるところにキスマ付けただけ」
「……?」
「ほら、雅人って初めての子と遊ぶの好きじゃん?巻き込まれちゃったらアレかなって思って、偽装しといた。泣かれちゃったけど」
「……」

 ソラ先輩、私のお願いちゃんと聞いてくれてたんだ。勘違いして、責めなくてよかった。
 ……にしても、ソラ先輩って絶対そういう身体に残るようなもの付けないって聞いたんだけどな。なんで、梓には付けたんだろう。

「でも、僕が教室帰る時はもう泣き止んでたよ?」
「え……。でも、すごく泣いてて」
「なんでだろう。付き添い君居たでしょ?」
「あ、はい。橋下くん……あの、芸能人の橋下くんが居ました」
「え!?あれ、橋下奏だったの!?わかんなかった」

 じゃあ、泣いてたのってソラ先輩関係なかったのかな。それとも、怖くて思い出し泣きしてたとか?

 ……梓って経験ないんだ。いつも早く帰ってるから、彼氏と一緒にいるんだと思ってた。純情なんだ、私と違って。
 私はもう、汚れきっちゃってるから。

「……だから、もう止めたいんです」
「それは自由だからいつでも止めて良いんだよ。強制してるものではないし、学校側にバレたら大きなリスクあるし」

 あれ、思った以上にあっさりしてる。
 ……私、もしかして飽きられてた?

 なんか、それはそれで嫌だな。

「……ふみかちゃん」

 そんなことを考えていると、ソラ先輩がなんだか悲しそうな顔をして話しかけてきた。

「ふみかちゃんにとって、セックスって何?」
「え……」
「僕にとっては、コミュニケーションのひとつなんだ。ほら、放課後友達とカフェしたりショッピングしたりと同じ感覚。……他の人の感覚とズレてるのはわかってるよ。でも、僕にとってはそれが普通で日常なんだ」
「……コミュニケーション」
「うん。だから、相手が恋人じゃなくても僕はできる。……ふみかちゃんは?」
「私は……」

 ……そんなの、考えたことなかった。

 みんなしてるから。
 私もしないと、遅れちゃうから。
 経験しておけば、してない人より前に進んでるから。

 じゃあ、私の意思は?

 私は、ソラ先輩の言葉に気まずくなり視線をそらす。すると、

「……セックスはステータスじゃないんだよ。経験したから偉くなるわけじゃないし、相手が必ず手に入るわけでもない」

 そう言って、私の手を握ってきた。
 その手は、温かい。さっきまで背中をさすってくれた、温かい手。

 その体温に、自分自身、雅人先輩のことが好きではないことに気づいてしまった。他の人としてるところを想像すると、すごく嫌な気持ちになっていることにも。
 チグハグすぎる感情に追いつけなくなった私は、新しい涙を頬に伝わせる。
 
「最初に言わなくて、ごめんね。ふみかちゃんは、そういう遊びに向いてなかったんだ」
「……そう、みたいです」
「気づいてあげられなくて、ごめんね」

 謝らないでください。

 私は、その一言が出ずに、しばらくの間ソラ先輩の体温を感じながら泣き続けた。

 

***



 私たち4人は、ケーキ屋さん「サクラ」に来た。
 扉を開けると、見知った顔が店番をしているのが視界に飛び込んでくる。……なんだか、驚いたような顔してるわ。

「こんにちは」
「…………」

 双子が早速ショーウィンドウを覗きあーでもないこーでもないとキャッキャしている中、私は店番しているエプロン姿の男子に声をかける。しかし、相手は瞬きもせずにこちらを見て固まっていた。
 ……何か喋ってよ。青葉くんも困ってるじゃないの。

「…………え、ちょっ、マ?え?」
「何よ」
「ええ……。嘘だろ」
「だから、何よ!」
「…………母さん!あずが男連れてきた!!あずが!!!」
「はあ!?」

 目の前で固まっていた男子……幼馴染の桜田ひかるは、奥に繋がる扉を急に開けたと思ったらそんな言葉を大声で叫び出した。

 ちょっと待ってよ!それは語弊だわ!


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