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第172話 ケモ耳副団長

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「ちくしょぉぉ・・・一体ここは何処なんだ!・・・くそっ!イグの奴は何処へ行ったんだ!!・・はぁ、はぁ、それにしても暑いな・・・ちっ・・それに・・は、腹減ったな・・・」

神界から逃げるように地上に降り立ったドルゲルは赤い箱を小脇に抱えて方向も分からず森の中を丸三日歩き続けやっと森の奥に岩山を視界に捉えた。

「おぉ・・・や、やっと森から出られる・・・んん?」

ドルゲルが森の出口に近付くにつれて視界が眩しく開ける。眩しさに慣れない目を庇うように手をかざしながら歩いていると微かに人の声や金属が擦れ合う音が聞こえて来た。

ドルゲルは森の出口付近の木の陰に身を潜めて様子を伺う事にした。ドルゲルが木の陰からそっと顔を出すと鎧を着た二足歩行の動物達が岩場を削り人工的に造り上げた山道で巨大な熊の魔物に囲まれ抵抗している姿があった。

(・・あれは獣人か・・・ふん!獣人であの程度の魔物に手こずっているのか・・やはり地上の奴等は大した事ないと言う事か・・・ん?待てよ・・・という事はこの先に大きな町があるって事か!よし・・・取り敢えず町へ行って飯だ・・・)

ドルゲルは岩場に隠れながら山道をを覗き込むと、隠れる場所がない一歩道の中央で戦闘が行われていた。

(おいおい・・・どうする・・・勝負がつくまで待つか・・・)

「・・・いや!待て!俺は暗黒神だぞ!!隠れる必要なんか無い!ふん!堂々と真正面から行ってやる!!」

ドルゲルは背筋を伸ばし赤い箱を小脇に抱え直すと山道の入口に姿を現して真っ直ぐに歩き出した。


「ぐはっ!!何故こんな所にブラッディベアーが?!それも6体も!!ふ、副団長!!このままでは全滅です!我らが隙を作ります!!その隙に退却してください!!」

「馬鹿者!!お前達を置いて私だけ逃げろと?!そんな事出来るか!!そんな事を考えてる暇があるなら1匹でもでも道連れにしろ!!」

「あ、危ない!!!」

「ぶごぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

副団長と呼ばれている体格の良いケモ耳の女性が一瞬気を逸らした瞬間!死角からブラッディベアーが団長に向けて鋭い極太の爪を振り上げた!

「や、やば・・・い・・」

「副団長ぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


「おっと!こんにちは!」

「えっ?!?!」

ケモ耳副団長が迫り来る極太の爪に最悪の瞬間を想像したその時、取り囲んでいるブラッディベアーの間から赤い箱を小脇に抱えた若い紫髪の男が現れ目の前を通過して行く。騎士団員もブラッディベアー達も突然現れたドルゲルに理解が追い付かずに動きを止めた・・・そしてあっけらかんとした口調でドルゲルが口を開く。

「俺は先を急いでいるんで!俺の事は気にせず続けてくれ・・・また生きてたら何処かで会うかもな!じゃっ!!」

ドルゲルは”シュタッ”と騎士団に敬礼すると何事も無かったように歩き出した。

「ま、待て!!な、何者だ?!」

ドルゲルはケモ耳副団長に呼び止められ待ってましたとばかりに肩越しに髪を掻き上げる。

「ん?俺か?ふっ・・・俺は・・通りすがりの暗黒神さ!」

(ククッ・・決まった・・・)

「・・・えっ?・・ア、アン・コクシン?・・・って!危ない!!!!」

騎士団一堂が呆気に取られた瞬間!ブラッディベアーが我に返り、ふざけるなと言わんばかりにドルゲルに剛腕を振り下ろした。

「ぐもぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「・・・ふん・・馬鹿が・・・」

がしぃぃ!!!

