【完結】乙女ゲームの女主人公の兄なので、ちょっと僕を狙わないでもらえますか?

佑々木(うさぎ)

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第六章 約束

夜明け前

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■ここから2話はデューク視点です。
■過去のトラウマについて言及するシーンがあるのでご注意ください。
■本作は、この2話を以って完結となります。

++++++++++++++++++++++++++++++++

 二人の兄の記憶は、その2対の冷めた瞳から始まる。
 まったく見分けのつかない双子を前にして、私はただ怖かった。
 5つ年の離れた兄弟は、私に言葉をかけることもなく、一瞥しただけでその部屋を出ていった。

 それは、母が亡くなった日のことで、私は3つだった。

 双子の母は、女神のように優しかったという。
 だが、その母の愛情を子どもたちが受けることはなかった。
 双子を生んだと同時に亡くなったからだ。

 それから5年後。
 父王は侍女であった母との間に私をもうけた。
 だがその母も、産後の肥立ちが悪く、あっという間に亡くなってしまう。

 父は、死を悼み、世捨て人のようになった。
 国政からも離れて隠遁し、代わりに双子が担ぎ上げられた。
 王太子派と第二王子派に分かれ、激しい争いが起きた。
 それから、両勢力は互いに憎み合い、城内も2つに分かれた。

 私はその中に混ざることもできず、一人離宮に放置された。
 食事だけを与えられて、いわば見捨てられた形だ。
 だから、誰も来ない離宮の中で、やがて魔法で遊ぶようになる。

 ──『上手よ、デューク』

 記憶の中の母は、私と同じ水属性の力を使っていた。
 だから私も、息を吸うように水を扱えた。

 力を使って氷の人形を作ると、母は手を叩いて喜んでくれた。
 私の頭を撫で、頬に触れてキスをした美しい人。
 まるで氷のように煌めく綺麗な人は、それでいてとても温かだった。

 母に褒められた水の力。
 私は想い出の中の母と、日がな一日遊んでいた。
 上手くいかない時には本を開き、図解と文字を眺めて練習し続けた。
 そうして、私は本と魔法だけを友として、記憶の中の母と過ごしていた。

 そのまま一生を終えるかと思っていたが、兄が18になった年にすべてが瓦解した。
 王太子が成人し、自ずから国政を掌握し、政敵を一掃したのだ。

 これにより、私は初めて離宮から出ることを許された。
 時に私は13。城に連れて来られてから、10年の月日が経っていた。
 10年ぶりに前と同じ部屋で再会した兄は、私を見て眉を顰めた。

「まずは風呂に入れ。話はそれからだ」

 風呂に入り、久しぶりに髪を洗って手入れをされ、再び謁見の間に戻った時から、私を取り巻く世界は大きく変わった。
 それまで遠巻きに見ていた大人たちが、私に寄ってきたのだ。

「お美しい。母上によく似ていらっしゃる」
「ご覧になって。なんてきれいな瞳でしょう」

 口々に私を誉めそやし、いつしか場の中心にいた。
 双子の兄は、夜会や茶会に私を連れて行き、私はそこで初めて外の世界を知ることになる。
 人の手も声さえも母以外に知らなかった私は、突然たくさんの大人に囲まれて、人の温もりを知った。
 だが、その平穏も長くは続かなかった。
 私が、そのうちの一人に攫われたからだ。

「我が麗しの姫よ。どうか私めに貴方様の愛をお授けください」

 その男は、母に恋をしていたらしく、私を拐かした。
 母と私を同一視して、攫った私にドレスを着せた。
 奪い返されてしまわぬよう、誰の目にも触れさせず、男は私を自身の城に監禁した。

 男は、毎日のように想いを囁き、足下に跪いては愛を乞うた。
 言葉の意味は要として知れず、私はただ言われたままに頷くだけだった。
 ある夜、その男は私の髪にキスをし、身体に触れてきた。
 私はその瞬間、初めて他人に対して魔法を使った。

