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第171話 お相子

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セイルが謁見の間の天井を見上げる・・・

「こ、この力・・・普通の人間では死に至る・・・」

セイルはすぐさまミハエルに振り返る!

「ミハエル君!!何とかしてください!このままでは皆が耐えれません!!」

しかしミハエルも額に汗を滲ませ目を瞑っていた。

「・・・セイルさん!!さっきから僕も声を掛けているんです!!だけど僕は〈神精霊使い〉のように精霊達の激昂した感情まで制御出来ないんです!!」

ミハエルが声を上げた瞬間!激しい神力の膨張に謁見の間が耐えきれずに崩壊を始める・・・

ミシッ・・バギッ・・・ベキバキッ!!ズゴゴゴゴ・・・・

「我は森の最上級精霊エント・・敬愛する主様を笑者にする者・・・死すら生温い・・・」

「我は大地の最上級精霊ベヒモス・・我が主様をよくも笑ったな?!覚悟せよ・・死すら与えず殺してくれるわ・・・」

「我は風の最上級精霊ジン・・貴様らには大気を吸う事も許さん・・・」

「我は水の最上級精霊クラーケン・・我の全てを持って主人様を侮辱した者を冥界に洗い流してくれるわ!!」

謁見の間の虚空に具現化した最上級四精霊が怒りを露わにする!!

そしてスレイド王は玉座に張り付きながら虚空に浮かぶ四体の最上級精霊達を見上げていた・・・

「がっ・・ぐ、ぐふっ・・・あ、あれは・・せ、精霊か・・・こ、これ程の精霊を・・四体同時に行使するだと・・・ぶふっ・・ク、クラインド王の・・手紙に・・あったな・・見た目で・・・判断するなと・・・がはっ・・・」

ミハエル達以外の者達はエント達の神力の圧力で床に張り付き声も出せずに身体中の液体を垂れ流していた・・・そして更に身体のあちこちから骨が軋む音が耳に響く・・・

「ぐぶぶぶぶぶぶ・・・・」

ミシッ・・ピキッ・・・ギシッ・・・

(ぐっ・・・ぶっ・・し、死ぬ・・・)
(がっ・・・た、助け・・て・・・)
(あがっ・・・も、もう・・・)

(はふうぅっ・・・も、もう少し自重して・・魔力障壁が悲鳴をあげてるわ・・・」

イグが全力で耐えているとリベルトとセイルに目に止まりふと気付く・・・

(あ、あのリベルトとセイルとか言う男・・・ただの人間が何故この神力の重圧の中で動けるの?・・何故・・・)

ミハエルが周りの大人達を見渡しエント達を見上げる。

(ま、不味い・・これ以上は・・・)

「エント!!ベヒモス!ジン!クラーケン!止めるんだ!!・・・・でないと・・でないと・・・僕は君達を嫌いになる・・・」

ミハエルが寂しそうに放った言葉が謁見の間に響く。そして一瞬時が止まったように静けさが漂った。
最上級精霊達が顔を見合わせ主人であるミハエルの言葉を咀嚼する・・・

(き、嫌いになる・・・嫌いになる・・・嫌いに・・・嫌い・・・に・・・)

我に返ったエント、ベヒモス、ジン、クラーケンの頭の中でミハエルの言葉が何度も木霊する・・・

「はうんっ!!」
「はうっ!!」
「いかん!!」
「いやん!!」

四人の最上級精霊達は一瞬で虚空から姿を消すといつの間にかミハエルの足元に綺麗に横一列で土下座を決めていた・・・

「も、もも、申し訳ございませんっっっっ!!!つ、つい怒りに我を忘れてしまいました!!お、お許しを!!!」

「お、お許しを!!!こ、これからは自重致します!!!どうか!どうか!!」

「申し訳ありませんっっっっ!!!つ、つい感情に流されてしまいましたぁぁぁ!!お許しをぉぉぉぉぉ!!!」

「お、お許しを!お許しを!お許しをぉぉぉぉぉ!!私を嫌いにならないでぇぇぇぇぇ!!」

最上級精霊達の必死の懇願にミハエルは安心して肩を落とす。この目の前の精霊達が自分を大切思ってくれているのを痛い程分かっているのだ。そしてミハエルが精霊達に声を掛けようとしたその時・・野太い声が響いた・・

「き、貴様等ぁぁぁ!!王の御前でなんたる無礼を!!!この近衛隊長ギランド・バードルがその卑しい精霊ごと叩っ斬ってやるわ!・・はぁ・・はぁ・・はぁ・・」

見れば玉座の隣に黒い鎧を着た銀色の短髪で隻眼の男が剣を構えて肩で息をしていた。

その瞬間・・・謁見の間壁に亀裂が走る・・

・・ピシッ・・・ビシッ!ビキビキッ!!!

