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第122話 報告

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セルフィア王が騎士団長ユミラスの報告を受けて驚愕し玉座から立ち上がった!

「な、なんとそれは誠か?!冒険者100人そこそこで1000単位のスタンピードを討ち滅ぼしたと言うのか?!それも数百匹の危険度Aクラスのドラゴニュートとコカトリスをか?!そ、その上、神獣ヤマタノオロチをも倒したと?!?!?!」

「は、はい。私達がウィランダの街に着いた時には街を上げて魔物の回収をしていました。間違いありません。」

「なんと・・・王都に飛来したワイバーンやコカトリスも事前に知っていたから対処出来たのだぞ・・・でなければどれ程の被害が出た事か・・・」

「陛下。ご心中お察しいたします。実は私達もウィランダの街への道中300人の部下とリザードマンやドラゴニュートと交戦しました。やはり危険度Aクラスとなるとかなり手強く苦戦を強いられました。死者は出ませんでしたが負傷者が多数と重傷者が数十名出た程です。」

(くっ・・しかし・・)

ユミラスは眉間に皺を寄せて奥歯を噛み締める。

見れば騎士団長の金色の鎧には生々しく爪跡のような傷が幾つも刻まれ色は剥がれあちこち凹んでいた。

セルフィア王はユミラスの痛々しい姿に肩の力を抜いて玉座に身を預ける。

「むう・・・そうか・・お前程の者でもか・・しかしユミラスよ怪我人を多く抱えてていた割には到着が早かったな。」

「は、はい。・・・そ、それは・・・」

ユミラスは王の質問に俯き躊躇するが意を決して話し出すのだった。



セルフィア王国騎士団団長ユミラス率いる300人の精鋭部隊が東の森で発生したスタンピードの鎮圧に向った。そしてワイバーンの大群を避けて森の中を進軍していた騎士団の前に何かに追われるように向かってくる数十体のリザードマンとドラゴニュートに遭遇したのだった。セルフィア騎士団はなり振り構わず迫り来るリザードマンとドラゴニュートに襲われ騎士団300人の精鋭達が次々と負傷していった。

「隊列を乱すなぁ!!負傷者した者は下がれぇぇ!!!魔法隊!!死ぬ気でうちまくれぇぇぇ!!!!」

魔法隊から各種属性攻撃がドラゴニュートに撃ち込まれる!しかし竜族の魔法耐性は高く足止め程度にしかならなかった。

「さっきから魔法が効いて無い?!・・・クソッ!!ならこれでどうだぁぁぁ!!!」

ギイィィィン!!ガギィィィィン!!

団員がドラゴニュートに切り掛かるが手に伝わってくるのは硬い何かに打ち付けた衝撃であった。

「か、硬い!!う、嘘だろ?!魔法剣だぞ?!何で剣が通らないんだ?!」

騎士団達の剣は魔法付与が施されており攻撃力が格段に上がっているはずであった。だがその魔法剣を持ってしてもドラゴニュートの硬い鱗を斬り飛ばす程度であった。

「ぎやぁぁぁぁぁ!!」
「腕がぁぁぁぁぁ!!」
「駄目だぁぁぁ!助けてくれぇぇ!!」

団員達は普段は魔法剣を携え自分達は何者にも負けない最強の騎士団と自負し自惚れていた。しかし強敵ドラゴニュートの前に恐怖し脳裏に死の文字が浮かぶのであった。

団長ユミラスは必死の形相で大剣を振りがさし団員達に大声で叫ぶ!!

「怯むなぁぁ!!斬れば傷付く!そこを何度も狙えぇぇ!!!諦めるなぁぁぁぁ!!!」

ユミラスが魔法が付与された大剣を渾身の力で横凪に振るった!その切先はリザードマンを両断しその勢いでドラゴニュートの脇腹の硬い鱗を砕き皮膚を切り裂いた!

「グギャャャ!!!」

「うおっ!!さすが団長ぉぉ!!!」
「俺達も続くぞぉぉぉ!!」

(くっ・・ぜ、全力の一撃でこの程度か・・ああは言ったが骨が折れるぜ・・・)

すると脇腹から血を流すドラゴニュートの目の色が変わる。

「グルロロロロロ・・・」

(チッ・・怒らせただけか・・・)

そして次の瞬間!ドラゴニュートがユミラス団長の左右と正面から襲い掛かった!!

「クソッ!!魔法隊!!援護を頼む!!」

「団長!!魔法隊の魔力が尽きかけてます!これ以上は危険です!!」

魔法隊も魔力切れで肩で息をして膝を付いている者もいた。ユミラスは剣の柄を両手で握り直し覚悟を決めて構える!!

「そうか・・・じゃあ俺達でやるしか無いな!!来やがれトカゲ共ぉぉぉ!!」

そしてドラゴニュート達の激しい波状攻撃がユミラスを襲う!!

ギイィィィン!ゴギィィン!バギィィィン!

