27 / 51
【天を見上げる戦乙女】
第027話
しおりを挟むー〈ランカイン侯爵軍〉ー
「ノルデンバウムの戦士達よ、聞け。其方等の大勇士《ネームド》“星石”アグラーハは、死んだ!」
互いの法技同士をぶつけ合った結果、アグラーハの降らせた流星雨はベルガンの巨大剣墓を打ち砕けず、反撃で振り下ろされた一撃により岩山ごと大勇士の身体は真っ二つに裂かれていた。
「これより俺はこの決闘の勝者としての権利を行使する! 異を唱える者在らば名乗りを上げよッ!」
誰の目にも決着は明らかで、あれだけの法力を放って尚もベルガンは両の足で大地を踏みしめ、決闘前から些かも衰えない闘気を漲らせていた。
「吾らノルデンバウムの戦士は“剣墓”ベルガンを神聖なる決闘、『聖戦』の勝者として認める」
「「「認める」」」
見届人となっていたノルデンバウムの戦士達と騎士達が姿を見せ、戦士の見届人がベルガンの勝利を宣言した。
それに続いて他の戦士達も唱和する。
「であれば、俺は其方等全員の命を貰い受ける事になるが、構わんな?」
それは実質、死刑宣告である。
決闘を見守っていた騎士がゴクリと唾を鳴らした。
「吾らノルデンバウムの戦士の誓いに二言は無い。権利を行使するというのであればそれを定めとして受け入れる」
「「「受け入れる」」」
戦士達は自軍の将であるアグラーハが斃れた時点で敗北を受け入れていた。そこには怒りも哀しみもなく、聖戦の勝者を讃える敬意だけがあった。
「ならば権利を行使する」
その覚悟に応える様にベルガンは淡々と続ける。
「未来永劫とは言わん。世代を跨げば考えを変える者も現れよう。…30年だ」
一瞬、意図を測りかねた戦士達と騎士達に動揺が走った。
「30年、北の民の世代一つ分の時間、其方等の命は俺が預かる。その間、北の民からの侵攻の一切を禁じる!」
それは戦争の、聖戦の勝者の宣言にしてはあまりにも小さな要求だった。
「“剣墓”ベルガンよ。『聖戦』の勝者よ。受け入れる側である吾らの言う事では無いとは承知の上で尋ねる。何ゆえ30年なのだ? 例え100年と言われようとも吾らはそれを受け入れざるを得ぬというのに。それでは吾らも生きている内にこの地へ再び侵攻する者が現れんとも限らぬが」
ドワーフの血を引く彼等は時の中で薄れたとはいえ人間より長い寿命を持っていた。
人間ならば30年も経てば力は衰え、戦いからは身を引いているだろう。
しかしノルデンバウムのドワーフは違う。30年後も戦士として前線に出られるだけの時間的な余裕がある。これでは決して勝者である人間側に有利な要求とは思えない。
「長過ぎる時を与えれば人は忘れる。かと言って短過ぎれば喉元を通った禍根を討ち果たさんと、人は深く意味を考えようとはしなくなる」
戦士の問いにベルガンは己の考えを語る。戦いの中でしか生きられなかった抜け殻の男の残滓を言葉にして紡ぎ出す。
「人は忘れる生き物だ。どれだけの時を経ても人の世から争いは消えぬだろう」
これはベルガンがかつて戦いの中で学び、悲嘆し、苦悩した人間の業(ごう)だ。
「人は考える生き物だ。それだけの時を得れば人の中から異なる考えも生まれよう」
これもベルガンがかつて生きてきた中で知り、惑い、懊悩した人間の道だ。
「“剣墓”ベルガンは吾らに考えよと申されるのか」
戦士達の誰かがそう呟いた。
「俺もいずれは死ぬ。勝手に己の余命を30年と定めたに過ぎん。それ以上長生をする気は無い。であるなら己の死後に備え、俺達もまた忘れぬ内に考えねばならん。そして考えに考えた末の答えを、次の世代に託そうと思うのだ」
「それが30年…」
結局の所、ベルガンは活きている間に答えなど出せなかった。だからせめて答えの出せなかった自分に替わり、別の可能性を指し示せる者の出現に懸ける事にしたのだ。
「郷へ帰れ、ノルデンバウムの戦士達よ。そして今一度考えよ、忘れぬ内に次の世代へと伝えよ。その答えは30年後、俺達の次の世代が聞き届けよう!」
ベルガンは希望を抱いていない。これがただの時間稼ぎである事も重々承知している。
だからこそ、人の世の行く末を決めるのは自分ではなく今の時間を活きている人間がするべきだと結論付けた。
「“剣墓”ベルガンよ。偉大なる大勇士《ネームド》よ! 吾らはそれを受け入れ、必ずや次の世代へと語り継ごう、命ある限り!」
「「「語り継ごう、命ある限り」」」
ベルガンには北の民がどう判断するのかに興味は無い。
約束を違えてすぐに侵攻を再開するかも知れない。
それでも構わなかった。
それが活きている者の決断であるならば、更なる戦を望むのであれば、彼はまた立ち塞がり剣を振るうのだろう。
振るえなくなる、その日まで。
◇◆◇
2
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
怨嗟の誓約
シノヤン
ファンタジー
世界の各地で猛威を振るう謎の犯罪組織「リミグロン」。そんな彼らに故郷を滅ぼされた戦士であるルーファンは、更なる力を求めると同時に全ての元凶に然るべき報いを受けさせるため旅に出る。幻神と呼ばれる強大な精霊の加護を受けて復讐を続けていくルーファンだったが、やがて自身に課せられた重大な運命と対峙する事になっていく。これは、奇妙な宿命と血塗られた連鎖の物語。
※小説家になろう及びカクヨムでも連載中の作品です。
クラス転移で神様に?
