56 / 247
06
正義のヒーローは予想を裏切る
しおりを挟む「僕の名前は、牧原ソラ。君と友達になりたいんだ」
少し屈んで私と視線を合わせた牧原ソラ先輩は、無邪気そうな顔してそう話しかけてきた。
その表情は、警戒していたのがバカらしくなるくらい柔らかいもの。私は、無意識に入っていた肩の力を抜いた。
「……それは、どういう」
でも、言っている意味がイマイチわからない。
友達?
先輩なのに?
それに、急に話しかけてきてなんだっていうの?
「アズサちゃん、僕たちの間で有名なんだ。世話焼きのギャルちゃんって。だから、興味持って話しかけたって感じ」
「……お話、それだけなら帰ります」
なにそれ。
バカにしてるの?
水泳部の人もそうだったけど、私をなんだと思ってるんだろ。
私は、ここまで素直についてきたことを後悔した。
告白してくるってことは、それだけ覚悟決めて話しかけてきてくれたはず。だから、話だけでも聞いてあげないとあれじゃない?
そう思ったんだけど。
「ああ、もちろんそれだけじゃないよ」
牧原先輩は、帰ろうとした私の腕をとった。
振り解こうとしたけど、やっぱりスポーツ科ね。力が強い。
「……なんですか」
私は、少し不機嫌になりながら返事をする。
……だって、お腹空いたし。八つ当たりしたっていいじゃないの。
「遠回しな聞き方嫌いだから率直に言うね。アズサちゃん、処女?」
「はあ!?」
ちょっと!初対面の人になんてこと聞くの!?
しかも、誰か聞いてるかもしれない廊下でする話なの!?
「あはは、顔真っ赤。可愛いね、アズサちゃん」
「……離してください。戻ります」
いけない。
こういう人には、あまり反応しない方が良いんだった。
……にしても、なんなのこの人。
経験、あるわけないじゃない。なんで、教えないといけないの。
こんなストレートな人、今までいなかったからどう反応したら良いのかわからないわ。
それより私は、早く帰りたかった。
こんな時間かかるって思ってなかったわ。みんな、先にご飯食べてると良いんだけど……。
「アズサちゃん、噂よりずっと真面目ちゃんなんだ。もっと遊んでるかと思った」
「……お昼、終わるのでもう良いですか」
「良いよ。でも、これだけはさせてよ」
「!?」
牧原先輩はそう言うと、私の身体を引き寄せて抱きしめてきた。
それは、青葉くんにされたことと同じなのに、どこまでも私に不快感を植えつけてくる。
体温も、腕の力も、何をとっても気持ち悪いものだった。
これは、何?
「ちょっと……何を」
「んー?僕、アズサちゃんのこと気に入っちゃった。本気で狙っても良い?」
「やだ、やめてっ……くださっ」
「力、結構強いんだ。何か鍛えてるのかな」
「……だ、誰か」
「誰も来ないよ。お昼だと、ここ誰も通らないんだ」
「そんなことって……」
いくら力を入れても、ビクともしない。
でも、身体が締め付けられる痛みはない。多分、この先輩は慣れてるんだ。
私の感情は、イラつきから次第に恐怖へと変わっていく。
「ちょっと強引すぎたね。ごめんね、アズサちゃん」
「わかってるなら、離してくださいっ……」
「だって、離したら逃げちゃうでしょう?」
「っ……」
「予約だけさせてね」
牧原先輩は、そのまま私のワイシャツの第二ボタンをサッと外し、首付近に顔を近づけてきた。
その流れるような「作業」に、私は抵抗をするという思考が停止する。
「い、痛い!」
すると、首筋に鋭い痛みを感じた。
首筋に針を刺したような、そんな感覚がやけに大きく身体に響く。
「や、やだ!やだっ……離して!」
その感覚に耐えられなくなった私は、堪えていた涙を頬に落としてしまった。
誰か、誰か。
助けて。
誰でもいいから。
「無理やりごめんね。もうこれ以上はしないから」
「嫌だ、嫌だ……助けて」
一回崩壊した涙腺は、止まらない。
嗚咽も混ざり、私はパニックに近い心境に落ちていく。
「……離せよ。嫌がってんじゃん」
その時、後ろから見知った声が聞こえてきた。
でも、その声は私が歓迎するにはちょっと難しい人物のもの。
「……橋下くん?」
そうなの。
振り向くと、後ろにはなぜかいつもと違う髪型をした橋下くんが、息を整えるように呼吸しながらこちらを睨んでいた。
0
お気に入りに追加
55
あなたにおすすめの小説
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
真実の愛を見つけた婚約者(殿下)を尊敬申し上げます、婚約破棄致しましょう
さこの
恋愛
「真実の愛を見つけた」
殿下にそう告げられる
「応援いたします」
だって真実の愛ですのよ?
見つける方が奇跡です!
婚約破棄の書類ご用意いたします。
わたくしはお先にサインをしました、殿下こちらにフルネームでお書き下さいね。
さぁ早く!わたくしは真実の愛の前では霞んでしまうような存在…身を引きます!
なぜ婚約破棄後の元婚約者殿が、こんなに美しく写るのか…
私の真実の愛とは誠の愛であったのか…
気の迷いであったのでは…
葛藤するが、すでに時遅し…
王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~
由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。
両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。
そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。
王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。
――彼が愛する女性を連れてくるまでは。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。
とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」
成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。
「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」
********************************************
ATTENTION
********************************************
*世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。
*いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。
*R-15は保険です。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
【完結】婚約破棄の代償は
かずきりり
恋愛
学園の卒業パーティにて王太子に婚約破棄を告げられる侯爵令嬢のマーガレット。
王太子殿下が大事にしている男爵令嬢をいじめたという冤罪にて追放されようとするが、それだけは断固としてお断りいたします。
だって私、別の目的があって、それを餌に王太子の婚約者になっただけですから。
ーーーーーー
初投稿です。
よろしくお願いします!
※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる