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第143話 許されざる所業

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「ファイヤー・・・」

アンリルが空にかざした手の上には直径10mはあろう火の玉が太陽の様に燃えていた。

「アンリルさん!!駄目です!!建物に向かってそんな巨大な火の玉を放っては絶対駄目です!!建物ごと焼き払うつもりですか?!」

サリアが慌てて止めに入る。

「大丈夫よ!初級魔法だし、門を壊すだけだから・・・」

「駄目ですって!!もうそれは〈ファイヤーボール〉の威力じゃないんです!!アンリルさんの〈ファイヤーボール〉は〈フレア〉級の威力があるんですよ!!」

「あっ・・そう・・・憂さ晴らしに派手に行こうかと思ったのに・・・」

パチン!

サリアの必死の表情にアンリルは肩を落として指を鳴らすと強大な火の玉を一瞬で消し去った。そしてムスッとした顔で頑丈そうな門に向かって手をかざす・・・

「ウィンドカッター!」

スヒュン・・・ヒュン・・・

がこんっ!!がががっ!!ずずぅぅん・・

金属製の門がパンでも切るように裁断され崩れ落ちた・・・

(あ、主様・・・ア、アレが〈ファイヤーボール〉だったのですか?!それにあの〈ウィンドカッター〉の威力・・・普通ではあり得ないのですが・・・」

フェニックスが目をまん丸くして呆然としていた。

「ん?・・え、えぇ・・そうよ。アンリルさんの感覚で行くとアレは普通の〈ファイヤーボール〉なのよ・・・あれでも魔力をかなり抑えているのよ。私の知る限りアンリルさんはこの世界で魔法だけなら世界最強よ。だから私はアンリルさんから魔力操作を教えてもらったのよ。言わば私の師匠なの。」

「えっ・・・あ、主様の師匠様?!す・・凄い・・あの方はこの世界で最強と言っても過言ではないのですね・・・」

カトプレパスも同様に目を見開き立ち尽くしていた。

「いいえ・・・それは違うわ・・」

「「えっ?!」」

サリアの呟きに幻獣2人がに同時に振り向きフェニックスが恐る恐る口を開く。

「あ、主様・・・ま、まさか・・あの方にも師匠が?」

「・・・そうよ。アンリルさんの師匠でもあり私達の師匠でもあるわ。その子は私が知る限り世界最強よ。いずれあなた達も会う事になるわ。楽しみにしておいてね。」

サリアがニッコリと笑うとフェニックスとカトプレパスが違和感を感じて顔を見合わせる・・・

(・・・私の聞き違いか?今、主様は〝その子〝と言われたか?)
(うん。間違いなく〝その子〝と言われたよ・・)

「あ、あの・・あ、主様・・・」

「ん?何?」

サリアが振りむき首を傾げる。

「その・・し、師匠と呼ばれているそのお方はもしかして・・・その・・あの・・・かなり・・お、お若いのですか?」

フェニックスが失礼の無いように言葉を選びならが話すがサリアはあっけらかんと口を開いた。

「えぇ。私より歳下よ。だけどね・・・強さに年齢は関係無い事が痛い程分かるわ・・・あなた達もどんな相手も見た目で判断しては駄目よ・・・くれぐれも気を付けてね?」

「な、何と・・・アンリル殿より歳下なら納得出来るが・・・主様よりも・・・」

フェニックスが言葉を続けよとした瞬間・・途轍もない殺気が迫って来た・・・

「はうっ!!!寒っ!!」

気付けばフェニックスの肩に腕を回して至近距離で魔力を冷気変えたアンリルがそこに居た・・・

「ふう・・・フェニックス君・・・何がどんな風に納得出来るのか・・そこんとこ詳しく聞かせてくれないかしら・・・何なら・・・君の炎と私の氷・・・勝負してみる?」

フェニックスは突然の恐怖と寒さと震えに同時晒され、肩を凍らせながらカタカタと震えるばかりであった・・・当然の事・・自分がアンリルに勝てる要素は微塵も無かった。その光景を見ていたカトプレパスも余りのアンリルの迫力に呼吸をするので精一杯であった・・・

