85 / 86
第二章 起業偏
第83話 功績者は?
しおりを挟む
大会議室に戻った慈愛とセイジを迎えたのは、留守番をしていたバルダ一家だった。すぐに慈愛はネフィリアの杖をいつもの場所に置いて仁と真那に通信を入れる手筈を整えた。
ネフィリアから発信された呼び出しに、わずか数秒で仁と真那は応答した。その迅速さは、彼らが通信を待ち構えていたことを如実に物語っていた。
慈愛は息を整え、すぐに第一声を発した。
「問題はすべて解決したのじゃ。神谷を含む反乱グループの収束に成功じゃ」
仁の顔に安堵の色が広がり、真那もホッと肩を撫でおろす。
「良かった!ありがとう慈愛。そしてセイジ」
「さすが慈愛とセイジ君。迅速かつ的確な対応に感謝します」
続いてセイジが一週間の成果として売り上げや利益の説明をおこない、最後に神谷の処遇について付け加えた。
「神谷さんには運搬作業の責任者として新しい役割を任せたよ。彼自身も反省の意を示したし、全力で取り組む決意を固めているから、もう安心だと思うよ」
その報告を聞いて、仁は静かに頷き慈愛の言葉を思い出していた。この反乱は試練。羽曽部食品が強固な塊となる為の試練だと。まさに慈愛の言う通りに今回の件で羽曽部食品の団結力は一層強固な物になっただろう。
そして以前、直属ではないが神谷の組織下である営業部に属する若手の3人が小田を襲った事件があった。もう二度とこんな事件を起こさない為にも、神谷は部下の不満を受け止めて反乱グループを組織したのではないだろうか。
全てを自身の支配下に置き、少なからず行動を抑制する事が、本来の反乱グループの目的ではなかったのかと。そう仁は考察していたが、すぐに考えを止めた。
「(まぁそれは考えすぎかな)」
仁は首を意味深に横に振ってスクリーンに視線を戻した。
それともう一つ、セイジに持ち帰ってもらった埃まみれのオブジェの結果を仁と真那は知りたがっていた。オブジェに装飾されている物が本物のテレッドかどうかをだ。
「よく見つけたな、わしも初めて見る大きさじゃ」
慈愛の言葉に仁と真那は顔を見合わせ大いに喜んだ。慈愛は発見した経緯を真那に尋ねた。
「なんとなくテレッドには他とは違う魔力を感じるのです。異世界に帰るのに必要な希少な鉱石だからかもしれません」
「なるほど、真那の能力にも驚かされるの。今後もテレッド探しに大いに役立ちそうじゃ」
真那のスキルは[魔法使い]ではない。本人には知らされていないが[叡智者]と言うレアスキルである。今回のテレッドを探し出せたのも、このレアスキルによるものかもしれないと慈愛は感じていた。
「任せてください!頑張ります」
真那の元気な返事に仁はふと彼女の横顔を見つめた。今回の成果は全て真那のお手柄だったと言っても過言ではない。仁自身は、マネキンの実演販売でもただそこにいるだけで、真那のフォローに助けられてばかりだった。大量の納品を無事に成し遂げられたのも、真那が契約書代わりにスマートフォンで録音していたからこそだ。そして、異世界へ帰るための鍵であるテレッドを発見したのも彼女の感覚によるものだった。
本日の通信も終わり、仁は口には出さなかったが、ただその瞳の奥に、真那への感謝と労いの色が浮かんでいた。
「仁?何か考え事ですか?」
真那がふと視線に気づき、柔らかい笑顔を浮かべて話しかけてきた。
「テレッドまで手に入ったのは仁のお陰ですよ。あの時、勇気を持って交渉に踏み切ってくれなかったら、こんなにうまく行きませんでしたよ」
仁は一瞬驚いた表情を見せた。自分の些細な行動を見逃さずに評価してくれる部下が、そしてその女性が傍にいることに、仁は心の奥底で深い感謝の念を抱いた。仁にとって真那の存在は、今まで以上に大きなものへと変化していた。
「よし!明日からも頑張るか!」
仁は大きく息を吸い込むと気合いを入れ直し、拳を力強く前に突き出した。真那もそれに続き、仁の真似をして自分の拳を前に出し、笑いながらそっと仁の拳に当てた。
「うん、頑張りましょう!」
様々な問題が一旦片付いたことで、仁は久しぶりに心地よい眠りにつけるなと期待していたが、久方ぶりに聞こえるゾルの大きなイビキが耳に響き渡り、深い眠りはなかなか訪れなかった。
ネフィリアから発信された呼び出しに、わずか数秒で仁と真那は応答した。その迅速さは、彼らが通信を待ち構えていたことを如実に物語っていた。
慈愛は息を整え、すぐに第一声を発した。
「問題はすべて解決したのじゃ。神谷を含む反乱グループの収束に成功じゃ」
仁の顔に安堵の色が広がり、真那もホッと肩を撫でおろす。
「良かった!ありがとう慈愛。そしてセイジ」
「さすが慈愛とセイジ君。迅速かつ的確な対応に感謝します」
続いてセイジが一週間の成果として売り上げや利益の説明をおこない、最後に神谷の処遇について付け加えた。
「神谷さんには運搬作業の責任者として新しい役割を任せたよ。彼自身も反省の意を示したし、全力で取り組む決意を固めているから、もう安心だと思うよ」
その報告を聞いて、仁は静かに頷き慈愛の言葉を思い出していた。この反乱は試練。羽曽部食品が強固な塊となる為の試練だと。まさに慈愛の言う通りに今回の件で羽曽部食品の団結力は一層強固な物になっただろう。
