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第196話 緊急クエスト

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(クックック・・・ドルゲルの奴こんな物を地上に持ち込んだのか・・・ふっ・・今は使えないが光の使徒供への対抗策としてありがたく受け取ってやるぞ。)

ゼルビスはサキュバスの背中の上で真っ黒な宝玉を片手で持ち機嫌よく眺めていた。すると突然サキュバスの身体が揺れて高度が下がる。

「わっ!!あぶゅない!!なにをしていゆ!!」

「も、申し訳ありません・・・ですが・・・こ、この箱・・とても重いんです・・・」

サキュバスが腕をプルプルと震わせている。

「おい!!落としゅなよ!!もうしゅこしだ!!がんばりぇ!!」

ゼルビスがサキュバスの背中で足をバタつかせるとゼルビスの足が羽根に当たる。サキュバスはびっくりしてバランスを崩し左右に激しく揺れる。

「ゼ、ゼルビスさま!!あ、暴れないで!!あ、あぶない!!」

「はうっ!!」

ゼルビスは咄嗟に両手でサキュバスにしがみ付く。そして手に持っていた暗黒神の宝玉が空中へと投げ出された。

(・・・あっ・・・しまった!!!)

ゼルビスが慌ててサキュバスの背中から顔を出して下を覗くと真っ黒な宝玉が重力に逆らう事なく落ちて行くのが見えた。

「げげっ!!お、おい!!あ、あの宝玉を追え!!は、早くゅっ!!」

「む、無理です!あ、あれに追い付くのは無理です!!この箱を持っているので精一杯なんです!」

「にゃ、にゃんだと!!お、俺の言う事が・・・あっ!!」

ゼルビスとサキュバスが言い合っていと巨大な鳥の魔物が何処からともなく現れ落ちて行く暗黒神の宝玉を飲み込み飛び去って行く。

「あ・・・あぁ!!あ、あれは・・・」

(い、今のは・・・コカトリス・・い、いや・・その上位種か・・・地上に居るコカトリスとは違う・・・僅かだが神界の力を感じたぞ・・・何故そんな魔物が・・・あっ・・あぁっ!!ふ、封印の宝玉・・・捨てたっけ・・・)

ゼルビスは炎獄級の封印の宝玉をサキュバスに捨てさせた事を思い出す。あれから何事も起こらず忘れていたのだ。ゼルビスは暗黒神の宝玉を失った事も忘れ飛び去り小さくなって行くコカトリスを一抹の不安を抱き眺めていた。

(こ、これは・・まずいぞ・・・僅かでも神界の力を宿した魔物が暗黒神の力を取り込めば・・・力に耐えられず死ぬか・・・もし耐えられた時は・・・地上に神の獣が・・・ふ、ふんっ!も、もう考えても始まらん!!コカトリス如きが暗黒神の力に耐えられる筈はない!!しかも力の一部だ!!もうどうにでもなれ!!)

ゼルビスは考えるのをやめた。心の中でコカトリスが暗黒神の力に耐えられず死ぬ事を願い現実から目を背ける。

「おい!!早きゅ帰りゅぞ!!」

「はい。もう帰っています。」

ゼルビスを乗せたサキュバスは腕を痙攣させながら魔王城へと帰って行くのであった。



ここはヴィランダの街の冒険者ギルド。冒険者達が緊急クエストにより集められていた。

「よく集まってくれた!!皆も知っているように先のスタンピードの残党が森の奥地に住み着き繁殖して数を増やしているらしい!中には変異種も生まれている!それに既に住民にも被害が出ている事からセルフィア王国から協力依頼が来た!報酬も破格だ!お前等!!気合い入れろよ!!」

