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第177話 終わり良ければ・・・

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(ご、ごめんなさい・・・だ、誰か・・・た、助けて・・も、もう・・・)

レザルトは既に激痛が激痛を打ち消したかのように痛みに鈍感になっていた。何度も身体を削り取られるような感覚襲われ薄れ行く意識の中で調子に乗っていた自分を呪い後悔し続けていた・・・

レザルトがもう駄目だと意識を手放そうとしたその時、何処かで感じた事のある一陣の風が吹き抜け聞き覚えのある声が声が響いた。

「おいおい・・死ぬ半歩手前じゃないか!!カリン!まだ出て来るなよ!!」

(カリンにこんな惨状を見せる訳にはいかないからな・・・)

駆け付けたライナードが姿を現し三兄弟の惨状を目の当たりにする。両手両脚は食いちぎられ身体のあちこちから白い骨が露わになっていた。すると三兄弟に群がるレッドエビルエイプ達がコイツらの仲間が来たと言わんばかりに問答無用でライナードに襲い掛かった!

「おいおい・・悪いな・・・少しだけ大人しくしててくれ・・・〈サンダー〉!!」

しかしライナードは慌てる事なく掌を空に掲げるとレッドエビルエイプ達の頭上から広範囲に稲妻が降り注ぐ!

ずばばばぁぁぁん!!!

うぎゃうん!!
うきゃぁぁぁ!!
うぎょぎょぎょ!!!

〈大天空神〉の加護を持つライナードの雷撃は初級魔法であっても絶大な効果であった。
レッドエビルエイプ達はライナードが放った稲妻を体に受け身動きが取れずに痙攣していた。

ライナードは改めて三兄弟の無惨な姿に目を向けた。

「はぁ・・・本当に馬鹿な奴等だな。あれ程リベルトさんが忠告してくれたのに・・・ふう・・でもまだ死んでないな・・・さてと・・・」

ライナードは怒りの炎を揺らしながら威圧を放つキングレッドエビルエイプを見据える。

(・・あいつが親玉か・・・ん?何だ・・あの手に乗ってるのは・・・子供?そうか・・そう言う事か・・・それなら急がないとな!)

ライナードはキングレッドエビルエイプの手に横たわり生き絶えようとする子供を見て全てを察した。そして両手を空に掲げて魔力を練り込む!!

「天空魔法〈フェザーヒール〉!!!」

いつもより魔力を練り込んだ〈フェザーヒール〉はレッドエビルエイプの子供を中心に放たれ小さな身体に刻まれた絶望的な傷があっという間に塞がった。すると子供はパチリと目を開き身体を起こすと手のひらの上で立ち上がり飛び跳ねていた。

「うきゃっ!うきゃっ!!うきゃっ!!」

「う、うぎぁっ?!うごっ?!うごぉぉぉぉ・・・・)

