上 下
44 / 247
05

また、あなたに近づける?

しおりを挟む
 

「…………!?」

 青葉くんは、ゆっくりと私の身体を包み込むように抱きしめてくれた。
 香水つけてるのかな、すごく落ち着く匂いがする。

「え、あ、あの……」

 驚いて顔をあげると、青葉くんの右肩が視界の下に見えた。刺青が、ちょうど私の肩に当たっている。
 よく見ると、すごく綺麗な模様だな。線が真っ直ぐ伸びてて、波?炎?デザインはなんだろう。

 ……あれ、近くで見ると刺青のところにいくつか大きな傷跡がある?前に怪我したのかな。もしかして、それを隠したくて刺青してるの?
 なら、聞かない方がいいよね。近付かないと気付かないな、これは。

 あ、それくらい私、青葉くんの近くにいるんだ。

「あ、青葉くん。近い……」
「泣き止んだら離しますよ」
「……もう大丈夫、です。ごめんなさい」
「こちらこそ、泣かせちゃってごめんなさい」

 抱きしめられたことと、その大きな傷跡のことで、いつの間にか涙は止まっていた。
 声をかけると、すぐに身体を離してくれる。そして、彼は優しく頭を撫でてくれた。……完全に子どもだと思われているわ。

「あ、あの」
「ねえちゃん、終わった!」
「お腹すいた!あれ?おねえちゃんたち居ない?」

 口を開こうとした時、リビングから要たちの声が聞こえてくる。
 私は、両手の人差し指で涙をサッと拭うと素早く立ち上がり、

「いるよ!もう完成したから、持っていく」

 と、いつもの声を心がけながら発言をした。

「わーい!」
「食べる!4枚切り~」
「ぼくは8枚切り!」
「あ、パン焼いてない!」
「俺、やりますよ」

 うん、気付かれてない。
 ……そして、パン焼くの忘れた。ご飯炊くのも。はあ……、嫌になる。

「あ、ありがとう……。食パンだけでいいですか?」
「はい!いただきます!」

 続けて、青葉くんも立ち上がった。
 そのまま彼は、カウンターに置かれたパンを持ち、トースターの方へと歩いて行ってしまう。

「何枚食べるかな?」
「ぼく、3枚!」
「わたしは1枚」
「わかった、焼くね。鈴木さんはどうしますか?」
「あ、えっと……」

 今更ながら恥ずかしくなった私は、しどろもどろになりながら青葉くんの視線を受け止める。
 勝手に泣いたのも、急に抱きしめられたのも、思考が追いつかない。……その腕の大きな傷跡のことも。

「8枚切り2枚……」
「わかりました。俺は、4枚切り1枚いただきますね」
「どうぞ。……ちょっと、焼くのお願いします。すぐ戻るから」
「はい、先に焼いていますよ」
「お手伝いする!」
「ぼくも!」

 私は、メイク直しをするため洗面台へと向かった。……また変なところ見られちゃったな。

 今日イチで、顔が熱い。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

冤罪から逃れるために全てを捨てた。

四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...