空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。
異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。
そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。
異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。
龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。
現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定
【書籍化決定】神様お願い!〜神様のトバッチリを受けた定年おっさんは異世界に転生して心穏やかにスローライフを送りたい〜
きのこのこ
ファンタジー
突然白い発光体の強い光を浴びせられ異世界転移?した俺事、石原那由多(55)は安住の地を求めて異世界を冒険する…?
え?謎の子供の体?謎の都市?魔法?剣?魔獣??何それ美味しいの??
俺は心穏やかに過ごしたいだけなんだ!
____________________________________________
突然謎の白い発光体の強い光を浴びせられ強制的に魂だけで異世界転移した石原那由多(55)は、よちよち捨て子幼児の身体に入っちゃった!
那由多は左眼に居座っている神様のカケラのツクヨミを頼りに異世界で生きていく。
しかし左眼の相棒、ツクヨミの暴走を阻止できず、チート?な棲家を得て、チート?能力を次々開花させ異世界をイージーモードで過ごす那由多。「こいつ《ツクヨミ》は勝手に俺の記憶を見るプライバシークラッシャーな奴なんだ!」
そんな異世界は優しさで満ち溢れていた(え?本当に?)
呪われてもっふもふになっちゃったママン(産みの親)と御親戚一行様(やっとこ呪いがどうにか出来そう?!)に、異世界のめくるめくグルメ(やっと片鱗が見えて作者も安心)でも突然真夜中に食べたくなっちゃう日本食も完全完備(どこに?!)!異世界日本発福利厚生は完璧(ばっちり)です!(うまい話ほど裏がある!)
謎のアイテム御朱印帳を胸に(え?)今日も平穏?無事に那由多は異世界で日々を暮らします。
※一つの目的にどんどん事を突っ込むのでスローな展開が大丈夫な方向けです。
※他サイト先行にて配信してますが、他サイトと気が付かない程度に微妙に変えてます。
※昭和〜平成の頭ら辺のアレコレ入ってます。わかる方だけアハ体験⭐︎
⭐︎第16回ファンタジー小説大賞にて奨励賞受賞を頂きました!読んで投票して下さった読者様、並びに選考してくださったスタッフ様に御礼申し上げますm(_ _)m今後とも宜しくお願い致します。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
国外追放者、聖女の護衛となって祖国に舞い戻る
はにわ
ファンタジー
ランドール王国最東端のルード地方。そこは敵国や魔族領と隣接する危険区域。
そのルードを治めるルーデル辺境伯家の嫡男ショウは、一年後に成人を迎えるとともに先立った父の跡を継ぎ、辺境伯の椅子に就くことが決定していた。幼い頃からランドール最強とされる『黒の騎士団』こと辺境騎士団に混ざり生活し、団員からの支持も厚く、若大将として武勇を轟かせるショウは、若くして国の英雄扱いであった。
幼馴染の婚約者もおり、将来は約束された身だった。
だが、ショウと不仲だった王太子と実兄達の謀略により冤罪をかけられ、彼は廃嫡と婚約者との婚約破棄、そして国外追放を余儀なくされてしまう。彼の将来は真っ暗になった。
はずだったが、2年後・・・ショウは隣国で得意の剣術で日銭を稼ぎ、自由気ままに暮らしていた。だが、そんな彼はひょんなことから、旅をしている聖女と呼ばれる世界的要人である少女の命を助けることになる。
彼女の目的地は祖国のランドール王国であり、またその命を狙ったのもランドールの手の者であることを悟ったショウ。
いつの間にか彼は聖女の護衛をさせられることになり、それについて思うこともあったが、祖国の現状について気になることもあり、再び祖国ランドールの地に足を踏み入れることを決意した。
NTRエロゲの世界に転移した俺、ヒロインの好感度は限界突破。レベルアップ出来ない俺はスキルを取得して無双する。~お前らNTRを狙いすぎだろ~
ぐうのすけ
ファンタジー
高校生で18才の【黒野 速人】はクラス転移で異世界に召喚される。
城に召喚され、ステータス確認で他の者はレア固有スキルを持つ中、速人の固有スキルは呪い扱いされ城を追い出された。
速人は気づく。
この世界、俺がやっていたエロゲ、プリンセストラップダンジョン学園・NTRと同じ世界だ!
この世界の攻略法を俺は知っている!
そして自分のステータスを見て気づく。
そうか、俺の固有スキルは大器晩成型の強スキルだ!
こうして速人は徐々に頭角を現し、ハーレムと大きな地位を築いていく。
一方速人を追放したクラスメートの勇者源氏朝陽はゲームの仕様を知らず、徐々に成長が止まり、落ちぶれていく。
そしてクラス1の美人【姫野 姫】にも逃げられ更に追い込まれる。
順調に強くなっていく中速人は気づく。
俺達が転移した事でゲームの歴史が変わっていく。
更にゲームオーバーを回避するためにヒロインを助けた事でヒロインの好感度が限界突破していく。
強くなり、ヒロインを救いつつ成り上がっていくお話。
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
カクヨムとアルファポリス同時掲載。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる