嘘つき不動産

依東茜

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嘘つき不動産

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「こんなに安くて、しかも新築? おかしいよ、これ」
丸腰のサラリーマン、田中は疑惑に目を細めた。
「いえいえ、全く問題ありませんよ。」
不動産屋、佐藤はにっこり笑った。

「我々『嘘つき不動産』はお客様の満足が第一ですから。」

田中は戸惑いながらも、その価格に引き寄せられるように契約を交わした。
新居に引っ越した初日、田中は何か違和感を感じた。家具の配置が自分の記憶と違う。しかし、疲れからかと思い、その日はそのまま寝入った。
翌日、田中が起きると、また家具が元の位置に戻っていた。さらに、冷蔵庫には自分が買った記憶のない食材が入っていた。それらは全て彼の好物だった。
不思議に思いつつも、それが何かのサービスなのだと思い込み、生活を続けた田中。しかし、次第に奇妙な現象が増えていった。彼が欲しいと思った本が突如としてリビングのテーブルの上にあったり、壊れたはずの時計が修理されていたり、彼が思い出せない友人からのメッセージが電話に残されていたり。

田中は不動産屋に問い合わせをした。「ああ、それは我々の『嘘つきサービス』の一環です。お客様の全てを我々が提供する。それが『嘘つき不動産』です。」佐藤はにっこりと笑った。

しかし、次第に現象はエスカレートし、田中は恐怖を覚え始めた。夢に見た景色が窓から見えるようになり、亡くなった母の声が聞こえるようになった。
ついに、田中は自分が死んだはずの父とリビングで会話している自分を見つけた。
「お前が望んだのだ。」父は田中に言った。「『嘘つき不動産』は、お前が望むものを全て叶えてくれる。だから、お前が望むなら、お前の死んだ父と話すことも可能だ。」
田中は凍りつき、理解した。
この家は彼の世界を具現化する。
「嘘つき不動産」の嘘は、現実を超えて、彼の思う全てを作り出す嘘だった。

そして田中は恐怖に打ち震えた。
彼の望む全てが現実となるなら、彼の恐れる全て世もまた、現実となる。その瞬間、彼の恐怖が現実となり、部屋は闇に包まれ、恐ろしい怪物が田中に迫った。

「これが、お客様が望む世界です。」部屋の闇から、佐藤の声が聞こえてきた。

「我々『嘘つき不動産』は、お客様の全てを叶えます。」
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みんなの感想(1件)

もっちゃん
2024.02.03 もっちゃん

人間の欲望は、善なのか悪なのかを考えさせられる作品でした。

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