【完結】乙女ゲームの女主人公の兄なので、ちょっと僕を狙わないでもらえますか?

佑々木(うさぎ)

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第六章 約束

アッシュベルト領

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 王都から西へ馬車で8時間ほど行った先に、アッシュベルト領はある。
 風魔法で飛べばもっと時間が短縮できたんだろうけれど、そんなに長く飛ぶ自信はない。しかも、セレスと荷物まで一緒に飛ぶことは、たとえ1時間でも無理だ。

「やっぱり遠いね」

 馬車の窓を開けて、セレスは白い息を吐く。
 だんだん街並みが変わり、高い建物がなくなって、林の中をひた走る。
 風景が変わらなくなると、退屈を感じるのも頷ける。

「せっかくだから、勉強でもしよっか」

 セレスはそう言って、一度はノートを広げたのだが、馬車酔いをしそうになって止めた。

「セレスは、本当に退屈が嫌いなんだね」

 そういえば、入学式でもこんな風に怠そうにしていたなと思い出して言うと、セレスはきょとんとした顔になる。

「当たり前じゃない。楽しくない時間なんて勿体ない。時間は有限なの」

 そう言って、また窓の外へ顔を突き出した。
 バイタリティに溢れる妹に感心し、僕も窓の外を見た。

 すると、遠くに高い塔が見えてくる。
 よく見ると風車が回っていた。

 途端に、ざっと頭の中に記憶が流れ込んでくる。
 あの風車の周りを駈けて遊んでいた頃のこと。
 強風にあおられて飛んで行ったセレスの帽子、追いかけて転んだ自分。
 心配して走り寄ってきた母。そして、拾い上げて高く帽子を掲げた父。
 そこから、風景の何もかもが色付き、懐かしさに溢れて胸に迫る。

 ここで、僕は生まれた。
 確かに僕には、その記憶がある。

 アッシュベルト領の城は、王城とは比べものにならないほどに小さいが、城壁は立派だった。大きな門の前には両親の姿があり、僕たちに向かって手を振っている。

「停めて!」

 御者に言って馬車を停めてもらい、セレスは走り出した。
 僕も馬車を降りて、セレスの後を追う。

「おかあさーん!」

 母の方でも、セレスに向かって走ってくる。
 僕はその姿に、胸が熱くなった。
 アップにまとめた金の髪、明るい緑の瞳。
 その額の形まで、セレスにそっくりだ。

「まったく、父さんのことは呼んでくれないのか」

 赤い髪をくしゃりと掻き、茶色い目を眇める父。
 セレスは笑って、父の方に抱き着いた。

「ただいま、お父さん」

 頭を撫でて笑う父に、母が寄り添う。
 僕は、間違いなくこの家族の一員だ。
 よそよそしさは、まるで感じない。
 これは、クリスティアンの記憶ではなく、僕自身の体感だ。
 僕はやっぱり転移ではなく、この世界に転生してきていた。

 僕は本当に、この両親の子どもとして生を受けた。
 それがわかった途端に、ふつふつと愛情が湧き上がった。

「おかえりなさい、クリス」
「おお、お前もいたのか」
「もう、お父さんったら」

 僕は、そんな三人を見ていて、胸がいっぱいになった。

「まずは、ごはんにしましょう」

 城の中に入ると、更に記憶は確かなものとなった。
 僕のよく知る執事や侍女、乳母にも再会した。
 食卓を囲みながら、セレスは学院のことを話し続け、僕は相槌を打ちながら食べ続ける。

「あなたたちは、変わらないわね」
「そんなことはない。大人の顔つきになってきている。なあ、クリス」

 自分の変化はわからないが、セレスが変わってきたのは僕にも感じられた。
 片田舎から出た、好奇心旺盛な少女から、心優しい一人の女性へと変わりつつある。

 食事を終えるとお風呂に入り、僕は早めに休んだ。
 走馬灯のように記憶が頭の中を駆け巡って、今はそれに浸りたかった。
 クリスティアンとしての人生が、ようやくすべて僕に繋がった。
 僕はその感覚に喜びを感じて、身体から力を抜いた。



 アッシュベルト領には五日間の滞在予定で、次の朝からはセレスと訓練を始めた。
 今までセレスには土属性の力は発現していなかったが、段々と力を感じるようになってきたという。

「試合をしていたら、いつの間にか使えるようになっているかも」
「それはどうだろうね」

 僕とイェレミーの試合の件もあるから、一概に否定はできない。
 可能性は無きにしも非ず。
 ただ、その力を引き出せるだけの相手に、僕がなれるかどうかが問題だ。

 僕とセレスは、順番に遮蔽をかけて摸擬戦を行い、互いの力量を測った。
 やっぱり、漠然と見ているだけではわからないことが、こうして対峙するとはっきりする。
 セレスの中で一番強いのは、水属性の力のようだ。
 4属性を持ち合わせていても、強弱は現れる。
 そして、僕にとっても水が一番使いやすく、慣れているように感じられた。

 それは、僕の目標が明確だからかもしれない。
 憧れの形がそこにある。
 焦がれて、目指してきた人。
 僕は、目を閉じて感傷を散じて、目の前の訓練に集中した。

 午前中は実技を、午後からは座学に勤しむ。
 休み明けには発表の順番が回ってくるということもあり、セレスは図書室で借りた本と格闘していた。

「すごいよね、クリスは。ちゃんと発表できていたもの」

 そう言って、机に突っ伏して、セレスは溜息を吐く。

「私も、氷魔法の攻撃について何か新しい提案ができるといいんだけどな」

 既にかなり研究しつくされている属性であり、新しい視点を見つけるのでさえ大変だろう。

「まずは、先行研究をしっかり読み込まないとね」
「それはそう。はー、頑張るしかないかあ」

 帰省しても、やることは変わらない。
 それが、僕たちらしくはある。
 両親は、特に口を出さずに好きなようにさせてくれた。
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