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夏バテにはまだ早い

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 今、何時だろ?
 私は、背伸びをしてベッドから起き上がった。

「五月くん、ありがとー。楽しかった」
「良かった」
「私、五月くんじゃないともうイけないかも」

 隣で私の服を手渡してくれてるのは、現場でよくメイク担当してくれる五月くん。すっごいイケメンなの。

 もうこうなって何回目だろ?お互い未成年だから、こうやって一人暮らしの友達の家借りて会ってるんだ。かなり前にダメ元で誘ったらOKくれてね、それからかな。この関係は。
 一応、これでも私ってモデルなんだよね。カリンって芸名で活動中!スタイルだけは自信ありなんだ!

「俺なんかで良ければいつでもどうぞ」
「嬉しいー。彼氏が下手くそでさ。全然ストレス発散できないから五月くんいると安心する」
「…………彼氏いたの?」

 あれ、言ってなかったかな?でも、お互い様よね。
 だって五月くん、他の人ともこういうことしてるって聞くし、誰に聞いても絶対キスだけはしないらしいし、ピル飲んでるって言ってもゴムは必ず付けるし。
 結構遊んでるみたいだけど、それって本命がいるってことだよね?あーあ、本命の彼女さんが羨ましい!それくらい、彼はなの。

「いるよ。極小のね!」
「……そう」

 ああ、そうだ。時間時間。この後、現場があるんだった。5月下旬は、毎年ゴールデンウィークのせいで仕事ツメツメ。嬉しいけど、疲れちゃう。

「じゃあ、先に行くね」
「片付けはしとく」
「ありがとう~。鍵はいつものところにお願い」
「うん」

 五月くんって、本当優しい。
 同じ学校に通いたかったなあ。


***


「五月ー、元気か?」

 そろそろ6月が終わろうとしていた。
 これから、もっと暑くなるだろうな。

 でも、撮影は真冬にリリースされるものばっか。昨日なんか、オーバーオール着てあっついビル風に吹かれて撮影してきたわ。死ぬかと思った。今日はスタジオでよかったよ。

「……おはよ」
「はよー。元気ねぇじゃん、どうした?」
「……別に」
「……また痩せたんじゃねぇの?」
「食欲なくて」

 珍しく先に控え室へ入っていた五月は、黙々とメイクブラシをテーブルの上に並べていた。大小揃えて置いてあるところ、こいつの性格出てるよな。ファンデもアイシャドウも色別にしてあるし。

「ここ2週間、女と遊んでないんだって?ミカさんとかカリンさんとかがオレに愚痴ってたぞ、彼氏のじゃ満足できねぇって」
「……暑くて、それどころじゃない」
「なんだよ、季節関係ねぇじゃん。どうせ涼しいとこでヤッてんだろ?」

 こいつ、誰とでも寝るんだよな。自分からは誘わないんだけど、その顔で女の方から誘いが絶えないって。
 テクもあるらしいし、まあ納得。

「好きでしてるわけじゃない」
「女とシて、それは酷いんじゃね?」
「……そうだね、ごめん」
「……」

 ……前、女の誘い断ったら酷い目にあったことがあってな。オレもその場にいたんだけど、あれは部外者として見てても怖かったわ。
 こいつが断らなくなったのは、それから。人を傷つけるのが怖いんだと。同情はする。

 あー、にしてもいいご身分。オレがやったら、即週刊誌に掲載されちまう!

「もう、しない」
「マジでどうした?母親になんか言われたのか?」
「違うよ。千影さんは何も言わない」
「ふーん。……なんかあったら言えよ。前みたいに溜め込むな」
「……ありがとう。どうしようもなくなったら相談する」
「だーかーらー、そうなったらお前の場合遅いんだって!」

 こいつ、本当すぐ溜め込むんだ。オレが口煩く言わないと、いつの間にか引きこもりになって救急車に世話になるくらいまで弱るんだよ。

 ちょっとでも気分紛らわそうと紹介したドリンク屋のバイトは、楽しく通ってるらしいからいいけど。ほら、五月ってば甘いものには目がないから。

「あはは。毎回ごめん」
「謝んな。親友だろ?オレが辛い時は助けてもらってるんだから、お互い様」
「……うん」

 ここまでこいつが悩むってなんだ?
 また女関係か?妊娠させたとか?
 でも、慎重なこいつに限ってそれはないな。

 ……そういえば、あの鈴木さんだっけ?とはどうなったんだろ。まさか、あれだけ忠告したんだから会ってないよな。五月のこと傷つけてたら許さねぇ。

「さて、そろそろ仕事するか。終わったら何か食いに行こう。何食べたい?」
「……餃子とスープと春雨サラダとご飯が食べたい」
「え、食欲ないのに重くね?」

 オレは、五月のぐったりとした後ろ姿を見ながら、撮影の衣装を手に取った。
 この辺、個室の中華料理あったかなあ。今日は奢ろう。


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