【完結】乙女ゲームの女主人公の兄なので、ちょっと僕を狙わないでもらえますか?

佑々木(うさぎ)

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第三章 結末

ダンスの誘い

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 ヴィオレッタ祭のすべての試合が終了し、暗くなった空に花火が打ち上げられた。
 色とりどりの花火を見上げながら、心に引っかかっているのは最後の試合だ。
 デュークはなぜ試合を放棄したんだろう。
 国王が姿を現したことと、何か関係がありそうだが。

 修練場の中でフィールドを見つめながら、人が退場していくのを待っていると、イェレミーが僕の隣に座った。

「いい大会だったね。次は、クリスティアン君も出るといいよ」

 一年後に再び来るヴィオレッタ祭。
 僕は、寂しい気持ちを抱きながらぽつりと呟いた。

「来年ですか」
「来年と言わず、トルネオは冬にもある」
「そうなんですか?」

 だが、たとえ今年の冬にあったとしても、間に合わない。
 ゲームの世界は、明日で終わりを迎えるからだ。

 明日の夜に、トルネオの優勝祝賀会を兼ねた、ダンスパーティが開催される。
 主人公であるセレスティーヌが、攻略対象の一人とエンディングにダンスを踊り、スタッフロールが流れて終わる。
 この世界がゲームと同一だとしたら、明日の夜ですべて終わりだ。
 その後どうなるのか、今の僕には何もわからない。

 僕は、人の流れに逆らわずに歩き、寮に戻って自室にこもった。
 時計を見ると、もう18時を回っている。
 今頃セレスの元には、攻略対象がダンスの誘いに行っているはずだ。
 攻略対象は、5人。
 アインハルト、デューク、フレディ、イェレミー、そしてオーベリン先生だ。
 このうちの一人か、二人か。それとも全員なのか。
 
 ダンスに誘われたセレスは、一体誰を選ぶのだろう。

 僕は机に向かい、本を読んで待つことにした。
 授業での発表前にトルネオが来てしまったため、もう準備をする必要はない。もっと言えば、魔法について学ぶことだって明日でなくなるわけだ。でも、だからこそ本を読んでおきたくなった。

 今のこの時間が、名残惜しい。
 いつか終わりが来るとわかっていても、まだまだみんなといたかった。
 魔法をもっと勉強し、トルネオに出られるようになったら、僕もみんなと戦ってみたかった。きっと、フィールドの外で見るのとは違う景色が、共に戦えば見られたはずだから。

 そうして、本を開いて、いつの間にか感慨に耽っていると、不意にドアがノックされた。

「はい、どうぞ」

 顔を現したのは、予想通りセレスだ。
 制服から着替えて、ワンピース姿だ。
 ゲームのパッケージで見たことのある衣装。
 この姿で、セレスは攻略対象から告白されていた。

「何を読んでいたの?」
「魔法の歴史についてだよ」
「あー発表の内容の本ね」

 セレスはそう言ってベッドに座り、今日の試合について振り返り始めた。

「デュークが手を止めなければ、勝っていたのかな」
「さあ、どうだろう」

 戦いに絶対はない。
 現に、デュークは負けたのだ。
 こうすれば勝てた、なんて気軽に言っていいことじゃない。

 セレスは尚も話し続けていて、僕は焦れてきた。
 ダンスについて話に来るはずなのに、なぜ触れないんだろう。
 僕はしびれを切らし、セレスに訊ねた。

「明日のダンス、誰かに誘われた?」
「誰かって?」

 セレスは首を傾げるだけで、僕の返事を待っている。
 どう聞けばいいのかと内心動揺し、僕は例を挙げた。

「ファルコ・クラッセのメンバーとか」
「誰も来なかったけど?」

 僕は一瞬意味がわからず、唖然として声も出なかった。
 セレスの方では、不思議そうに僕を見返している。

「誰も、来なかった……? ダンスに誘われなかったってこと?」
「そうだけど。驚きすぎよ」

 セレスは笑っているけれど、僕は笑えない。
 誰も誘いに来なかったということは、どのルートにも入れなかったということだ。

 もし今日中に誰にも誘われず、明日のダンスパーティーを迎えたとしたら──。
 カップリングが成立しなかったということで、ゲームはエンディングを迎えられず、プレイヤーは最初からやり直すことになる。

 それなら、時が巻き戻るのか?
 あの入学式から、再び始まると?

「クリス? どうしたの?」

 あまりにも想定外の出来事に、僕は打ちのめされていた。
 何がどうなるのか、まったく予測がつかない。
 これまでも、ゲームから多少逸脱したり、エピソードが盛り込まれたりしたことはあった。

 だが、これから起こりうることは、そんな簡単なものじゃない。
 存在の存続の危機だ。

 僕は呆然としてしまい、セレスが帰った後も何も手がつかなかった。
 それでも、時間は経過するし、お腹は空く。
 自分の腹の音に苦笑して、僕は立ち上がった。

 廊下に出たところで、お風呂上がりのアインハルトと行き会った。
 まだ機嫌が悪そうで、僕を見ても笑顔一つ浮かべない。

「僕はこれから食事にするけど、どうしますか?」
「俺も食べる」

 アインハルトは素直にそう言うと、僕と一緒に食堂に向かった。
 食堂にはフレディもいて、僕たちに気付くと手を上げた。

 傍に座って食事を始め、明日のダンスパーティーの話になった。
 学院の生徒だけではなく、来賓も数多く出席するという。

「明日は、俺の弟も来る」
「え、そうなんですか?」

 ゲームではそんな予定はなかったはずで、またシナリオの違いに気付いた。
 
「弟さんは何歳なんですか?」
「さあな」

 アインハルトはそれだけ言って、食後のティーを飲んでいる。

「弟は何人もいる。いちいち歳なんて覚えていられない」
「なるほど」

 王弟となれば、また立場上、普通の兄弟とは違った複雑な関係があるのかもしれない。
 突っ込んだことを聞けずにいると、フレディが思いついたように聞いてくる。

「そういえば、クリスはダンスは踊れるのか?」
「……どうなんだろう」

 曲が流れれば踊れるのか、それとも魔法同様からきしなのか。

「たぶん、踊れません」
「たぶん? 何だ、それは」

 アインハルトが眉根を寄せ、フレディが笑っている。

「そういうフレディは踊れるのか?」
「もちろん。剣術より簡単だ」

 ダンスと剣術を比較するのは、フレディくらいのものだと思うが。
 アインハルトなら、間違いなく優雅に踊れるだろう。
 ダンスが似合いそうだし。
 すると、アインハルトは、カップをソーサーに戻した。

「お前は、ベアトリスに誘われるかもしれない」

 ベアトリス。
 伯爵令嬢である彼女は、チアダンスでさえ上手だった。
 なら、社交ダンスはお手の物だろう。
 そんな人を相手に僕が躍るなんて。

「断ることは──」
「女性に恥をかかせるな」
「そこは、死ぬ気で踊らないと」

 二人は被せるようにそう言ってきた。

「……はい」

 力なく返事をするしかなく、そんな僕を二人はただ笑っていた。
 和やかないつもの食事風景だ。
 これもきっと、今夜が最後だ。
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