上 下
35 / 247
05

私の手に残ったのは、ドリンク1杯と一枚のレシート

しおりを挟む


「……こんにちは、鈴木さん」
「…………こ、こんにちは……?」

 聞いたことがある声だなと思って顔をあげると、そこにはあのド派手な見た目の青葉くんがいた。お店の可愛らしいエプロンを着て、こちらに向かって微笑んでいる。

「あ!にいちゃん!」
「おにいちゃんだ!こんにちは!」
「こんにちは、要くん、瑞季ちゃん」

 その展開についていけない私は、後ろに人が並んでいることを忘れて立ち尽くす。

 え、ここでバイトしてたの?
 みんな注目してた店員さんって、青葉くんのことなの!?

「他にご注文はありますか?」
「……あ、えっと」
「ねえちゃん、ミルクティとチーズフォームだって!」

 慌てる私に代わって、要が背伸びをして注文をしてくれた。その隣の瑞季も、嬉しそうに背伸びをして青葉くんを見ている。
 気まずくなった私は、どんな表情をすれば良いのかわからず、ただただ青葉くんの嬉しそうな表情を見ていることしかできない。
 彼、要が喜んでる時の顔とそっくり。

「かしこまりました。氷や甘さ、サイズも選べますよ」
「あ……。マンゴーミルクティが氷少なめで、イチゴミルクが甘さ4、他は全部普通で……」
「おねえちゃんのは甘さ最高でしょ?」
「えっと、その」
「甘いもの、好きなんですか?」
「……好き、です」
「一緒だ、俺も好き。ミルクティは、甘さ5で作りますね。……お会計、税込み1,800円です。少々お待ちください」

 ……あれ、青葉くん痩せた?

 私は、他の店員さんと一緒に注文した商品を作る彼の後ろ姿をボーッと見ながら、さらに細くなった気がする足を見ていた。スキニーはいてるからかも。
 でも、顔色も少し悪かった気がする。夏バテかな。彼、相変わらず学校ではセーター姿だし。

「にいちゃん、最近うち来ないと思ったらここにいたんだね」
「またおにいちゃんと、ご飯食べたい!」
「……そうね」

 ご飯、食べられてないのかな。
 確かに、暑いのにセーターは身体壊すよね。一昨日も、マリが見てて「暑苦しい!」って文句言ってた。

 にしても、手際いいなあ。慣れてるのかな。
 マンゴーって、ああやって切るんだ。種が入ってるなんて、知らなかった。

「ねえちゃん、お金」
「……あぁ!そうね、忘れてた」

 無意識に青葉くんの姿を追っていた私は、要の言葉でハッとしてトレイの上にお金を2,000円置く。危ない、危ない。
 すると、すぐに青葉くんが戻ってきた。

「お待たせしました。3点、どうぞ」
「ありがとうございます……」
「わーい!」
「ちょうだい!」
「おつり、200円です」

 飲み物とお金を受け取ると、青葉くんが続けてレシートを手渡してくれた。
 子どもたちは、各々飲み物を持ってはしゃいでいるわ。
 
「ありがとう」
「ここの、甘くて美味しいですよ。楽しんで」
「は、はい……」

 レシートも受け取った私は、青葉くんの笑い顔を見て胸が苦しくなった。やっぱり、彼、痩せた。すごく、痩せた。

「……あ、あの」
「なにか」

 ダメ。
 言っちゃダメ。

 「忠告」されたでしょう?傷つくって。
 あの時のこと、忘れたの?

「あの、余計なお世話かもしれないですけど……。その、ご飯」

 思考と口から出てくる言葉が一致しない。
 自分でも、なにを言ってるのかわかってない。
 でも、放っておけなかった。

「ご飯?」
「ご飯、食べられてないのかなって思って」
「……」
「あの、今日アサリ入れたシチューなので、よかったらその」
「ねえちゃん!早く行こう!」
「おねえちゃん、後ろならんでるから!」
「あ……。なんでもないです」

 私は、既に列から離れている要たちの言葉で我にかえり、喉元まで出た言葉を飲み込んだ。

「これ、いただきます。バイト、お疲れ様です」

 確かに、まだまだ並んでる。
 周り考えないで、なにしてんだろう。

 なんだか申し訳ない気持ちになりながら、自分のドリンクを手に取り子どもたちの方へ行こうとした。

「……鈴木さん」

 その時、青葉くんの言葉が私を引き止めてくる。

「鈴木さん、今日バイト17時までなので……」
「……」
「行きたいです、夕飯。買い物は行けないけど、一緒に作ります」
「……」
「レシートの裏見て、良かったら連絡ください。返します」
「……」

 レシートの裏?

 予想外の言葉に固まった私は、返事ができなかった。青葉くんは、軽く会釈するとそのまま、次の接客へと向かって行く。

「……これって」

 言われた通りレシートの裏を見ると、なにかのIDと名前が書かれていた。

 これって、青葉くんの連絡先……?


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!

友坂 悠
恋愛
あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください。 そう置き手紙を残して妻セリーヌは姿を消した。 政略結婚で結ばれた公爵令嬢セリーヌと、公爵であるパトリック。 しかし婚姻の初夜で語られたのは「私は君を愛することができない」という夫パトリックの言葉。 それでも、いつかは穏やかな夫婦になれるとそう信じてきたのに。 よりにもよって妹マリアンネとの浮気現場を目撃してしまったセリーヌは。 泣き崩れ寝て転生前の記憶を夢に見た拍子に自分が生前日本人であったという意識が蘇り。 もう何もかも捨てて家出をする決意をするのです。 全てを捨てて家を出て、まったり自由に生きようと頑張るセリーヌ。 そんな彼女が新しい恋を見つけて幸せになるまでの物語。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

私が死ねば楽になれるのでしょう?~愛妻家の後悔~

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢オリヴィアは伯爵令息ダーフィトと婚約中。 しかし結婚準備中オリヴィアは熱病に罹り冷酷にも婚約破棄されてしまう。 それを知った幼馴染の伯爵令息リカードがオリヴィアへの愛を伝えるが…  【 ⚠ 】 ・前半は夫婦の闘病記です。合わない方は自衛のほどお願いいたします。 ・架空の猛毒です。作中の症状は抗生物質の発明以前に猛威を奮った複数の症例を参考にしています。尚、R15はこの為です。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

処理中です...