獣人達が息を飲んだ瞬間!ドルゲルは慌てる事なくブラッディベアーの剛腕を片手で受け止めた。

「な、なにぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!あれを片手で受け止めただとぉぉぉぉ!!!」

ケモ耳副団長を始め獣人達の口がポカンと空いたまま唖然とする。

「ふん!相手の力も分からんとはな。神界の力が使えなくても地上の生き物如きに遅れは取らん!!ふんっ!!」

どばぁーん!!

「ぐぼおっっっ!!」

どばん!どばん!どばん!どばん!どばん!どばん!どばん!どばん!!どばんっ!!!

ドルゲルはブラッディベアーの剛腕を掴んだまま勢いよく振り上げて地面叩き付ける!それでも収まらず左右に振り上げて何度も地面に叩き付けた。ドルゲルが手を離した時にはブラッディベアーは血で染まりまさにブラッディベアーとなっていた・・・

「ふん!たわいも無い・・・」

ドルゲルは事切れた本当の意味でのブラッディベアーを見下ろし鼻で笑った。
そしてドルゲルが一瞬見せた殺気を獣人達は敏感に感じ取り小刻みに震えながら後退る・・・

「う、嘘だろ・・・あ、あいつは人間か?!」

「お、俺達が束になっても敵わないブラッディベアーを・・・」

「そ、それに・・あの殺気・・・普通じゃ無いわ・・・」

獣人達がじわじわと後退って行くと背中に柔らかい物が当たる・・・

ぽふっ・・・

「はっ!!!しまった!!まずい!!」

その瞬間、獣人達は自分達が何と戦っていたのか思い出し勢いよく振り返り見上げるとブラッディベアー達もカタカタと震えながら立ち尽くしていた。そしてブラッディベアーは見上げた獣人達と目が合い意見が一致する。
この中で一番警戒しなければならないのは目の前の紫髪の細身の男だと・・・

「・・・おい熊共!もう終わりか?」

ドルゲルが目を細めて殺気を滲ませると一箇所に集まったブラッディベアー達がコクコクと頷いたように見えた。

「ふっ。なら良い。それじゃあな!」

ドルゲルが殺気を収めて背を向けて歩き出すとブラッディベアー達が顔を見合わせて一目散に逃げ出した・・・

「ぶもっ!ぶもっ!ぶもぉぉぉぉ!!!!!!」

どどどどどど・・・・

残された獣人達は恐る恐る顔を見合わせて副団長の顔を無言で見る。そして声を掛けなくて良いのかと目で訴えた。

「うくっ・・・わ、分かっている!!・・・ふうぅぅぅぅ・・・」

ケモ耳副団長は大きく息を吐いて気持ちを落ち着けると思い切ってドルゲルの背中に声を掛けた。

「ま、待ってくれ!!す、少し話がしたい!!」

ドルゲルは立ち止まり肩越しにケモ耳副団長を見て少し考える。

「んーー・・面倒だからやめとく。俺は腹が減ったんだ。早く町に行きたいんだ。じゃあ!」

「あっ!ま、待って!」

ドルゲルが再び歩き出すとケモ耳副団長が慌てて部下の鞄を引ったくり中から黒パンと干し肉をありったけ取り出した。

「あ、あんた!!腹が減ってるんだな?食料ならある!!ほら!!」

「何っ?!」

しゅばばっ!!

「おおふっ!!」

その瞬間ドルゲルが目にも止まらぬ速さで目の前に現れ黒パンと干し肉に釘付けになる。

「・・ゴクリ・・・こ、これをくれるのか?」

ドルゲルが喉を鳴らしながら上目遣いで覗き込むとケモ耳副団長は若干引きながら出来る限りの笑顔を作る・・

「あ、あぁ・・・だから少し話を聞かせて欲しいのだ・・・良いだろうか?」

「お、おう・・い、良いだろう・・・」

「あ、ありがとう・・ほら食べてくれ。」

ケモ耳副団長が黒パンと干し肉を差し出すとドルゲルはそれを両手に抱え赤い箱を椅子がわりにすると一心不乱に黒パンと干し肉に齧り付くのだった。
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