しかし小回りの利かない大剣では防戦一方であった。次第にドラゴニュートの攻撃がユミラスを捉え始めた。

「がっ!!ぐふっ!!」
「くそっ!ぐはっ!!」
「ちくしょぉぉ!!ごはぁ!!」

「団長ぉぉぉ!!!」

ドラゴニュートの攻撃が少しづつユミラスの身体を削り取っていく。そして金色の鎧が自らの血で赤く染まり遂には自慢の大剣が身体を支える杖となっていた・・・

「く、くそっ・・・くっ・・・こ、ここまでか・・・」

「団長ぉぉぉ!!立って!!立ってください!!」

団員の声は届いているがユミラスは息も絶え絶えで脚に力も入らず大剣の柄を握ったまま膝を付いた。そして大剣の腹に額を付け肩で息をするのだった。

「はぁ、はぁ、はぁ、、、こ、この前リリアに勧められた・・あの本は何だったか・・・中々面白かったな・・確か・・光のメイシスだったか・・・なぁ・・メイシス様よ・・ほら人間の危機だぜ・・あの本が実話なら・・・実話なら手を貸してくれぇぇぇぇぇぇ!!!!」

ユミラスは恥も外聞もなく最後の雄叫びの様に光のメイシスに懇願した。

しかしドラゴニュート達は絶望したユミラスの背後に立ち、止めとばかりに大きく鋭い爪を振り上げ力を込めた。

「いいでしょう。力を貸しましょう。」

突然女性の声が森に響くと森の中の空気が一変しドラゴニュート達の動きが止まり怯えるように辺りを見渡した。

「グギャッ!?」「グゲッ?!」「グゲゲッ?!」

「な・・に・・?」

ユミラスは何が起こったのか分からず思考が追いつく前に蒼白い濃密な魔力がセルフィア騎士団達の身体を包み込んだ。
暖かい魔力は腕や脚を斬り飛ばされてもがく者、身体を貫かれて虫の息で倒れている者、魔力切れで倒れている者も等しく治療し湧き上がる力を授けたのであった。

「お、俺の腕が・・・ある?!どうして・・・」
「俺の脚も・・・何が起こったんだ?」

「こ、これは・・・身体が・・動く!傷が・・跡形もなく消えている・・?!な、何だ?!力が・・溢れてくる!!!」

ユミラスはゆっくりと立ち上がり身体を動すといつも両手で振るう大剣を当たり前のように片手で構えると軽々と振り回す!

「ふん!」

ブオッ!ブンッ!ブォン!!・・・ブンッ!

「す、凄い・・・今なら何が来ても負ける気がしない・・・そう言えば・・さっきの声は・・・まさか・・・」

ユミラスが森を見上げると森の空気は一変し清々しさを取り戻した。
そしてドラゴニュートの目に怯えが無くなり先程の続きとばかりに襲い掛かって来た。

「ふっ・・光のメイシスに感謝を込めて・・」

ユミラスは襲い来るドラゴニュート3匹を片手で持った大剣で丁寧に横に薙いだ。

シュパン・・・

手元には来るはずの衝撃は無くドラゴニュート3匹は真っ二つになって地べたに転がった。

「素晴らしい・・これが光のメイシスの力か・・」

ユミラスは大剣を掲げて尊敬と感謝念を贈るのであった。

そして周りを見れば団員達も今までの苦戦が嘘の様にドラゴニュートを圧倒し討ち取って行った。そして約30体いた危険度Aクラスのドラゴニュートをあっという間に殲滅したのだった。

「だ、団長!一体何が起こったのでありますか?!私達はどうなったのですか?!」

団員達がユミラスの元へ集まり歓喜と不安の表情を浮かべて答えを待った。

そしてユミラスは大剣を空に掲げ頭に浮かんだ言葉を素直に口にした。

「”光のメイシスの奇跡”・・・俺達は光のメイシスに力を貸してもらったんだ・・・」

「えっ?!」

団員達は意外な答えに訳が分からないと首を傾げて顔を見合わせるのであった。



セルフィア王はユミラスの報告を黙って聞いていた。そして聴き終わると口元を緩める。

「ふむ・・・そうであったか。ユミラスよ、ご苦労であった。戻って身体を休めるが良い。」

(んんっ?!)

ユミラスは王の意外な反応に驚いていた。こんな神頼みな出来事をまともに納得してもらえるとは思っていなかったのだ。事実、団員達は本の読み過ぎだと陰で笑っている事も知っているのだ。

「お、恐れながら・・陛下。わ、私の話を信じて頂けるのですか?」

「うむ。お前程の男の報告を疑う道理は無いわ。この世界には人外で不思議な力が渦巻いておるのだ。実はわしも数年前にその力に出会ったのだ。
ユミラスよ。お主は自分自身の力でその力を引き寄せたのだ。流石我がセルフィア王国騎士団長ユミラスじゃ!わしは誇らしいぞ!」

「・・・はっ!ありがたき幸せ!!それでは失礼致します!」

頬を緩ませ語り掛ける王の言葉に涙するユミラスであった。

王はユミラスが謁見の間を出て行くのを見送ると肩の力を抜き玉座に身を預ける。そして懐から一冊の本を取り出して栞を挟んである頁を開いた。

「ふう・・・さて、続きを読むとするかな・・・ここからか・・・ふむ・・」

セルフィア王は頬を緩ませ中断された物語りに目を落とすのであった。



「なあ?あの子・・サーシャちゃんだったか?”お花を摘みに行く”って言ってたけどどこまで摘みに行ったんだ?それに何でこんな所で花なんか摘むんだよ!」

「馬鹿!女の子がお花を摘みに行くって事はアレよ・・・分かるでしょ?」

「アレって何だよ?」

「もう!!改めて言わせないで!!お手洗いよ!!」

「あーーー!!そう言う事か!!悪りぃ、悪りぃ・・・んっ?・・・ぷぷっ・・か、帰って来たみたいだぜ・・」

冒険者の男が森の方を半笑いで指を指す。同じ冒険者パーティーの仲間が指差す方を見るとそこには両手いっぱいの色とりどりの花を抱えて駆けて来るサーシャの姿であった。

「は、はは・・ガ、ガチのお花摘んできやがった・・・」

「ふふ・・お、面白い子ね・・・」

乗り合わせた冒険者達は満面の笑みを溢しながら駆けて来るサーシャを眺めるのであった。
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