キングレッドエビルエイプは子供を顔の近くまで寄せると匂いを嗅ぎ傷はないかと確認すると嬉しそうに頬擦りをしていた。

王子三兄弟も〈フェザーヒール〉で手脚も再生し死の淵から生還したのだった。

「カリン。もう良いぞ!」

「んっ!よっと!!ふう。一体どうなったの?」

ライナードの声にカリンが影の中から飛び出す。

「あぁ。多分この馬鹿三兄弟があの魔物の子供を傷つけたんだ。だから襲われたんだ。あと少し遅かったら死んでたぞ・・・」

「そう・・本当に馬鹿ね・・・で・・こっち向かって走って来るあの子は何?」

「ん?」

カリンが指差す方を見ると回復したレッドエビルエイプの子供がぴょんぴょんと跳ねながらやって来る。そしてライナードの脚にしがみつきそのまま肩までよじ登って来た。

「お、おいおい・・な、何だよ?!」

「うきゃう!うきゃう!うきゃう!」

レッドエビルエイプの子供はライナードに肩車の体制になりの頭にしがみついてはしゃいでいた。

「ふふっ。懐かれちゃったね。人間に酷い目に遭ったのに不思議よね。」

そんな光景を見て〈フェザーヒール〉で復活したレッドエビルエイプ達の赤毛が垂れ下がり何事も無かったように木の上に戻って行った。


「・・・う、うぅ・・・」
「・・あ、あぅぅ・・・」
「・・う、うぅ・・た、助けて・・・」

「あぁ・・あいつらの事忘れてた・・・全く仕方ないな・・・」

ライナードは肩にレッドエビルエイプの子供を乗せたまま三兄弟の元に歩み寄る。そして気を失い未だに夢の中でもがき苦しむ三兄弟に水筒の水を顔に振りかける。

びしゃびしゃびしゃ・・・

「はぶばぁぁぁ!!」
「ぶはぁぁ!!」
「ぶばぁぁ!!」

三兄弟は何が起こったのかも分からず飛び起きた。服は噛みちぎられてほぼ全裸であった。

「おい!お前ら!いつまで寝てるんだ?!早く起きろ!!」

レザルトは悪夢の続きを思い出し自分の身体を摩り確認する。

「ひぃ!!た、助け・・・あれ?!手がある・・足もある・・・ゆ、夢か?!」

アザルトとミザルトも自分達の血溜まりの上で無言で手足を動かし何が起こったのか分からず身体を撫で回していた。

「はぁ・・夢じゃないぞ。お前たちはズタズタに噛みちぎられていたんだ。手脚はもちろんその股間の大事な物まで食いちぎられていたんだぞ!」

「・・・は、はうぅぅぅぅ・・・」

三人は数分前の恐怖を思い出しぺたんと座り込むと股間を手で隠しながら震えていた。

「これで分かったか?リベルト王子が必死で忠告した訳が?どれだけ自分達が無謀な事をしていたか思い知っただろう?」

「うきゃう!うきゃう!うきゃうぅぅ!」

ライナードに肩車をされたレッドエビルエイプの子供がライナードの真似をするように三人を見下ろしていた。

三人は反論もする事なく黙って正座に座り直し頭を地面に付ける。

「す、すまなかった・・・調子に乗っていた。許してくれ・・・そして・・・助けてくれてありがとう・・・うくっ・・・」

「お、俺が悪かった・・・以後自重する。こんな俺を二度も助けてくれてありがとう・・うぅ・・」

「ご、ごめんなさい・・・これからは真面目に生きるよ・・・ほ、本当に助けてくれてありがとう・・・う、うぅ・・うわーーーーん!!」

王子三兄弟は地面に頭を付けながら肩を震わせていた。死の淵の絶望から生還した事により一皮剥けたようだった。

「はぁ・・・あんた達!取り敢えず服を着て!!目障りな物を見せないで!!」

「「「・・・はい。」」」

カリンが吐き捨てると三人は股間を手で隠しながらコソコソと馬に乗せた荷物へと向かって行くのであった。



「ふーん・・・そうなんだ。とにかく死ななくて良かったね・・・」

ミハエル達がライナード達と合流して事の顛末を聞いた。そしてミハエルが肩をすくめながら王子三兄弟に目を移す。王子三兄弟はリベルト王子の前に正座し頭にたんこぶを作り項垂れていた。

「全く・・・手間を取らせやがって!!お前らが死んだらこの俺がスレイド王にどやされるんだぞ?!分かってるのか?!」

リベルトの叱責に三兄弟は反論する事もなく地面に頭を付ける。

「も、申し訳なかった・・・以後、このような事の無いようにする・・・」

「リベルト殿。今後は自重し指示に従う。本当に申し訳なかった。」

「ご、ごめんなさい・・・こ、今後はリベルト殿の指示に従います。だ、だから・・置いて行かないで・・・」

「お、おう・・・そ、そうか・・・」

(こいつら・・やたらと素直になったな・・余程の目に遭ったんだな・・まあ、終わり良ければ・・・ってやつか・・・)

リベルトは王子三兄弟の変わり様に少し動揺する。しかし王子三兄弟はそれ以上にその場から動けずに緊張して脂汗をかいていた・・

「うごぉぉぉ・・・うごっ!!」

王子三兄弟の目線の先にはキングレッドエビルエイプの号令と共にレッドエビルエイプ数十体がミハエルの前に両膝を付き頭を下げる姿に釘付けであった。

「うん。分かってるよ。大丈夫だよ。」

ミハエルが声を掛けながらキングレッドエビルエイプの赤毛の部分に手を置く。するとキングレッドエビルエイプはミハエルからの許しを得るとゆっくりと立ち上がる。そして振り向きざまに王子三兄弟向かって勢いよく顔を近付けて”次は無いぞ?”と言わんばかりに牙を剥く。

「ぐるぅっ!!」

「「「ひぃっ!!!」」」

キングレッドエビルエイプの生温かい吐息が三兄弟の顔を撫でると顔を引き攣らせ目を見開いたまま震えていた。

そんな光景を冥界蛇イグは只々眺めていた。

(・・キングレッドエビルエイプ・・・気性が荒く母性本能が強く人間に近い魔物。その力は一国を相手に出来る程だと言われているわ・・・そんなレベルの魔物達が住む森・・それをいとも簡単に従わせる少年ミハエル・・・一体、神でもないルビラスの復活がこの世界にどれ程の危機をもたらすというの?〈大天使メリエル〉様にはこの世界の運命がどんな風に見えているのかしら・・・)

冥界蛇イグはミハエルの周りではしゃぐレッドエビルエイプ達を見ながら思いに耽るのであった。



〈大天使メリエルの執務室〉

時より運命を与えた者達を見護るように執務室のが壁に掛けられた大きな鏡に下界を映して頬を引き攣らせた大天使メリエルがいた。

「・・・え、炎帝龍アグニシアが・・目醒める?!そ、そんな事想定してないわ・・・。
そもそも最初から私の運命の歯車を狂わされたのよ。本当に光の使徒になるはずだったのは・・・その上・・こんな事態に・・・な、何故・・・何故、このミハエルと言う少年は私の運命の歯車を越えてくるの・・・何故・・・ま、まさか・・・」

大天使メリエルは恐る恐るミハエルを鑑定すると予想の斜め上を行く結果に目尻を震わせていた・・・

「なっ?!こ、これは・・・や、やはり・・・そう言う事だったのね・・・これは少し世界神ゼムス様と話す必要がありそうね・・・」
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