「・・・今・・・なんて言った?・・・僕の友達になんて言ったの・・・?僕の友達を・・どうするって言った?」

ミハエルの小さな身体からリベルトとは比べ物にならない程の闘気が立ち昇る!!そしてゆっくりと顔を上げて近衛隊長ギランド・バードルを睨み付ける・・・

「な、な、なな・・何なんだこの闘気は・・・い、いや・・・ち、違う・・・な、何が違う・・・お、俺の目の前に居るのは・・・一体・・何なんだ・・・」

近衛隊長ギランド・バードルはミハエルの闘気に当てられ震えが止まらなかった・・・

側にいたリベルトとセイルもミハエルの初めて見る迫力に腰を抜かして声を出せずにいた。

「ミハエル!!駄目だぁぁ!!こんな所でお前の力を解放したら皆んな吹き飛ぶぞ!!」

ライナードが叫ぶがミハエルの耳には届かずミハエルはギランド・バードルに魔剛剣を抜き放ち突き付けた・・・

「・・・僕の友達を侮辱したね?叩っ斬るって言ったね?・・・そんな事はさせないよ・・・その前に僕がお前を・・・叩っ斬る!!!」

重心を落とし〈剣の極意〉を発動させるとミハエルが纏う闘気が爆発的に燃え上がる!!

ずおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!

・・ガチャガチャガチャガチャ・・・

近衛隊長ギランド・バードルは剣を構えたまま全身の震えを止める事が出来ずに鎧が擦れあう音だけが響いていた・・・

「うっ・・がっ・・・こ、殺され・・る・・」

するとミハエルが闘気を纏い構える姿を最上級精霊達が光悦な表情で見ていた・・・

「あぁ・・・主様が私達の為に・・・」

「うっ・・くっ・・か、感激至極でございます・・・」

「あ、主様・・・お、俺は・・貴方の為ならこの命惜しくはありません・・・」

「主様・・嬉しゅうござます!!この身朽ち果てるまで主人様のお側におります!」

そして最上級精霊達が顔を見合わせて頷くとエントが微笑む。

「ここは私達が主様をお諌めするのです。私達の為に同族の人間を殺めさせてはいけません!」

最上級精霊達は当然と言わんばかりに即座に激昂するミハエルの前に跪いた。

「主人様。私達の為にありがとうございます。ですがここはお収めください。」

「主様のお気持ち感激至極でございます。ですがこのような小者を殺めるまでもございません。」

「主様。俺は主様の気持ちだけで嬉しく思っております。それに奴等はもう主様の力を認めております。」

「主様!もう私達の為に力を使うのはおやめください。私達はそのお気持ちだけで充分なのです!!」

「・・・み、皆んな・・・」

エント達の言葉にミハエルは我に返ると闘気を収める。すると近衛隊長ギランド・バードルは紐の切れた操り人形のようにその場に崩れ落ちた・・・

・・・ずしゃぁ・・・

「ふう・・・これじゃあ僕も偉そうに皆んなの事言えないね・・・これでお相子だね。・・・でもまた僕が自分を見失ったら教えてね!」

ミハエルがエント達に笑顔を作ると最上級精霊達が跪いたまま笑みをこぼす。

「ふふ・・主様とお相子・・このエント至極の歓喜に打ち震えております。」

「ふふっ・・もしその時は命を賭してこの身を捧げる所存でございます!」

「ふふっ・・我らに寄り添う主様のお心遣いいつもながら感激至極でございます!」

「ふふふっ・・私は主様のお心遣いに天にも昇る想いでございます!このクラーケン全身全霊で主様のお側にお仕え致します!!」

最上級精霊達が自分達が嘲笑った子供に跪く姿ををスレイド国王を始め謁見の間に居合わせた全ての者達が唖然として見ていた。そして子供だと笑った自分を後悔し、そして畏怖するのであった。

そして最上級精霊達が立ち上がると震えるスレイド王に振り返り見据える。そしてエントが前に出て口を開いた。

「この小さき国の王よ。我らはここに在わすミハエル様の下僕である!これ以上我が主様を笑う者は許さぬ!!この国の最上級のもてなしを持って我が主様を迎えなさい!!そうでなければ・・・我等を敵に回すと心得なさい!!」

スレイド国王は佇む四人の最上級精霊を前に玉座の肘置きを杖代わりにしてよろよろと立ち上がりこうべを垂れた。

「す、すまぬ・・・非は我等にある。クラインド王の手紙にもあった・・・”決して怒らせるな”と・・・この通りだ。」

スレイド王はその頭を上げると下っ腹に力を込め声を上げる!

