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第145話 メルベリアの初仕事

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アンリル達は急いで領主の屋敷に向かう。

「取り敢えずガインは無事ね!でも・・・とんでもない奴が1人いるわ!それも至近距離に!恐らく交戦中よ!!急がないと!!」

「そうですね!これは魔族クラスです!!それも上位の魔族ですね!ガインさん!!無事でいてくださいね!!」

アンリルとサリアは索敵を展開すると何も知らずに一心不乱に走るのであった・・・



「ねんぇぇ・・・主様ぁぁ・・これからどうするのじゃ?」

メルベリアがガインの腕に絡み付き妖艶な表情でガインを見上げる。ガインは左腕に密着する柔らかい感触に緊張する。

「あぁ・・お、俺達がここに来たのはここの領主が俺達を奴隷にしたいらしくてな。だからお礼参りと捕まっている子供達を解放する為に来たんだ。まずはここの領主を取っ捕まえる!」

ガインが気持ちを切り替えるように真っ直ぐ屋敷の入口に向かって歩き出す。メルベリアもガインの腕に絡み付いたまま付いていくと用心棒の男達は後ずさるように道を開ける。

ざざっ・・・

用心棒の男達はメルベリアに恐怖を覚えていた。躊躇なくダイゲルの手首を切り飛ばし首を刎ねようとしたのだ。もしガインが助けなければ間違いなく皆殺しになっていた。男達は刺激する事なくこの場を凌ごうとしていた。

「ふむ・・馬鹿な領主よのう。ちょっかいを出す相手を間違えたのじゃな・・・確かにここの領主は生簀かない男じゃったな・・・妾も魔剣士を通して見ておったが此奴らも捕まっている子供達に酷い事をしておったの・・・」

「何だと?!」

メルベリアが怯える男達を汚物を見るような目で見下ろすとガインの表情が険しい表情で男達を見下ろした。

「貴様等・・・子供達に何をした?!」

「ぐっ・・そ、それは・・・」

(くっ・・・余計な事を・・・)

男達の思惑はメルベリアの一言で崩れ去った。ガインの問いに男達は答える事が出来なかった。男達は只々震えながら慈悲をかけてもらえる事を祈るばかりであった。

「貴様等・・答えられないのか?!・・いいだろう。メルベリア・・・こいつらの前で教えてくれ。捕らわれた子供達がどんな目に遭ったのを・・・」

「ふむ。主様・・それは良いが覚悟して聞くのじゃ・・」

ガインが覚悟を決めてメルベリアに頷くとメルベリアは絡めた腕を解き震える男達の前に立った。

「ふむ。まず此奴らは攫って来た8人の子供達の衣服を全て剥ぎ取ったのじゃ。そして毎日憂さ晴らしのように殴る蹴るを繰り返しておった・・・毎日の食事など残飯同様な物を朝投げ付けるのじゃ。それを必死で食べる子供達の姿は妾から見ても目を背けたくなる悲惨な光景じゃった・・・その上・・此奴らは・・男の欲望を・・男の子も女の子も関係なく・・・」

ビキッ・・・

「・・もういい・・・」

ガインは聞くに耐えれずメルベリアの言葉を遮った。そして怒りの闘気を神力に変え苦悶の表情で目元を濡らしていた・・・

「・・もういい・・・よく分かった・・・」

ガインはゆっくりと腰の剣を抜き神力を纏わせるとメルベリアの前に出る。すると男達は後退り自分達の末路を想像する。

「ガ、ガイン・・殿・・す、すまねぇ・・ゆ、許してくれ・・・そ、それに・・あ、あんたには関係ない事だろう?・・・し、知らないガキがどうなったって・・・」

スヒュヒュン・・・

「えっ?!」

どさっ・・どさっ・・・

ダイゲルは何が起こったのか分からず足元を見ると手首の無い二本の腕が転がっていた・・・

「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!俺の腕がぁぁぁぁ!!!うがぁぁぁぁぁぁ!!!」

ダイゲルか激痛でのたうち回る。その光景を男達は只々怯えながら見ていた。次は自分の番だと思うと腰が抜けて尻餅を付いてしまった・・・

「た、た助けて・・・」

「や、や、やめてくれ・・・た、頼む・・」

男達が尻餅を付いたまま後ずさる・・・ガインは苦悶の表情で肩を震わせながら男達に剣を向ける。

「・・・もう喋るな・・貴様等は子供達の悲痛な叫びに耳を傾けなかったんだろう!!貴様等が子供達に与えた恐怖と苦痛と恥辱とひもじさと悔しさとそして・・・消える事のない心の傷を思うと・・・貴様等を生かしておく理由が見当たらねぇんだよぉぉぉぉ!!」

ずばぁぁぁぁん!!

