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第124話 騎士団長ユミラスの憂鬱

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 セルフィア王国騎士団詰所にて赤い表紙に銀の縁取りの本を読む騎士団団長ユミラスがいた。

ユミラスは娘のリリアに勧められ娘との会話の為にと何気なく読み始めたのだ。内容は面白く大人ながらに胸が躍り夢中になって読み進めて行った。

(ふむ。・・・これは先の東の森のスタンピードに感化されて書かれたものだろうな。それにしてもこの臨場感溢れる生々しい表現がまた面白い。よくこんな見て来たような展開を思い付くものだな・・・・んっ?)

ユミラスは次の展開を楽しみにページをめくった。そして読み進めて行くうちにユミラスの眉間に皺が寄り始め、顔を突き出し本を食い入るように読み出した。

(こ、この内容は・・・に、似ている・・いや!正に俺達の戦いだ・・・こ、これ程事細かに・・何故だ・・団員が酒場で話したのか・・・いや・・それでも・・・この作者の妄想であっても・・酷似し過ぎだ・・・)

そしてユミラスが次の行に差し掛かった瞬間に全身に寒気が走った・・・


『メイシス様よ・・ほら人間の危機だぜ・・あの本が実話なら・・・実話なら手を貸してくれぇぇぇぇぇぇ!!!!』


そこには自分しか知らないはずのセリフが一言一句違わずに書かれていた。

「こ、これはぁぁ!!!」

ガタンっ!!

ユミラスは思わず座っていた椅子を吹き飛ばし声を上げて立ち上がった!

ま、間違いない・・・こ、この本を書いた奴は・・見ていたんだ・・・それも至近距離で・・っ!!・・ま、待てよ?!・・・そ、それなら・・この本に書かれているのは・・全て事実?!ま、まさか・・・これは・・東の森のスタンピードの全貌・・・ウィランダの街での本当の出来事か!!!だ、誰だこの本の著者は・・・サーシャアズナブル・・・ま、待て・・・何処かで・・・はっ!!どこだ!確かここに・・・

ユミラスは突然自分の鞄の中を漁り始め一冊の本を探し当てて最後の表紙の裏を確認する。

「や、やはり・・・『新・闇と光の物語り』と同じ・・サーシャアズナブル・・・ま、まさか・・・」



ウィランダの街から出発した乗り合い馬車は街から二時間程の場所に居た。馬車には男三人女性一人の冒険者パーティーと若いカップルが乗り合わせそこにサーシャも乗っていた。

馬車の中はもっぱらスタンピードの話で盛り上がり和気藹々の雰囲気であった。

サーシャはメモを片手に何やら考え込む仕草をしながらペンを走らせていた。
すると隣に座っていた冒険者の赤髪の女性がサーシャに気付いて声を掛けた。

「あなたお名前は?私はロジーナよ。」

「ん?・・サーシャよ。」

サーシャはチラリとロジーナを見て一瞬口元でニコッと挨拶するとすぐにメモに目を移して再びペンを走らせた。

「ねぇ?それは・・何を書いてるの?」

ロジーナは興味に駆られて覗き込もうとするとサーシャはメモを胸に押し当ててロジーナを睨んだ。

「駄目!!・・・その内分かるわ!それまでは見ちゃ駄目!!」

ロジーナは何か分からないサーシャの迫力に嫌な汗が背中に流れた・・・

(な、なに・・この圧迫感は・・・)

「あ、うん・・・ご、ごめんね・・・」

「なあ?どうした?」
「う、ううん。なんでも無いわ・・・私がちょっと邪魔しちゃたのよ・・・」
「そうか・・それよりなんか空気が重くないか?」

冒険者の男がメモにペンを走らせているサーシャを見ると目の錯覚かサーシャの周りの空気が歪んで見えるのであった。

そして五分程馬車に揺られているとサーシャの〈索敵〉に複数の反応が出て弾かれるように頭を上げる。

「あっ!!」

(あれは・・やっぱり何匹か逃げていたのね・・・早くしないと・・・)

「えっ?!何?!」

周りの冒険者達や若いカップルも驚いてサーシャに注目する。」

サーシャは驚いた皆の顔を見渡すとニッコリ笑って首を傾げる。

「お花を摘みに行ってきます!!ちょっとだけ待ってね!」

「え?・・お花・・・って!!あ、危ない!!!」

ロジーナが焦って手を伸ばすがサーシャは走る馬車から飛び降りて森へと走って行った。

「えっ・・・?と、飛び降りた・・?は、早っ・・・」

ロジーナは走り去るサーシャの背中を唖然として眺めていた・・・

「ふっ・・お花摘みか・・・女の子だな。しょうがない!待っててやるか!」


(ぎやぁぁぁぁぁ!!)
(腕がぁぁぁぁぁ!!)
(駄目だぁぁぁ!助けてくれぇぇ!!)

サーシャが〈隠密〉の指輪をはめて森を走っていると遠くの方から男達の悲鳴が聞こえてくる!

