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親友の夏バテは、オレが原因だったらしい
しおりを挟む五月は、駅近の高層マンションの屋上階に住んでいる。
父親は海外赴任、母親はいろんなマンション持ってるから、ここには滅多に来ないらしい。実質、一人暮らし。いいなあ、オレなんか実家しかないからロケがない限り親と顔合わせないといけないんだぜ。一人暮らししてぇなあ。
まあ、よくここへ泊まりに来てるけどな。
「五月~、来たぜ!」
「あがって」
マンション入り口で1102のインターホンを押すと、すぐに目の前の扉が開いた。
ところで、あいつ夏バテ大丈夫か?未だに女遊びしてねぇって言うし、現場のみんなが口々に「痩せた」って心配してたし。
一応、ポカリとゼリー買ってきたけど。食うかな。
コンビニのビニール袋を片手にオレは、そのままエレベーターへと向かった。
***
「……」
「…………」
目の前には、熱々のラーメン。オレの好きな味噌ラーメン。半熟味タマに、特製メンマとチャーシューが乗っててめちゃくちゃうまそう。
もちろん全部、目の前でニッコニコな表情を披露する五月の手作り。こいつ、一人暮らしだからか料理が女みたいにうまいんだ。いいお嫁さんになるよ、全く!
しかし、オレはそれにありつけない。
なぜなら……。
「で?鈴木さんに何したの?」
「……えっと、その」
激オコじゃん、五月。
オレがラーメンを食べようと手を伸ばしたら、すげー笑顔で目の前にあったどんぶりを持ち上げられた。オレの手には、箸だけがむなしく握られている。これじゃあ、食えねぇじゃんか。
「何したの?早く答えないと、麺がのびちゃうよ」
「……」
こわ。え、怖いんですけど。
こいつ、昔から怒るとクッソこえぇんだよな。
その肩から出てる刺青も、耳のピアスも、怖さに拍車をかけてくる感じ。わかるか、このオーラ?
現場からすぐ来たから、腹減ってるんだけど。ああ、匂いがやべぇ。
「……確かに話しかけました」
「で?」
「……五月に近づくなって話しかけました」
「ふーん。……で?」
「で?って……。それだけです」
「あーあ、麺がのびるなあ」
それだけじゃダメらしい。
五月は、未だにニッコニコな顔をして……いや、目だけ笑ってないな。すげー鳥肌が立つような顔して、オレの方を見ている。
「お前以外に考えられないんだよ。俺に近づくな、なんていうやつは」
「……オレは、五月がまた中学の時みたいに」
「何?鈴木さんがそんなことするような人に見えたの?」
「女はみんなそう見えるわ。オレ、別にその鈴木さんと親しいわけじゃねぇし。……お前が傷付く方が嫌なんだよ」
「だからって、泣かせるまでやる?」
「……は?どういうこと?」
泣かせる?オレが?
そんな強く言ったか?
オレは、静かに怒りながらどんぶりを持ち上げる五月とやっと視線を合わせた。……怖くて見らんなかったんだよ、今まで。
「だから、泣かせるまで言うか?って聞いてんの。俺のために言ってくれたのはわかるんだけど、それで鈴木さんがどれだけ傷付いたか想像しろ。役者だろ」
「……泣いてたのか」
「泣いてた。その後朝とメイク違かったし、俺避けられまくったし」
「……」
「こっちは理由わかんないし、変なことしちゃったかと思って色々悩んだんだよ!」
「……もしかして、お前食欲なかったのって」
なんだ、そうか。夏バテじゃねぇじゃん。オレのせいじゃんか……。
鈴木さんとやら、そんなに良いやつなのか?あんなギャル、そうは見えなかったけど。
「うっさ。お前には関係ない」
……でも、怖いです。いやほんと、怖いです。五月さん、顔も声も存在も怖いです。
そして、ラーメンのびる……。
「ご、ごめんなさい」
「それは、俺じゃなくて鈴木さんに言え!」
「は、はい……」
「今週学校来るよな?」
「……行かせていただきます」
今週オフの日あったっけ……。いや、なくても時間見つけて行かないとやべぇな。
五月が怒ってるのもアレだけど、その鈴木さんとやらを傷つけちゃったなら謝らないとな……。
「よし、食って良いよ」
なんだか、餌付けされてる気分。
でも、腹が減ってるオレは、文句を言わずにラーメンへと箸を伸ばした。
「い、いただきます」
「洗い物は自分でしろよ」
「はい、やらせていただきます!!」
オレは、やっと飯にありつけた。
「うま……」
「当たり前だろ」
あ、のびてない。
ってことは、これを見越して麺を茹でたな。……本当、五月は計算高くて怖いわ。
そして、未だに怒ってるのも怖いです、えぇ本当に。
「……」
……ん?もしかして、女遊びやめたのって、その鈴木さんとやらのせいだったりして?
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