「ひぃっ!!!!」

ガインが剣を石畳に一振りすると男達の側に横一文字の深い溝が刻まれる!しかしその一撃を見たメルベリアがガインの右腕に絡みついた。

「主様・・・」
「な、なんだ?!」

「主様。ここは妾に任せるのじゃ。主様はすべき事をしておくれ・・・」

メルベリアが男達を見据えながらガインの前に出る。

「ど、どうして・・・」

「妾も此奴らは許せぬのじゃ。ゴミの始末は妾に任せて主様は領主を捕まえるのじゃ。」

メルベリアは肩越しに優しく微笑み頷いた。

メルベリアはガインの一撃に迷いがあるのを感じた。その一撃を男達に向けていたなら事は終わっていたのだ。メルベリアは迷いがあれば後悔し思い悩む事になるのを知っているのだった。

「メルベリア・・・すまない。後は任せたぞ。」

「ふむ。承ったのじゃ。」

ガインはメルベリアを残して屋敷の中に消えて行った。

(うふ。心優しい主様じゃ・・こんなクズを始末するのも迷うとは。この世界にもあんな人間がおるのだのう・・・それに比べて・・・)

メルベリアは青紫の魔力を立ち昇らせ男達の前に立ちはだかる。

「ま、待ってくれ・・・」
「す、すまなかった!!謝るから!!」
「た、助けてくれ!!た、頼む!!」
「や、やめてくれ・・・な、何でもするから・・・」

しかし男達の命乞いにメルベリアの目が紅く染まり笑うように開いた口からは鋭い牙がのぞいていた・・・

「黙れクズ共・・・妾は主様程優しくはないのじゃ・・・主様からの初仕事・・・ふっ・・貴様・・何でもすると言ったな・・・ならば・・・死んで償え!!」

メルベリアの魔力が膨れ上がり魔族の本性が表情に現れる!!

「死ねぇ!〈フェザーストーム〉!!!!」

メルベリアの魔力に反応して空を重厚な黒雲が埋め尽くす!そして鋭い刃物の様な羽が無数に舞う巨大な竜巻が男達に襲い掛かる!!

「うげぇぇぇ!!」
「死にたくないぃぃ!!ぎゃぁぁぁ!!」
「こんな死に方ぁぁぁ!!ぐがぁぁぁ!!」

巨大な竜巻は男達を引き摺り込み無数の羽根で切り刻む!!そして竜巻が男達の血で真紅に染まるのだった。

「ふう。いつの世もクズの死に際は気分が良いわ。」

メルベリアが真紅の竜巻に手を翳すと竜巻が浮き上がり街の外へと消えて行くのだった。


「マ、マジか・・・あ、危なかった・・・こんな所長居は無用だ・・・」

こっそりと屋敷の角に身を隠して様子を見ていた魔剣士サーベルトが立ち上がり裏門から出て行く。

「はぁ・・・参ったね。飼い犬に手を噛まれるってこういう事を言うんだね・・・」

ドスッ・・・

魔力切れで足元をふらつかせながら屋敷を離れようと歩き出したその時・・・背中に衝撃が走った・・サーベルトは自分の胸に目を落とすと胸から真っ赤な何かが生えているのに気付いた・・

「ゲフッ・・・な、なんだ・・・これ?」

「ふん。逃す訳ないであろう。それとお前の飼い犬になった覚えはないのじゃ・・・」

メルベリアの風を纏った手刀がサーベルトの心臓を背中から貫いていた。

「こ、こんな所で・・・ごふっ・・・」

「ふん。馬鹿な奴じゃ。クズ共の仲間になった時点でお前の末路は決まっていたのじゃよ。」

メルベリアが腕を引き抜くとサーベルトは口から血を吹き出し糸が切れた人形のように崩れ落ちるのだった。
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