「「「おおう!!!」」

冒険者達が我先にと冒険者ギルドから出ていく。そんな中、ゴルドがログとメルン達が居るテーブルに近付く。

「ログ!今回も頼むぜ!!今回の依頼はお前の力無しじゃ他の冒険者達が持たねぇからな!」

「あぁ・・解ってる。よし!俺達も向かおう!さっさと片付けるぞ!」

「えぇ!!頼りにしてるわよ!!」

隣に座っていたメルンが笑みを浮かべながら声を掛ける。

「ふっ・・メルン。頼むから無理はするなよ。」

「えぇ・・解ってるわ。だけどログが護ってくれるんでしょ?」

「あぁ。だから出来るだけ俺の側にいてくれよ。」

「も、もちろんよ・・・」

メルンの頬が仄かに紅くなる。

メルンとログのやり取りを見ていたアメリ、シリア、ロザリアが肩をすくめて笑みを溢す。

「あーーっもう!!二人共見せ付けてくれるわね!!当然私達も護ってくれると助かるんですけど!!」

アメリが堪らず声を上げるとログがバツが悪い表情を浮かべる。

「わ、解っている!!み、皆んな纏めて俺が護って見せる!!」

慌てたログの言葉に少し嫉妬を覚えたメルンがログの太ももを抓った。

「い、痛っ・・・な、何だよ・・・」

ログは少し頬が膨らんだメルンを見つめるのであった。



ここは商業都市ガーゼイド。元暗黒神ドルゲルを追って来たイグが目にしたのはのは冒険者ギルドの前に跪く数百人の住民の姿であった。

「ドルゲル様・・・どうかご無事で!!」

「ドルゲル様!どうかご無事で!!」

「偉大なる暗黒神ドルゲル様!!我らをお導きください!!」

ガーゼイドの一部の住民達がドルゲルが運び込まれた冒険者ギルドの前で祈りを捧げていた。

(こ、これはどういう事なの・・・あのドルゲルがこんなにも崇められているなんて・・・一体何をしたの・・・)

イグは一番端で跪いている中年の女性にそっと近づく。

「・・・ねえ。教えて。」

「えっ?な、何を?」

中年の女性は少し驚きイグを見上げる。

「ドルゲルって人はここで何をしたの?」

「・・・あぁ・・あなたは知らないのね・・・暗黒神ドルゲル様はこのガーゼイドの街の恩人なのよ!神の如き力でこの街をエビル・ヘルスパイダーの脅威から護っただけじゃ無く街の住民の命も救ってくれたの!私の娘はドルゲル様のお力で瓦礫の中から救い出されたのよ。あの時の光景は一生忘れられないわ!」

(そ、そんな・・・あのドルゲルが・・人助け?!)

イグは自分の想像と違うドルゲルの行いが信じられなかった。しかし目の前の人間が嘘を言っているようには見えない。

(ドルゲル・・・お前は一体何がしたいの・・この地上でお前に何が起こったの・・・)



(ルビラスは魔王城だ・・・だが今の俺の力では恐らく魔王には勝てん・・・だったら・・・)

「よし・・・俺は急いでやらなければならない事が出来た。」

ドルゲルはベットから飛び降りる。

「ドルゲル様!何処に?!」

「・・・東だ・・・その本に出てくる街に行く。」

「で、では私も・・・」

「駄目だ。お前等の足では時間が掛かり過ぎる。俺一人なら飛べるからな・・それにお前は副騎士団長だろう?お前はお前の仕事をしろ。」

「・・・うっ・・は、はい・・解りました・・・」

(・・・くっ・・きっと私の実力では足手纏いなのだ・・・ドルゲル様はこの私を気遣っている・・・)

マーベリアは唇を真一文字に噛み締め頷くしか無かった。

(ふん・・・俺一人の方が動きやすいからな・・・)

ドルゲルはマーベリアの脇をすり抜け扉のノブを握る。すると自分が今まで感じた事がなかった感情が込み上げる。

「・・・マーベリア。俺をここまで運んで来てくれて・・・助かった。」

「えっ・・・ド、ドルゲル様が・・感謝の言葉を・・・私に・・」

ドルゲルは立ち尽くすマーベリアに振り向く事もなく部屋を出て行くのであった。
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