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第141話 神々の楽しみ

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『あれだけの事があったのにまだ昼過ぎとは・・・』
ダンが呟きスープを口に運ぶ。

そして目の前でエルがいつも通り爆食している。

セルナが手を止めてエルの食べっぷりを眺める。
『ご、豪快な食べ方なのね・・・あ!私のお肉・・・』
時折正面からフォークが伸びておかずを奪われる。

『ぶはぁ!おいしかったぁ!!!!
ごちそうさま!!』

背もたれに身体を預けてひと心地つく。
『ミリア達は今頃報告してるかな?何事も無ければいいけどね。』

セルナはワインを傾けながら食堂の入り口を眺める。
『私の想像が正しければもうすぐ迎えがくると思うわ・・・。』

すると執事服を着こなした紳士がエルの側に歩み寄り一礼する。
『失礼致します。〈英雄の弟子〉のエル様でこざいますね?』

エルは振り向き驚く。
『あうっ!そ、そうなの・・・。』

『申し遅れました。私はレイドリア伯爵の執事をしておりますセルジュと申します。
主人がこの度のエル様の働きに礼をしたいと申されております。
ですので皆様もご一緒に屋敷へ御足労願えませんか?』

エルが目をパチクリさせながら皆を見ると軽く頷く。
『う、うん!分かったの!でもデザートがまだ来てないからちょっと待ってて!』

セルジュはニッコリ笑い一礼する。
『かしこまりました。ごゆっくりお召し上がりください。』

(こ、この子供とも思える身体からもの凄い魔力が溢れている・・・自分も腕には自信があったが・・・このテーブルに付いている者達に勝てる気が全くしない・・・)
セルジュは背中に冷たい汗が流れるのを感じていた。


エル達は豪華な馬車に揺られてレイドリア伯爵邸に到着する。
セルジュに案内されて部屋の前に来ると中から怒鳴り声が聞こえてくる。

『ゾイルかな・・・』
エルが呟く。

『お察しの通りでございます。』
セルジュがなんとも言えない顔で一礼する。
そして意を決してノックすると怒鳴り声が収まり部屋に通される。

『ノイル様、お連れ致しました。』
 
ノイルと呼ばれた男は筋骨隆々の身体をしておりゾイルの顔面を片手で掴んでいた。
ソファにはミラドとミリアが座って苦笑いしている。

『おお!君が〈英雄の弟子〉か!!』
ノイルは徐にゾイルを投げ捨て事もあろうにエルに殴りかかる!!

『なっ・・!!』

皆が驚いたが、その拳はエルの人差し指で軽々止められていた。

エルは小さくため息をつく。
『殺気が無かったから良かったけど下手をしたら死んでたの!
この程度で済んで良かったの。』

『うぐっ!!』
ノイルが膝を付く。
見ると服の胸の部分が横3本に切れている。

『い、いつの間に・・・全く見えなかった・・・』
ノイルは胸を押さえ思っていた以上の結果に愕然とする。

『父上!何をしているのですか?!馬鹿な事はやめてください!!あれ程駄目だと言ったでしょう?!』
ミラドが父親を叱りつける。

『くっ!むうぅ!これ程とは!!
これは参った!!すまない!〈強い者を見ると試さずにはいられない病〉なのだ!!
改めてノイル・レイドリアだ。ミラドの事礼を言うぞ!!・・・うぐっ・・・何か困った事があったら遠慮なく言ってくれ!力になるぞ!・・・ごふっ・・・』
痛みに顔を歪めながら話している。

『エルさん、こんな父親でごめんなさい。この病気は死なないと治らないみたいです。』
ミラドが諦め顔で頭を下げる。

『厄介な病気なの。お大事に・・・。』


エル達は部屋を出て応接室で紅茶を啜っている。

『私達は明日〈アルファ王国〉に向かうけどエルはどうするの?』
セルナが一緒に行こうと言ってくれる事を期待の眼差しでエルを見る。

エルは出されたお菓子を食べながら
『私はしばらくこの街にいるの。ミリアの特訓とギルドの改革を見てからアルファ王国に行く事にするの。』

セルナは残念な顔をするがすぐに立ち直る。
『そう、、、じゃあ今日はパーッと豪華な食事会でもしましょう!!!』

『あっ!それならここで用意させてください!!』
ミラドはセルジュを呼んで話をする。

『かしこまりました。皆様ゆっくりとお寛ぎください。』

目が輝きニッコリ無邪気に笑う〈精霊の神〉がそこにいたのであった。



【神様の部屋】
『遂に世界初の〈精霊神〉が誕生したか・・・人類でわしらに1番近い存か・・・楽しませてくれるわい。
・・それにしても・・・あ奴の焦りっぷりは傑作じゃったのう!!!!』

『そうそう!!上から目線で喋っていたのにあの慌て様は笑えたわ!!
その上集めたインゴット全部持って行かれて唖然としてたわね!!笑っちゃうわ!!』

『本当に笑えたよ!!
これで地上で神に接触したのは2回目
か・・。
前の奴は魔族だったか・・・命からがらダンジョンをクリアしてたな。
まあ、今のダンジョンに比べたら大した事無かったけどね。』

『・・・なんだか楽しそうだな・・・何の話だ?!』

『お、おう!お主か!!久しぶりじゃの!
そんなに怖い顔してどうしたのじゃ?』

『惚けるな!!地上にあんな化け物を放っておいてどうする気だ?!
その気になったら世界が滅ぶぞ?!』

『何を言っているのかしら?化け物なんて知らないわよ。
地上は逆に平和になっているわよ!』

『一体何があったのかな?教えてよ。(ぷぷっ)』

『くそっ!嬲るな!〈英雄ハヤト〉を
知っているよな?!
あの化け物の師匠だろ?!どんな存在だ?!』

『おお、おお、〈英雄ハヤト〉か。知っておるぞ!彼奴はただの人間じゃよ。
この世界で1番優しく1番強い存在じゃ!
お主も見てみるか?
〈英雄ハヤト〉の物語を!
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