「これを持ちクラインド王国からの客人を国賓として迎える事とする!!皆の者!!国中に触れを出すのだ!!少しの粗相も許さん!!急げぇぇ!!」

「は、はっ!!か、かしこまりました!」

周りでだらしなく座り込んでいた貴族や重臣達がフラフラと立ち上がり全員が逃げるように謁見の間を出て行った。後には垂れ流した汚物の匂いが漂っていた・・・

エントが鼻に手を添えてこめかみを震わせる・・・

「・・・匂いますね・・ジン!クラーケン!この部屋を掃除してください!」

「了解!」
「はい!」

クラーケンが床に手をかざし神力が籠った水が床に広がると汚物だけでなく床に染みついた邪気や人の負の思念をも浄化する。見れば床は顔が映る程に光輝いていた。

ジンが両手を天井に向けてかざせば神聖な風が窓を開け放ち謁見の間に籠り染み付いた匂いと共に渦巻く邪気さえも浄化し気持ちの良い清々しい風が吹き抜けた。

スレイド王は謁見の間に吹き吹ける風を目を閉じて身体いっぱいに吸い込むと身体の中に籠った悪い物を吐き出すかのように息を吐く。

「ふはぁぁぁぁぁ・・・何と清々しい風だ・・改めて先程までの其方達への対応を恥ずかしく思うぞ・・本当にすまなかったな。」

そして気を失っていた近衛隊長ギランド・バードルも意識を取り戻し目を閉じて深呼吸をするとゆっくりと立ち上がる。その立ち姿は付き物が落ちて心無しか背筋が伸び威風堂々とした剣士であった。

(むう・・何だこの清々しさは・・心が軽い・・・ふう・・・それにしても・・あの闘気・・・俺も井の中の蛙だったか・・・ならば・・)

ギランドは歩を進めミハエルの前に立つと跪き頭を下げる。

「えっ?!な、何?!」

「俺は近衛隊長ギランド・バードル。先程の発言をを取り消し謝罪する。すまなかった。」

「あ・・い、いえ・・分かってくれたらいいです・・・」

(な、なんと・・彼奴が私以外に頭を下げるとは・・・それも歳下の者に・・・)

ミハエルも感情のままに剣を向けた手前気まずく俯いているとギランドが突然ミハエルの手を取る!

「ミハエル殿・・だったな?是非とも君に近衛兵団の指導を願いたい!!」

「うえっ?!」

ギランドがグイグイと顔近づけて来る。

「あの闘気!あの見事な構え!!是非とも!ご教授願いたいのだ!!是非!是非・・・」

「い、いえ・・そ、そんな暇は・・・」

(か、顔が近いよ・・・)

グイグイ来るギランドから顔を背けているとスレイド王が口元を緩め肩の力を抜く。

「これ!ギランド!慎め!ミハエル殿が困っておるではないか!ミハエル殿は今や国賓であるぞ!下がれ!」

「お、おぉ・・・そ、そうだったな。こ、これは失礼致した。」

ギランドは弾けるように立ち上がり名残惜しそうに定位置に戻っていた。

「さて。ミハエル殿。お見苦しい所をお見せした。今から食事でもしながら今後の話をしようと思う。どうであろうか?」

「えぇ。喜んでお受けいたします。」

「うむ。すぐに用意させよう。・・・それと先程のギランドの事なのだが・・・この件が片付いたら近衛兵団の指導の件・・わしからもお願いしたいのだが・・どうであろうか?」

スレイド王はミハエルにお伺いを立てるように出来る限りの笑顔を作る。

(うーん・・・王様の頼みだからなぁ・・・あまり面倒な事にならなければいいけど・・まぁ・・自重して少しだけならいいよね・・・)

「えぇ。少しだけならいいですよ。・・少しだけなら・・・」

「おお!これはありがたい!それではよろしく頼むぞ!」

スレイド王は満足気に玉座の背もたれに身体を任せる。そして視線を感じてギランドを見れば尻尾を振る大型犬のように目を輝かせていたのだった・・・
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