(急がないと!!!)

サーシャは声がする方へ全力で向かった。するとリーダーらしき男が怒号を上げて大きな剣でドラゴニュートをよろけさせていた。

(へー!やるじゃない・・・あれは・・セルフィア騎士団・・・じゃああの人は団長さんね・・・だけど・・・もう限界ね・・・)

サーシャはユミラスがドラゴニュート3匹に攻められ膝を付いたのを見て魔法を発動しようと手をかざすとユミラスが何かを言っているのに気付いた・・・サーシャは耳を澄ませて聞いた。そしてサーシャの口元が緩む。

(・・・ふふ・・・このセリフ・・・頂きました!)

するとサーシャはニヤリと笑いユミラスの懇願に応えるように魔力を解放し森の中に声を響かせる。

「いいでしょう。力を貸しましょう。」

サーシャは今度こそセルフィア騎士団に手を翳して魔法を発動させた!

(〈パーフェクトヒール〉!!からの!これはサービス!〈オーバーオール・中〉!!)

そして光に包まれたセルフィア騎士団は誰一人欠けることなくドラゴニュートを殲滅したのだった。

ふう。なんとか間に合ったわ・・ドラゴニュートを逃したのは私のミスだからね・・・ごめんね!それに良いネタも手に入ったし一石二鳥だわ!さーてと!お花を摘んで行かないとね・・・でも・・女って面倒よね・・外でお手洗いに行く度にお花を摘まないといけないなんて・・

サーシャは急いで森に咲く花を片っ端から摘むと森から出て馬車に向かうのだった。



騎士団の詰所でいきなり立ち上がった団長に他の団員が驚き唖然としていた。

「だ、団長・・大丈夫ですか?」

セルフィア王国騎士団第一参謀シーメルが恐る恐る声を掛けた。

「あ、あぁ・・・少し考え事だ・・・」

しかしシーメルは団長が手に持っている本を見て大体の察しが付いた。あの内容は他の団員からも騎士団の森での戦いに似ていると報告を受けていたのだ。

「団長・・その本の内容の事ですね・・?」

「んっ・・あ、あぁ。・・この本はあの森での事を見ていなければ書けない内容なんだ。それに・・俺の考え通りならこの本は東のスタンピードの報告書そのものだ。」

ユミラスが本に目を落とすとシーメルも静かに頷く。

「やはりそう言う事でしたか・・・私も著者について調べてみたのですが口止めされていて王の命令でなければ教えん!と突っぱねられました。」

「・・・そうか・・・ふむ・・」

煮え切らないユミラスの表情をみてシーメルは口を開く。

「団長・・・もしかしてあの時の不思議な力の事をお考えですか?」

ユミラスは少し驚いた顔をしてシーメルの顔を見る。

「ふっ。流石だな・・・お前の言う通りだ。俺達全員の傷を治し、死にかけた者を何事もなく治し、身体の欠損すら治す治癒魔法・・そして俺達全員にとてつもない力を与えた身体強化魔法・・俺はこんな力は『新・闇と光の物語り』の中でしか知らん。
そして『新・闇と光の物語り』も著者はサーシャアズナブルだ。となれば・・・」

ユミラスは『新・闇と光の物語り』の本の表紙を見据えた。そして本の上部を掴みシーメルに突き付ける。

「この本に書かれている事は全て真実かも知れん!!それなら光のメイシスには五人の使徒がいる。そしてこのとてつもない回復魔法と身体強化魔法を操る使徒は〈天界神の加護〉のリナだ。このセルフィア王国内にリナの関係者がいる。そしてそれがサーシャアズナブルの可能性が高いんだ!」

(おい・・また始まったよ・・御伽話を真に受けてるよ・・・)
(そうだよな・・今更どうやって昔話の真相が分かるんだよ。)
(作者の妄想に振り回されて・・大丈夫か?)

ユミラスは団員の陰口を他所に我ながら完璧な自論を展開する。しかし黙って聞いていたシーメルがユミラスが持っている本を受け取り表情を曇らした。


「なるほど・・そう言う事でしたか・・・確かにそれならば辻褄が合います。・・しかし先程も言いましたが王の命令が無ければ知る事が出来ないのです。・・裏を返せば王が関係者に緘口令を敷いているのです。」

「・・・何?!」

ユミラスがシーメルの言葉にキョトンして暫し固まった。

「な、何故だ?・・陛下は何を知っているんだ?どうしてなんだ?」

「そればかりは私も分かりません・・・ただ・・ミハエルという者が関係していると思われます。」

「ミハエル?・・・た、確か2年前にこの王都で暴れた奴だったか・・・そ、そういえば陛下が言っていた。今回のスタンピードを発見したのはミハエルが絡んでいるとか・・だから間違いないとか・・・」

ユミラスは眉間に皺を寄せながら”スタ果て”に目を落とす。

陛下は一体何を危惧されているのだ・・・・

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