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第173話 二人の元暗黒神

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「ふんっふんっふんっふんっ!!・・ちと固いが噛むごとに塩気と旨みが滲み出て・・むぐ・・中々うまい・・・むぐむぐ・・・うぐっ!!!ぐっ!!み、水・・」

ドルゲルは空腹の勢いで一気に黒パンと干し肉を喉に押し込み食道に詰ってもがく!

「あっ!あぁ!!ほ、ほら!!」

ケモ耳副団長が皮で出来た水袋を差し出すとそれを引ったくり一気に喉へと流し込む。

「・・んぐっんぐっ・・ぶはぁ!!!」

ドルゲルは喉に詰まった物を胃に流し込み更に黒パンと干し肉に喰らい付くのであった。

「ふふっ・・・ゆっくり食べたらいい。まだあるからな。」

ケモ耳副団長は岩場に腰掛け子供を見守るような目で黒パンと干し肉を貪るドルゲルを眺めていた。



「・・・ふう。それでこの俺に何の話があるんだ?」

人心地付いたドルゲルが座り直す。

「あぁ。先ず私は獣王国バルバード騎士団副団長マーベリアだ。君はアン・コクシンだったかな?」

「そうだ!俺は暗黒神ドルゲルだ!訳あって神界からこの地上に降りて来たんだ!」

「へっ?! 暗黒・・神?!神界から・・降りて・・・?」

マーベリアは理解が追い付かず目を細める。すると騎士団員の1人が眉間に皺を寄せて前に出る。

「おい!お前は一体何を言って・・・」

「待てっ!!わざわざこちらが呼び止めて話をしているのだ!最後まで聞け!!」

マーベリアは団員を制した。団員の言いたい事も理解出来るがドルゲルの真っ直ぐな目からは決してふざけて言っているようには感じなかったのだ。

「ドルゲル殿。団員がすまない。・・・それでドルゲル殿は何故地上に来たのだ?」

「あぁ・・まぁ・・こ、この箱を開けれる奴を探しているんだ・・・名は冥界蛇イグだ。聞いた事はないか?」

ドルゲルは神界から逃げて来たとは言えず歯切れが悪い返事をすると自分が座っている赤い箱を指差す。

「・・冥界蛇イグ・・・知らないな。それでその箱には何が入っているんだ?」

マーベリアは気になっていた。ドルゲルが大事そうに抱える赤い箱を。そう思い切って箱の中身を聞いてみたのだ。

「ふん。それはお前達が知る必要はない。開けば嫌でも知る事になるからな!・・・よし!話は終わりだ!黒パンと干し肉美味かったぞ!じゃあな!」

ドルゲルが立ち上がるとマーベリアも慌てて立ち上がる。

「あっ!!ドルゲル殿!」

「ん?何だ?まだ何かあるのか?」

「あ、あの・・実は頼みがあって・・・」

「何だ?」

「実は私達はこの龍峰山の調査に来ていたんだ。だけど・・・」

マーベリアが申し訳なさそうに言葉を続けようとしたその時、ドルゲルが目を見開きマーベリアに詰め寄る!

「い、今!何処だと言った?!ここは何処だと言った?!」

ドルゲルの鼻先がマーベリアの鼻先に近づき少し頬を赤く染める・・・

「あ、あぁ・・こ、ここは龍峰山と・・・」

「そうかぁ・・・ここは龍峰山だったのか・・・じゃあ大体の位置は分かったぞ!」

ドルゲルはマーベリアから離れると異変に気づく。

(それにしてもこの暑さは・・・だけど炎帝龍アグニシアが目醒めるにはまだ早い・・・だとすると・・まさか・・もしそうならこの世界は・・・まずいな・・・これは調べる必要があるな・・・)

「あ、あの・・ドルゲル・・殿?」

マーベリアは考えこみぶつぶつと独り言を言っているドルゲルに近付くと再び鼻先にドルゲルの顔が近付き声が上擦る!

