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第164話 称号剥奪

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暗黒神ドルゲルが扉の前で目を泳がせながら服装を正す。

(き、急に呼び出しか・・・こ、この扉から感じる気配はヤバイやつだ・・・な、何だ・・何がバレた・・・?と、取り敢えず行くか・・・いざとなったら・・)

暗黒神ドルゲルが震える手で扉を叩く・・

コ・・コン・・コン・・

「ド、ドルゲル参りました・・・」

「・・・入りなさい。」

「し、失礼致します・・・」

ドルゲルが扉を開け部屋に入ると中は尋常では無い重い空気が漂っていた。ドルゲルの額にはねっとりとした汗が滲み足元から伸びる青紫の絨毯を一歩一歩踏み締めながら大暗黒神ラルフェラの元へと歩を進めた。

「ラルフェラ様。お呼びでしょうか・・?」

ドルゲルが青紫の絨毯の切れ目に跪いて頭を下げる。

「・・・ドルゲルよ・・顔を上げて良く見せよ・・・」

ラルフェラの感情を抑え込んだような声がドルゲルの耳に響く・・・

(か、顔を?・・ど、どう言う事だ・・・)

「は、はい・・」

ドルゲルはラルフェラの意図が分からず恐る恐る顔を上げると冷たい視線で魔力を滲ませながら玉座に座る大暗黒神ラルフェラの隣に三人の少女が立っていた。

(げげっ・・か、かなり怒ってるぞ・・・な、何がバレたんだ・・・ん?な、何だあのガキ共は・・・)

ドルゲルの考えが纏まる事を待たずに三人の少女がドルゲルを汚物を見るような目で見下ろし指を差す!

「こ、この人です!!間違いありません!」

「そうです!!こいつが私達をあの玉に閉じ込めたんです!」

「こいつが・・・母様を・・私達を人質にして母親に酷いことをしたんです!!」

(げげっ?!ま、まさか・・・まさか・・あのガキ共・・・蛇女の・・・人化してやがる・・・)

「ち、違っ・・・うぐっぅぅぅぅ・・・」

「・・・五月蝿い・・」

ドルゲルが声を上げようとするが怒りに震えるラルフェラの魔眼がドルゲルの全身を締め上げる!そしてラルフェラは今出来る精一杯の優しい声で三人の少女に声を掛ける。

「ありがとう・・助かったわ・・・それと・・本当にごめんなさい。貴方達の母様はこの大暗黒神ラルフェラが責任を持って必ず連れ戻すわ。だからもう少しだけ待っててね。」

「はい!勿体無いお言葉ありがとうございます。」

三人の少女がラルフェラに微笑みながら跪いた。


ラルフェラは当然の事ながら冥界蛇イグとは交流があった。もちろん三人の娘がいる事も知っており仲の良い親子で微笑ましく思っていた。ゼムス達の所で地上に冥界蛇イグがいるのを見た時、真っ先にドルゲルの顔が頭に浮かんだのだ。しかし暗黒神ドルゲルでも許可無く暗黒神の力を解放する事を厳しく禁止している為に神界の森最強の冥界蛇イグを力で従わせる事は出来ないのである。ならば方法は一つである。ラルフェラはゼムス達の所から急いでドルゲルの執務室へと向かった。そこで案の定冥界蛇イグの娘達が捕まっている封印の宝玉を見つけたのであった。

ラルフェラは湧き上がる怒りで目を細めると魔眼に力が入る。ドルゲルの身体が徐々に締め上げられる・・

ミキッ・・ベキベキベキッ・・・

(うぐっ・・むぐっ・・うごっ・・・く、苦しい・・・し、死ぬ・・・)

「ドルゲル・・・お前のような輩がいるから闇を司る我等の名を地に落とすのよ・・・人間界で闇の加護が悪の象徴となるのよ!!もうお前の言い訳など聞く気は無いわ!問答無用で暗黒神の称号を剥奪する!!エンデモル(剥奪)!!」

ラルフェラが手をかざすとドルゲル身体から青紫のオーラの塊が抜け出しラルフェラの手の中に吸い込まれて行った。

(うがっ!!・・くっ・・くそっ!!こ、こうなったら・・・)

ドルゲルは魔眼の拘束から解かれると膝を付き項垂れる。

(待て・・ここを出るまでは・・・)

「ドルゲル。お前は神界の秩序を乱した罪で封印の牢獄300年に処す!!連れて行け!」

「「はっ!!」」

(なっ?!ふ、封印の牢獄?!300年?!そ、それは駄目だ!!あそこに入ったら何も出来なくなる!!)

