天才異能使いの穢れた侍は妖魔を断ち暗躍す

炭酸おん

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どうかしてる小説家

奇妙な儀式

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 事情を桜とお藤に説明した所、思った以上に快く承諾してくれた。曰く、「御茶之介先生の頼みなら断る訳にはいかないでしょ」との事。桜も一緒に行きたがってはいたが、怪異が起きている場所に自ら突っ込むという行動が許されるはずもなく。今回はお藤と共にお留守番という事になった。

 虎和と御茶之介は、駕籠(人を乗せて人力で運ぶ乗り物)に乗って村へと移動していた。

「それで、その村で行われてる『奇妙な儀式』っていうのは?」

「僕も人づてに聞いただけなんだけど、何やら数カ月に一度くらいの頻度で生贄が捧げられているらしいんだ。まぁ、それくらいしか分からないんだけど」

「……そんな事だろうと思って、調べてきたよ。久遠村は三年前から、年貢の徴収が上手くいっていないらしい。それ程に裏にいる妖魔が農民たちを支配しているのかも。もしくは、生贄だけじゃなく農作物も捧げられてるのかも」

 これらは虎和が城からこっそり持ち出した機密情報だ。駕籠を運んでいる人に聞こえないよう、小声で御茶之介に伝える。

「ふむ……少なくとも生贄を求めたり儀式を行ったりする辺り、相当な知能がありそうだな。それ程の強敵って事か……」

 知能が高い妖魔はほとんどの場合、比例するように強力である。御茶之介はその妖魔の強大さに怯えている……のではなく、嬉々とした表情を浮かべていた。

「強い妖魔か……実に良い! そんな強さの妖魔と対峙できるなんて中々無い経験だ! これは良い小説の題材になりそうだァ!」

「……やっぱり狂ってるわこの人」

 やはり小説の事しか頭にない御茶之介の狂い具合に、虎和は頭を抱える。果たしてこんな奴と共に怪異を解決できるのだろうか。

 ~~~

 しばらくして、目標の久遠村に到着する。

「ここが久遠村……見た感じは普通の農村だな」

「成程……これが農村の風景! 農村を訪れる事なんて中々無いだろうから今のうちに記録しておかなくては……!」

「そんな事言ってる場合じゃないでしょ。とりあえず村長に挨拶に行きますよ」

 村に入って早々にいつも通りに暴走しようとする御茶之介をなだめ、二人は久遠村の村長の元へと向かった。

「この村に来客とは珍しい……。保馬城の方から来られたのですね。わざわざご苦労様です。私はこの村の村長の竹永と言います。本日はどういったご用件で?」

「この村で行われている奇妙な儀式について———」

「俺は藩の者です。ここ数年、年貢の徴収が上手くいっていない事があるようですが、何かあったのですか?」

 あまりにも直球に聞こうとする御茶之介を押さえ、虎和が竹永に質問する。

「それが実は……三年前から鬼がこの村に住み着いて、生贄や農作物を要求するようになったんです」

 竹永は小声で語りだした。話しながら震えているその姿は、いかにその鬼が恐ろしいかを物語っている。

「鬼、ですか」

「はい。鬼は斑雷と言って、雷の妖術で村の戦える者達を一瞬で倒してしまいました。それからこの村は実質的に斑雷に支配されて、一カ月の頻度で生贄を一人と農作物を要求されるように……」

 鬼は妖魔の中でもかなり上位に位置する妖魔だ。位で言えば以前虎和が祓った煙ヶ羅と同格か、個体によってはそれ以上である。

「それがこの村で行われていた儀式の正体だったのか……。実に面白い。これは良い小説の題材に———」

「俺達は怪異を解決し、この村がまた健全に年貢を納めて生活を送れるような状態に戻すためにここに来ました。その斑雷という鬼、俺達が倒します」

 またもや無神経な事を言おうとする御茶之介を黙らせて、虎和が宣言する。それを聞いた竹永は感激し、涙した。

「お二人とも……ありがとうございます! 斑雷に支配されて三年、我々ももう限界です。明日が一カ月に一回の儀式の日なんです。なのでお二人には、そこで斑雷を討っていただきたい。……お願いします!」

「分かりました。人間を利用して利益を被る邪悪な妖魔は俺が許しません」

 決戦は明日。それまで虎和と御茶之介は竹永の家で泊めてもらう事になった。

「なぁ虎和君、どうして君はそんなに僕の言う事を遮るんだい? 流石の僕でも悲しいんだけど」

「それはあなたが無神経な事ばかり言おうとするからでしょ」
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