「おい!」

「ひゃいっ!!」

「お前達は龍峰山を調査しに来たと言ったな?」

「あぁ・・そ、そうだ・・・が・・」

「よし!その調査、俺も付き合ってやる!いいな?」

突然のドルゲルの申し出にマーベリアの顔がパッと明るくなる。

「あぁ!!こちらこそよろしく頼む!!ちょうどドルゲル殿に協力を依頼しようとしていたのだ!・・・それにさっきの様子だとこの異変に心当たりがあるのだろう?」

「あぁ・・・まぁな。俺は暗黒神だからな!何でも知ってるんだよ!だが・・ここは出直して情報収集が必要だ。」

ドルゲルはドヤ顔をしながら胸を張り声を上げる。そんな姿をマーベリア達は肩をすくめながら見ていた。皆、ドルゲルの言っている事を俄かには信じてはいないが頼りになるのは確かなのである。今はそういう事にしておこうと顔を見合わせるのであった。



ここは魔王城の一室・・・

「おい!リュベーラ(ルベーラ)!ゆうしゃのはなしをしりょーー!!(しろーー!!)」

ゼルビスが子供用のベットの上で魔王軍魔鬼人の1人ルベーラに向かって哺乳瓶を振りながら足をばたつかせていた。

(くそぉぉ!!言葉が上手く発音できん!!・・親父が言っていた人間界に誕生した勇者が化け物らしいからな・・・まずは情報収集だ!)

「ふふっ。ゼルビス様は勇者が気になるのですね?良いですよ。お話して差し上げます・・・この私が出会った勇者パーティーがどれほど化け物だったかを・・・」

ルベーラは当時の事を思い出し微笑んでいた顔が無意識に真顔になっていた。ゼルビスもルベーラの表情に寒気を感じ生唾を飲むのであった。

「まず勇者の名はミハエル。勇者ミハエルです。この名をしっかりと覚えてください。もし不運にも出会ってしまったのなら決して手を出してはいけません・・・こちらから手を出さなければ何事も起きません。いいですね?」

ルベーラは言い聞かせるように薄らと魔力を滲ませながらゼルビスの鼻先まで顔を寄せるとゼルビスはコクコクと声も出せずに頷いた。

「それではお話致します。あれは約3年前、魔王様から勇者狩を命じられクラインド王国領内の森へ行った時の事です・・・・」

ルベーラはミハエルと出会った時のことを事細かに話して聞かせた。フェンリルを倒され更には蘇生した事、千体のストーンゴーレムの召喚、バジリスクの石化の眼も効かず倒された事をゼルビスの心に刻み込むかのように話して聞かせた。ただ1つ・・・自分が失禁した事だけは伏せておいたのだった。

「・・・そして私は勇者ミハエル殿の慈悲によってバジリスクの石化から解放されここに生かされているのです・・・ですから魔王様は人間界とは敵対より友好を選んだのです。」

ルベーラが話を終えるとゼルビスは哺乳瓶を口元で固定したまま口をポカンと開けたまま瞬きも忘れて固まっていた。

(な、何なんだその勇者は・・・聖剣も持たずにその強さは異常だぞ・・・それにそんな戦い方をする勇者なんか見た事も聞いた事ないぞ・・・ん?待てよ・・・ストーンゴーレムを召喚?勇者の称号にそんなスキルはない筈だぞ・・一体どうやって・・・)

胸騒ぎを覚えてゼルビスはポカンと開けた口を閉じると溜まった唾を飲み込みルベーラを見る。

「お、おい!リュベーラ(ルベーラ)!ゆうしゃは、どうやってしゅとーんごーれむゅ(ストーンゴーレム)をしょうかんした?」

「え?ですから大地に手をかざして呪文を・・・」

「ど、どんなじゅもんだ?」

ルベーラは人差し指を顎に当てて天井を見る。

「えっと・・・確か・・ストーン・・サーバント・・・?私も聞いた事がない呪文でしたね。」

ぽとっ・・・ころっ・・・

ゼルビスの手から哺乳瓶が力無く落ちてベットの上に転がる・・・

(ス、ストーン・サーバント・・・こ、古代語・・・だと・・・?!・・こ、古代魔法か!ちぃ・・・な、なんて事だ・・・あの古狸共め・・俺の覚醒に合わせて刺客を用意したって事か!!という事は・・光の使徒共も・・・くそぉぉ・・神界の力を覚醒すればよもや敗北はないが・・・古代魔法にはアレがある・・・奴等は生命を簡単に粗末にする生き物だ・・・くそっ!あの暗黒神め!早く神託を寄越せ!!悔しいが奴の力が必要だ・・・)

ゼルビスは哺乳瓶を拾い咥えると柔らかい部分に歯を立てるのであった。
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