「テューク!」
「どこにいる!?」
「デューク王子!!」

 双子が兵士を伴って助けに現れたのは、私がその男を殺した後だった。
 部屋は血に塗れ、私は朱に染まっていたという。
 錆び付いた血の匂いが充満する部屋にあって、私はようやく自由を手に入れた。

 あの日、私は壊れたのかもしれない。
 断りもなく触れてこようとする者を、すべて実力で排除し、それに一切の憐憫を感じなかった。

 その結果、誰も私に寄りつかなくなった。
 誰もが自分の身が可愛い。それでも、第三王子という身分上、縁談は舞い込んだ。
 兄を通じて場を用意されようと、私に会えば間もなく破談となった。
 やがて、傍に寄るのは城の侍女くらいになったのだが、特に不便は感じなかった。
 人から視線を向けられる方が、むしろ鬱陶しい。
 私は人の中にあっても、離宮にいる頃と変わらずに独りだった。

 フォーシュリンドの魔法学院から入学案内が届いたのはその頃だ。
 フォーシュリンド王国。
 母が生まれた国。
 その国名に、私の心はざわついた。

「デュークが望むのなら、我々は何でも叶えよう」
「お前はどうしたい?」

 14になってから問われても、自分で選択する気力は失われていた。
 もうすべてがどうでもよく、希望など何もなかった。

 ただ、母の国には興味がある。

「フォーシュリンドに行きたい」

 私の答えを聞いた兄は、即学院に返事をした。
 翌年の春から、王立グリューン魔法学院に入ることが決まったが、私は別に魔法を学びたかったわけではない。
 ただ、母の祖国を見たかっただけだ。

 だが、学院は私に勉強を課した。
 入学までに自身で学び、本の内容をすべて覚えるよう通達されて、私はそれに従った。
 文字は読めたから、学ぶことは苦ではなかった。
 むしろ、やることができたことで、頭の中に蔓延っていた霧が晴れた気がした。

 15になり、学院の門をくぐった日から、私は自分の生きる道を見出した。
 学び、実践することの楽しさを知り、昼夜問わずに訓練に勤しんだ。
 私は、自分の中に学びに対する欲求がこれほどにあったとは思いもしなかった。

 入学してからというもの、すべての情熱を魔法学に注いだ。
 ファルコ・クラッセに入ったことで、私は初めて呼吸がしやすくなったと言える。

「いいね。僕は君のような子は好きだ」

 オーベリン先生がいない時には、イェレミーが私の魔法を見てくれていた。
 教えられることはなくとも、いつでも修練できるのは助かった。

 ある日、フォーシュリンドの王に呼ばれて、私は自身の役割を知ることとなる。
 遠回しの言い方でも、自分がなぜフォーシュリンドに呼び寄せられたのか理解した。
 決して魔法を学ばせたかったわけでも、母の祖国を見せたかったわけでもない。
 私は両国とっての人質として、この国に在ることを許されたのだ。
 いざとなれば、この王に殺されることになる。
 私は、それに気付かされて、命を惜しむことを知った。

 命を失う日が遠からず来るという感覚は、私の人生に意味を与えた。
 時が有限だと気付いた瞬間から、意識が変わっていったのだ。

 生きている限り、もっと学び、強くなりたい。
 フォーシュリンドにあって、アルヴェストの歴史や文化を知っていくうちに望みもできた。
 母の愛した国である2つの国を、私もまた愛するようになる。

「お前は変わったな、デューク」

 一時帰国した私を見て、兄は目を瞠った。
 そして、私の目を覗き込み、苦笑して頭に手を置いた。

「だが、まだ愛を知らないようだ」

 私は、国を愛し、母を愛している。
 他に愛など、必要ない。
 知りたくもない。
 一方的に向けられる愛は、鬱陶しく、面倒なだけだ。

 この身が欲しいのなら、婚姻相手に限ってはくれてやってもいい。
 だが、心を求めてこないでくれ。

 勉学以外はすべて煩わしく、唾棄すべきものに感じていた。
 私には時間がない。
 フォーシュリンド国王に殺される前に、自己を実現したい。

 不要なものを削ぎ落とし、学院で日々鍛錬を続けて過ごした一年後。
 私はクリスティアンに出逢うことになる。
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