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5:心優しいキメラ少女、サツキ

2:春暁は歌で締めくくる①

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 ヒイズ地方、通称「和の国」。
 それは、どの地方にもない文化が栄えている独立した地域。着物や和菓子、独自の行事事など少し懐かしさを感じる風習が定着していた。
 お茶の作法や華道など、美を追求した見せ物も多くあり、観光客が来ても十分楽しめる場所になっている。そのためか、渡来人も多く行き交っていた。

「想像以上にすごい」

 都の雰囲気に飲み込まれそうになったゆり恵は、言葉を発してブレーキをかける。
 目の前には、吊るし雛と呼ばれる人形を赤い糸でつる下げたものがところどころに飾られていた。人形だけでなく、桜や小道具をモチーフにしたものも目立つ。風に揺れるそれを、好奇心いっぱいの目で追う3人。

「一度見てみたかったんだ」
「……本当、綺麗」

 まことと早苗も嬉しそうにキョロキョロと辺りを見渡す。どうやら、初めて来たようだ。感動もひとしおだろう。いつもならスマホのカメラを向けるところだが、それすら忘れるほど美しい光景に目を奪われている。

「……」

 それは、ユキも例外ではない。3人同様、静かに揺れる吊るし雛へと視線を向けていた。

「まずは、街探索しようか。2時間自由に歩き回って、どこに何があるのかを把握してきて。飯も適宜。できるだけ単独でよろしく」

 そんなチームメンバーに声をかける風音。行き慣れているのか、好奇心がないのか、さほど珍しそうではない。いつも通りの表情……と言っても半分以上ガスマスクで隠れているが……をしながら指示を出す。

「なんで単独?」
「チームで動いた方がよくないですか?」
「んー、1人の方が見えるものあるよ」
「ふーん」

 理由は教えてくれないらしい。
 ゆり恵の空返事に少々笑うと、

「2時間後、ここ集合でよろしく。遅れる場合は、連絡してね」

 と、ヒイズ地方の入り口にそびえ立つ龍の銅像を指差しながら言った。
 その銅像には、大きな水色の宝玉が光り輝いている。観光客の撮影スポットにもなっているようで、いつも人だかりができていた。

「はーい」
「行ってきます」
「行ってきます」

 と、元気よく街中に散っていくメンバーたち。その後ろ姿でも、楽しみにしている様子が伺えた。首を懸命に左右へ動かし、色々な景色を見ようとしている。それを見て、微笑む風音。
 しかし、全員が視界から見えなくなるとその表情が一変した。

「……」

 まるで、今から戦場にでも行くかのように鋭い視線で前を見据えている。そのまま中央へと足を進める彼のどこまでも冷たい表情は、「話しかけるな」というオーラを無意識に放っていた。故に、彼に近く人はいない。いや……。

「だめですよ」
「わっ!……なんだ、天野か」

 それを、いつもの白いワンピース姿の少女ユキが止めた。
 急な登場に驚いた風音は、素っ頓狂な声をあげながら前のめりになりつつ、かろうじて地面と対面せずに済んだ。そりゃあ、急に服を引っ張られればそうなる。
 少しだけ拍子抜けした顔で、後ろにいる彼女を見ていた。

「また調べ物ですか?寝ないと体力もたないですよ」

 ユキはここ数日、彼が調べ物に没頭していることを知っていた。まことの身辺調査をダラダラとしつつも、あの報告会の時の風音の様子がおかしかったので気にしていたのだ。ユキが追っているのにも気づかず、懸命になって資料を漁るその姿は彼らしくなかった。

「……わかってる」
「わかってない!何もわかってないです!」

 ムスッとしてる彼の手を引きながら、話を受け流す。前回見た時よりも、クマがひどい。ユキは、どうにかしてあげたかった。
 なぜ、そこまでキメラに執着するのか。彼の過去を知っている訳ではないし誰かに聞こうとも思わなかったが、ユキは知りたかった。
 それは、彼の口から聞かないと納得できないだろう。とはいえ、無理やり聞き出すこともしたくない。

「え、ちょっと。どこ行くの」
「こっちです」

 と、回答になっていない。
 風音の手を掴むと、どこか行く場所が決まっているのかしっかりとした足取りで歩き出す。

「……先生が知りたいこと、私が知ってるので今は休んでほしいです」
「……」
「ザンカンで助けてもらったお礼、です」
 
 囁き声で話しかけると、彼には聞こえたらしい。歩きながらも後ろを振り向くと、先ほどよりは眉間のシワがなくなった彼が見える。

 それから無言で、5分は歩いただろうか。ユキは、路地裏を通り抜け少しだけ大きな通りにある一軒家の前で立ち止まった。そこは、周辺の中では一番大きなお屋敷のような場所。どこか「和」を感じさせるそこは、ヒイズの街並みにぴったりと収まっている。

「……天野?」

 状況がわかっていない風音が話しかけるも、ユキは無視して目の前にある家の引き戸を勢いよく開け放つ。スパーン!と良い音がすると、勢いが良すぎたせいか半分扉が戻ってしまった。

「あれ、滑りがよくなってる……」
「おかえりなさいませ、ユキ様」

 彼女が扉の下のレールを足でこすっていると、中から燕尾服に身を包んだ男性が姿を現す。

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