そして以前、直属ではないが神谷の組織下である営業部に属する若手の3人が小田を襲った事件があった。もう二度とこんな事件を起こさない為にも、神谷は部下の不満を受け止めて反乱グループを組織したのではないだろうか。
全てを自身の支配下に置き、少なからず行動を抑制する事が、本来の反乱グループの目的ではなかったのかと。そう仁は考察していたが、すぐに考えを止めた。
「(まぁそれは考えすぎかな)」
仁は首を意味深に横に振ってスクリーンに視線を戻した。
それともう一つ、セイジに持ち帰ってもらった埃まみれのオブジェの結果を仁と真那は知りたがっていた。オブジェに装飾されている物が本物のテレッドかどうかをだ。
「よく見つけたな、わしも初めて見る大きさじゃ」
慈愛の言葉に仁と真那は顔を見合わせ大いに喜んだ。慈愛は発見した経緯を真那に尋ねた。
「なんとなくテレッドには他とは違う魔力を感じるのです。異世界に帰るのに必要な希少な鉱石だからかもしれません」
「なるほど、真那の能力にも驚かされるの。今後もテレッド探しに大いに役立ちそうじゃ」
真那のスキルは[魔法使い]ではない。本人には知らされていないが[叡智者]と言うレアスキルである。今回のテレッドを探し出せたのも、このレアスキルによるものかもしれないと慈愛は感じていた。
「任せてください!頑張ります」
真那の元気な返事に仁はふと彼女の横顔を見つめた。今回の成果は全て真那のお手柄だったと言っても過言ではない。仁自身は、マネキンの実演販売でもただそこにいるだけで、真那のフォローに助けられてばかりだった。大量の納品を無事に成し遂げられたのも、真那が契約書代わりにスマートフォンで録音していたからこそだ。そして、異世界へ帰るための鍵であるテレッドを発見したのも彼女の感覚によるものだった。
本日の通信も終わり、仁は口には出さなかったが、ただその瞳の奥に、真那への感謝と労いの色が浮かんでいた。
「仁?何か考え事ですか?」
真那がふと視線に気づき、柔らかい笑顔を浮かべて話しかけてきた。
「テレッドまで手に入ったのは仁のお陰ですよ。あの時、勇気を持って交渉に踏み切ってくれなかったら、こんなにうまく行きませんでしたよ」
仁は一瞬驚いた表情を見せた。自分の些細な行動を見逃さずに評価してくれる部下が、そしてその女性が傍にいることに、仁は心の奥底で深い感謝の念を抱いた。仁にとって真那の存在は、今まで以上に大きなものへと変化していた。
「よし!明日からも頑張るか!」
仁は大きく息を吸い込むと気合いを入れ直し、拳を力強く前に突き出した。真那もそれに続き、仁の真似をして自分の拳を前に出し、笑いながらそっと仁の拳に当てた。
「うん、頑張りましょう!」
様々な問題が一旦片付いたことで、仁は久しぶりに心地よい眠りにつけるなと期待していたが、久方ぶりに聞こえるゾルの大きなイビキが耳に響き渡り、深い眠りはなかなか訪れなかった。
0
お気に入りに追加
168
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
幻想神姫ヴァルキュリア・ミラージュ
黒陽 光
ファンタジー
――――守りたいヒトたちの、守りたい笑顔の為に。
戦部戒斗は幼馴染みのアンジェリーヌ・”アンジェ”・リュミエールや、居候している記憶喪失の乙女・間宮遥とともに実家の喫茶店を手伝う日々を送っていた。
ある日、学園に通うアンジェのクラスに真っ赤な髪の転入生が訪れる。その名はセラフィナ・”セラ”・マックスウェル。新しい友達が出来たと喜ぶアンジェと、そして満更でもない様子のセラ。戒斗や遥とも知り合い、そうして皆は幸せな日々を送っていた。
――――だが、その平穏な日々は何の前触れもなく崩れ去ることになる。
戒斗たちの前に突然姿を現した異形の怪物・バンディット。誰も太刀打ち出来ないまま、人々が襲われていく。
そして、バンディットは戒斗とアンジェまでもを毒牙に掛けようとした。
「…………お二人を守れるのなら。誰かの笑顔を、戒斗さんやアンジェさんの笑顔を守れるのなら……私は、戦います」
「――――チェンジ・セイレーン!!」
その瞬間――――間宮遥は人ならざる存在へと生まれ変わる。人類の進化形、乙女の秘めた可能性の具現化。人間の守護者たる、武力を司りし神の遣い――――神姫ウィスタリア・セイレーンへと。
蒼の乙女が人を超えた戦乙女へと覚醒する時、物語の歯車は回り出す。神姫とバンディット、人智を越えた超常の戦いが、今まさに始まろうとしていた――――。
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?
レイヴン戦記
一弧
ファンタジー
生まれで人生の大半が決まる世界、そんな中世封建社会で偶然が重なり違う階層で生きることになった主人公、その世界には魔法もなく幻獣もおらず、病気やケガで人は簡単に死ぬ。現実の中世ヨーロッパに似た世界を舞台にしたファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる