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第5章 夢から覚めない

3・青い時代

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「進路希望調査今日までだって~、出した?」
「うん、とりあえず進学って書いといたけど」
「へぇ~、あたし特に行きたいとこないんだけどなぁ~。同じとこでいい?」
「えー」

 教室のあちこちから、似たような会話が聞こえてくる。
 2年生になると、嫌でもこういうことを意識せざるを得なくなってくる。先生とかからもそれを口に出されるし、何より少しずつ残り少なくなっていくを、みんな自分から急に意識し始めるのがこの時期なんだと思う。
 3年生の先輩とかを見てるとある程度方針も決めて、それか開き直って、どこかスッキリしたような様子の人が多い。でも、わたしたちはまだそこまで行けてない。
 わたしなんかはまだ全然意識してないからいつも通りでいられるけど、中には急に焦りを募らせている人もいたりする。それで、変なことに関わっちゃったりする人も、少なくないみたいだ。

 進路希望調査。

 もちろん、学校だって集めなきゃいけない物なんだろうけど、そんな焦りを更に増しちゃうような気がするのはよくないのかな? そんなことを思いながら、今回も適当に『進学』と書いておく。もちろん、具体的なことは何も決まってないけれど、たぶんほとんどのみんながそうだろうし。

「おっ、三好みよし進学すんだ? へぇ~、どこどこ?」
 後ろから面白がるように覗き込んできたのは、案の定江崎えざきくんだった。
 2年生になってから、彼はわたしにけっこう構ってくれるようになった。
 たぶん、冬に言ってしまった言葉が、まだ効いているのだろう。もちろん、わたしに直接、そのことについて何かを言ってくるわけじゃない。だけど、向けられる視線がどこか気遣わしげで、たぶんわたしに何か起こらないかって気にかけてくれているらしいことはわかる。
 あー、そんなんだからちーちゃんも不安がるんじゃないかな。
 わたしのことなんて、いいのに。

「江崎くん、びっくりするから後ろからとか……。江崎くんはどうすんの?」
 そういういろんなことを思いながら、江崎くんに訊き返す。

「俺かぁー。とりあえず絵を描きたいから、そういうとこ行こうかな」
「漠然としてるなぁ~」
 屈託のない笑顔に、つい呆れてしまう。いっそ清々しい。たぶん、彼は本当にまっすぐ前を向いているのかも知れない。ううん、たぶん江崎くんだって色々悩んではいると思うけど、わたしにはそう見えてしまう。

「なるべく、やりたいことはやっときたいんだ。後悔したくないし」
 ……まっすぐなんだなぁ、ってちょっとだけ眩しくなる。
 その眩しさを、少し和らげたくなって。

 わたしは、江崎くんに触れた。
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