ラルフェラの命令により控えていた漆黒のフルプレートアーマーを身に纏った騎士が暴れるドルゲルの両脇を抱えて引きずって行く。

「くそぉぉぉぉ!!放せぇぇ!!この神界で暗黒神の資格を持つのはこの俺だけだぁぁ!!いいのかぁぁぁ!?暗黒神の席が空席になるんだぞ?!下界の加護を支える神が居なくなるんだぞ?!それでも良いのか?!」

「ふふっ・・・そんな事言われなくても分かっているわ。だけどお前は何か忘れているようね?もう一人居るわよ?暗黒神の資格を持つ者がね・・・」

「な、何だって?!だ、誰だ・・・」

ラルフェラはふとそこに佇む三人の少女を意味ありげに見た・・・するとドルゲルがその意図に気付く・・・

「・・・まさか・・・冥界蛇イグか?!」

「ご名答・・・だから安心して罪を償って来なさい!!だけど300年後に出られるか分からないわよ?私が見て反省してなかったら・・・ふふっ。」

ラルフェラの顔が一瞬歪みドルゲルの全身に寒気が走る・・・

「なっ?!」

(・・そ、そこまでするのか?!俺を永遠に封印する気か?!・・・くそっ・・あそこに入ったら何もかもお終いだ・・・も、もうやるしか無い!だが焦るな俺!ここを出るまで待つんだ・・・あの厄介な魔眼が届かない所まで行けば・・・)

ドルゲルは歯を食い縛り顔を歪め引き摺られながら部屋を出て行くのだった。



漆黒の騎士の二人はドルゲルを引き摺りながら封印の牢獄がある地下道を進み最深部にある真紅の扉の前で立ち止まった。

「ふん!暗黒神だからと調子に乗った結果がこれか?ザマァないな?ほれ!自分で開けて入れ!!」

どかっ!!

「うぐっ・・・痛っ・・」

漆黒の騎士二人が真紅の扉に向かってドルゲルを乱暴に投げつけた。ドルゲルは扉にぶつかりその場に膝を付いた。

「クククッ・・・いい気味だぜ!!今までよくも散々コケにしてくれたな?さあ!今日からここが貴様の住処だ!!ある意味お前はここの主になるけどな!あーっはっはっはっはっはぁーー!!」

(ふん・・ここまで来れば大丈夫だな・・・)

するとドルゲルは俯きながら嘲笑う漆黒の騎士の二人を他所に口角を上げ静かに立ち上がった。

「くくくっ・・・」

「むっ?!気でも触れたか?」

「ふっ・・無駄な抵抗は為にならんぞ?お前はラルフェラ様に力を取り上げられたんだ。そんな力では我等には勝てんぞ?!」

「・・・つくづくおめでたい奴等だな・・・このドルゲル様が何故大人しくこんな所まで来たと思っているんだ?!頭が緩いんだよ!!ふん!誰がこんな所に入るか!!これでも喰らえ!!」

ドルゲルは懐から真っ赤な玉を取り出すと漆黒の騎士の足元に投げつけた。

「なっ?!そ、それは封印の宝玉?!」

バリィィイン・・・

漆黒の騎士達の足元で封印の宝玉が砕け散ると頭が二つある大きな犬型の魔物が現れ牙を剥き出しにして漆黒の騎士二人を見下ろしていた・・・

バルゥゥゥゥ・・・
ゴルゥゥゥゥ・・・

「な、なんて馬鹿な事を・・・こんな所で封印の宝玉を・・・こ、こいつは・・オルトロスか・・・」

「くそっ・・オルトロス・・”火焔級”か・・とにかくこいつを外に出す訳には行かんぞ・・・」

今にも飛び掛かって来そうなオルトロスを前に漆黒の騎士二人が目を逸さずに剣を抜いて少しずつ後ずさる。

「ふん!邪魔をされては困るんでな!暫くそいつと遊んでろ!!さてと俺はどの道、神界には居られないからな・・・こんな所からはおさらばするぜ!!〈転生〉!!」

ドルゲルが得意顔で虚空に手をかざした。しかし何も起きずに静けさだけが漂っていた。

「な・・なぜ・・どうして何も起きない・・何故だ!!」

「クククッ・・・馬鹿な奴だ。知らなかったのか?〈転生〉を発動させるには大暗黒神ラルフェラ様の許可がいるんだよ!」

「ククッ・・・会議中に居眠りばかりして居るから聞いてないんだろう?〈転生〉だけはラルフェラ様に申請して封印を解いて貰わなければ発動しないんだよ!馬鹿が!!」

「何ぃぃぃ?!」

(な、なんだと?!・・・あ・・そ、そう言えばそんな事を言っていたような気がする・・・くそっ!寝てる間に封印したのか・・・いや・・・まだ方法はある・・・出来ればやりたくないが・・・くっ・・・しかしいつ出れるか分からん牢獄に入るよりはマシだ!)

「おい!オルトロス!!そいつらを蹴散らせ!!」

ドルゲルは覚悟を決めてオルトロスの背に飛び乗ると地下道の出口へと走り出す!!

「グロォォォォォア!!」

ドルゲルを乗せたオルトロスは雄叫びを上げて漆黒の騎士達に目掛けて突進する!

「おい!まずいぞ!!止めろ・・・ぐはぁぁぁ!!!」

「だ、駄目だ!!二人では抑えられん・・・ごはぁぁぁ!!!」

オルトロスは漆黒の騎士達を蹴散らし出口へと向かった。出口に着いたドルゲルはオルトロスを乗り捨て急いで行動を開始するのだった。

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