「・・・ア、アンリル・・殿・・は・・お、大人の・・う、美しさを・・ま、纏っていらっしゃりゅ・・・こ、子供には早いかと・・・お、思ったので・・・」

フェニックスが苦し紛れに言葉を放った。そしてカトプレパスが呼吸困難で意識を失いそうになる瞬間!魔力の緊張が解ける。

「ふふっ!分かってるじゃない!!じゃあさっさと片付けるわよ!!」

アンリルが機嫌を良くすると踵を返して建物の中に消えて行った。

「「ぶはぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」

2人共にアンリルの魔力のプレッシャーから解放されて心の底からため息を吐いていた
・・・

(し、死ぬかと思ったぁぁぁぁ・・・こ、これから年齢の話は禁句であるな・・・)

(そ、そうですね・・・危なく氷の彫像になるところでしたね・・・)

改めてアンリルの恐ろしさを体験した2人であった。


敷地内に入居るとアンリルとサラマンダーの戦いで起きた高温の水蒸気に晒されて吹き飛ばされた男達が打撲と全身火傷で呻いていた。

「た、たずげで・・・し、死ぬ・・・」
「うぅ・・・いでぇぇぇ・・だ、誰か・・」
「いでぇよ・・・いでぇよ・・・」

アンリルは建物の入り口付近で呻いている男達の前に立つと面倒臭そうに手をかざす。

「邪魔よ!〈ウィンド〉!!」

ばびゅぅぅぅぅ!!!

「うがぁぁぁぁぁ!!!」
「あひぇぇぇぇぇ!!!」
「ひでぇぇぇぇぇ!!!」

アンリルが軽く放った風属性初級魔法は男達を巻き上げ敷地の外へ吹き飛ばした。

「うぅ・・・ひでぇ・・・怪我人を・・」

「くっ・・・暴君アンリル・・その二つ名・・ま、間違いない・・」

仲間を吹き飛ばされた男達がアンリルから離れようと踠きながら後ずさる・・・

男達の言葉にアンリル苛つきを覚えた。子供達の未来を理不尽に奪っている男達の自分勝手な言葉に・・・

「ふざけるんじゃ無いわよ!!自分達のやってる事を棚に上げて好き勝手言ってるじゃないわ!!悪党にかける情けなんか欠片もない!!文句があるなら・・・ここに捕まってる子供達にあんたらの処分を決めてもらおうかしら?・・さあ・・どんな処分が降るかしらね?私は・・子供達の判決に従うわよ・・覚悟しておく事ね・・・」

アンリルの言葉に男達は怯えた・・・自分達が子供達にして来た事を・・憂さ晴らしにして来た事を・・・絶対に許される事の無い所業に・・・ひたすらに後悔した・・目の前のアンリルという名の絶対的な恐怖に・・・


アンリルは索敵を展開して建物の一階の奥にある扉を開けるとまるで知っていたかの様に地下に続く階段を降りていく。その後をサリア達が付いて行った。

そしてアンリルが突き当たりの扉を開けた瞬間・・何も言わずに閉めた。

バタン・・・

「アンリルさん。どうしたんですか?」

「サリアちゃん・・ここから先は・・私に任せて。」

「えっ?!どうして?」

「いいから!!私に任せて。・・・それとミハエル君から貰った魔力タンクの指輪を全部頂戴!!」

サリアはアンリルの迫力に頷くしか無かった。サリアはミハエルからもらった魔力タンクの指輪10個をアイテムボックスから取り出してアンリルに渡した。そしてアンリルは中へ入ると扉を固く閉めて地下室へ降りて行った。

・・・アンリルさん・・突然何があったの・・あの迫力・・普通じぁないわ・・・

アンリルは地下室への扉を開けた瞬間に匂いで気付いてしまった・・・
男の匂いが子供達に何をしたか気付いてしまったのだ。アンリルは決意した。自分の全てを使ってでも子供達を守ると・・アンリルにとってサリアはまだ子供なのである。そんなサリアに子供達の惨状を見せる訳にはいかなかったのだった。

アンリルが地下へ降りて行く・・・不快な匂いが鼻を突く・・・地下に降りると鉄格子の部屋が2部屋あり男の子と女の子と4人づつ分かれていた。
アンリルは鉄格子の向こうの子供達を見て唇を噛み締め拳を握る・・

