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第4章 わたしは誰?
6・光にかえる
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「じゃあね、みよ」
「うん、また来週ね、ちーちゃん」
すっかり暗くなるのが早くなって、そういう時間帯になると肌寒さを感じるようになった放課後。わたしは教室を出て行くちーちゃんを見送ってから、時計を見る。
「……あと20分くらいかな」
そうしたら、塾に行こう。
つい最近、わたしは学校近くの塾に通い始めた。
家の近くにも有名な塾があるけど、そういうところだとどうしても昔のことを知ってる人がいる可能性が付きまとう。もちろん、今通ってるところだって中学校の同級生が来る可能性はゼロじゃないけど、でもたぶんほとんどない。それもあって、わたしはその塾に通い始めた。
高校に入って初めての冬。
今年もそろそろ終わる。
たぶん、この1年でいろんなことがあった。
中学校卒業前に先生との関係を知られて。
大好きだった先生とはそれでおしまいになって。
家出して、美希さんと煉さんに出会って。
お父さんに連れ戻されて、自由をなくして。
全然わたしのことを知ってる人がいない場所に来て。
どうにかして新しい人間関係を作って。
段々、マイでいることにも慣れてきて。
一応恋人と呼べる人もできて。
その恋人とも、こないだ別れて。
いろんなことが変わった。
目まぐるしくて、まるで物語のダイジェストを見ているような気分。
恋人との別れは突然だった。12月に入ってからのことで、だから思い返してみるとまだ1週間とちょっとくらいしか経っていない。もうずっと前のことみたいに思えるけど。
『もう、疲れた』
たった一言。
お互いの性欲を発散するようなセックスをし終えて、彼の言うまま、彼のに付いた精子を舐めとってたら、ふっと頭上からそんな言葉が投げかけられた。舐められて勃ってたくせに、そう言ったらすぐにわたしを自分から遠ざけて、服を着始めていた。
わたしはどうすればよかったんだろう?
そのとき、その声が本当に疲れたような声だったから、わたしには何も言えなくて。
彼の家から帰る途中でやっぱり辛くなって色々試したけど、もうどうやっても彼には繋がらなくて。
そんな風にあっさり、彼とは終わってしまった。
「疲れた、って……。わたしだってそうだよ」
机に突っ伏して、深く息を吐く。あ、駄目だ。いろんなこと考える。思い出したら苦しむだけのこととかも、色々思い出して気持ち悪くなる。あぁ、ただでさえ今週お腹痛いのに。立ち上がると頭がくらくらするから、もう少しこのままでいたい。
でも、何も見えない状態でいると、色々思い出すせいで今度はストレスでお腹が痛くなりそうで。
どうにか立ち上がって、教室の窓を開ける。
こういうとき、窓際の席っていいね。
冷たい風に吹かれてると、何か気持ちがすっきりするような気がした。
ただの錯覚だった。
疲れたってさ、わたしだってそうだよ。
ふっと、窓の外に見える宵闇色の景色がグッと近付いたように見えて――――
「う~、寒ぃ。あれ、三好まだいたんだ。ていうか、窓なんて開けてたら寒くね?」
――そんなわたしを教室の中に留めてくれたのは、江崎くんの忘れ物だった。
「うん、また来週ね、ちーちゃん」
すっかり暗くなるのが早くなって、そういう時間帯になると肌寒さを感じるようになった放課後。わたしは教室を出て行くちーちゃんを見送ってから、時計を見る。
「……あと20分くらいかな」
そうしたら、塾に行こう。
つい最近、わたしは学校近くの塾に通い始めた。
家の近くにも有名な塾があるけど、そういうところだとどうしても昔のことを知ってる人がいる可能性が付きまとう。もちろん、今通ってるところだって中学校の同級生が来る可能性はゼロじゃないけど、でもたぶんほとんどない。それもあって、わたしはその塾に通い始めた。
高校に入って初めての冬。
今年もそろそろ終わる。
たぶん、この1年でいろんなことがあった。
中学校卒業前に先生との関係を知られて。
大好きだった先生とはそれでおしまいになって。
家出して、美希さんと煉さんに出会って。
お父さんに連れ戻されて、自由をなくして。
全然わたしのことを知ってる人がいない場所に来て。
どうにかして新しい人間関係を作って。
段々、マイでいることにも慣れてきて。
一応恋人と呼べる人もできて。
その恋人とも、こないだ別れて。
いろんなことが変わった。
目まぐるしくて、まるで物語のダイジェストを見ているような気分。
恋人との別れは突然だった。12月に入ってからのことで、だから思い返してみるとまだ1週間とちょっとくらいしか経っていない。もうずっと前のことみたいに思えるけど。
『もう、疲れた』
たった一言。
お互いの性欲を発散するようなセックスをし終えて、彼の言うまま、彼のに付いた精子を舐めとってたら、ふっと頭上からそんな言葉が投げかけられた。舐められて勃ってたくせに、そう言ったらすぐにわたしを自分から遠ざけて、服を着始めていた。
わたしはどうすればよかったんだろう?
そのとき、その声が本当に疲れたような声だったから、わたしには何も言えなくて。
彼の家から帰る途中でやっぱり辛くなって色々試したけど、もうどうやっても彼には繋がらなくて。
そんな風にあっさり、彼とは終わってしまった。
「疲れた、って……。わたしだってそうだよ」
机に突っ伏して、深く息を吐く。あ、駄目だ。いろんなこと考える。思い出したら苦しむだけのこととかも、色々思い出して気持ち悪くなる。あぁ、ただでさえ今週お腹痛いのに。立ち上がると頭がくらくらするから、もう少しこのままでいたい。
でも、何も見えない状態でいると、色々思い出すせいで今度はストレスでお腹が痛くなりそうで。
どうにか立ち上がって、教室の窓を開ける。
こういうとき、窓際の席っていいね。
冷たい風に吹かれてると、何か気持ちがすっきりするような気がした。
ただの錯覚だった。
疲れたってさ、わたしだってそうだよ。
ふっと、窓の外に見える宵闇色の景色がグッと近付いたように見えて――――
「う~、寒ぃ。あれ、三好まだいたんだ。ていうか、窓なんて開けてたら寒くね?」
――そんなわたしを教室の中に留めてくれたのは、江崎くんの忘れ物だった。
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