「・・な、何て事を・・・」

子供達は服を着て居なかった・・生まれたままの姿で身体は無数の痣で腫れ上がり怯えた目をして身を寄せ合い部屋の隅で震えていた・・・

アンリルの全身の毛が逆立つ・・・

「・・・ゆ、許せない・・絶対に・・・誰が止めようとあいつらだけは・・・」

アンリルの魔力に怒りの感情が付与され子供達が怯えるように部屋の隅に固まる。

「ア、アンリル殿・・・お気持ちは察します。しかし子供達が怯えて居ます。外の奴らは私達にお任せください。・・・今はアンリル殿がすべき事を・・・」

ジンはアンリルの感情が昂り魔力が溢れるのを感じて姿を現したのだった。

「・・・そ、そうね・・ありがとう。奴等は任せたわ。」

アンリルはジンの言葉に気持ちを鎮めて目を閉じる。

そしてアンリルは子供達に微笑みかけながら〈ステータス1/100減〉の指輪を全て外して〈魔力タンク〉の指輪を装備する。すると地下室がアンリルの優しい魔力に満たされ子供達の表情も幾分か落ち着きを取り戻して行った。

「うん。もう大丈夫よ。だけどもう少しだけ辛抱してね。・・・私はあなた達の未来を護りたいの・・・幼いあなた達にこんな酷い心と身体の傷なんて背負ってほしくないの。これが良い事なのかなんて分からないけど・・・行くわよ・・・時空魔法〈リウエインド〉!」

アンリルが両手を子供達にかざすと身体の中から魔力がごっそりと奪われる!更にもの凄い勢いで魔力が減り続ける!子供達は激しい頭痛に襲われて頭を抱えて蹲っていた。

時空魔法最高峰魔法〈リウエインド〉。指定した生物の時間を巻き戻す自然の摂理を捻じ曲げる魔法である。
〈異世界魔法〉にある〈記憶操作〉の魔法の選択肢もあった。しかし心の奥深くまで刻まれた傷はふとした瞬間に蘇るのをアンリルは知っていたのだ。

アンリルの額に汗が滲む・・・この世界の魔法ではない〈異世界魔法〉。それも最高峰魔法の使用により〈太陽神の加護〉を持つアンリルと言えども限界が直ぐそこまで来ていた・・・

「も、もう少しだからね・・・辛抱してね・・・綺麗な心と身体で・・お家に帰ろうね・・・」

アンリルは目の前の子供達の頭痛も治り痣が消えて行く姿を胸に残り少ない魔力を練り上げる!

「あと・・・もう少し・・・あともう少しだから・・・」

しかしアンリルの魔力は底を尽きかけていた。それでもアンリルは全身に力を入れて踏ん張り声をあげる!!

「私は光の使徒!!〈太陽神の加護〉アンリル!!この命にかけて子供達の未来を護る!!私の生命力を舐めるんじゃないわよ!!!」

アンリルの魔力が尽き生命力を削る覚悟をした瞬間であった。突然、背中から暖かい魔力が身体に流れ込んで来た。

(な、何?!・・どうして・・)

「アンリル殿!助太刀致します!」

そこにはアンリルの背中に手を添えて魔力を練り込むジンが居た。

「ジン?!なんで?!危険よ!!」

「アンリル殿・・・集中してください!貴女のその姿を見て奮い立たない者がいるものか!それに貴女に何かあれば主様が悲しむ!」

「ジン・・・」

すると背中からもう一つ大きな魔力が流れ込む!

「ふっ・・・アンリル殿!先程の口上痺れたぞ!!我も付き合うぞ!!」

「ベヒモス・・・」

そしてもう一つ魔力の流れが加わる!

「アンリル様は本当はお優しい方なのですね。少しだけ誤解しておりました。そのお詫びに私の魔力も使ってください。」

「クラーケン・・・」

あんた達・・・ありがとう・・・

アンリルは目頭が熱くなり歯を食い縛り耐える・・・そして奮い立つと魔力を練り上げる!

「行くわよ!あんた達!意地でも子供達を無事に家に帰すわよ!!!」

「当然!!」
「おぉう!!」
「えぇ!!」

アンリルが3人に声を掛け鼓舞すると何処からともなく大きな魔力と共に少し拗ねたような声が響く・・・

「あらあら・・・巨大な神力を感じて来てみれば・・私だけ除け者は酷いではありませんか・・・」

天井から現れたのは緑のドレスに身を包んだ森の最上級精霊エントであった。

「エントか!!拗ねてる暇があるなら手伝ってくれ!!」

ジンが必死の形相で言い放つ!!

「もちろんですよ。ミハエル様がまたアンリルさんが無茶をしているみたいだから見て来て欲しいと言われたのです・・・確かに予想を越えた無茶をしていますね・・・だけど・・子供達を護る無茶なら嫌いじゃありません。」
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