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第4章 わたしは誰?

4・ネオンライト

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三好みよし、何か具合悪そうじゃないか? 大丈夫?」
 そう声をかけられたのは、ちょっとだけ居心地の悪くなった打ち上げが終わって、解散した後だった。
 楽しそうに連れ立って帰っていくみんな(中には二次会といってカラオケに行く人もいるみたいだった)の中にどことなく入りにくくて、帰宅組の外れで連絡をとっていたときに、後ろから訊かれた。

「え、なに?」
「ん……、なにってことはないけどさ。何か、無理してそうっていうか」
 江崎えざきくんは、ちょっと困ったようにそっぽを向いている。
 その視線の先には、お仕事とかが終わるくらいの時間でいよいよ賑やかになってきたお店の明かりに焼かれる暗い夜空と、そんな光の届かない星明かりしか見えない。
 でも、何となく江崎くんを見ているのも気まずくなって、わたしも同じ方角を見る。
「無理?」
「うん、何となくな」

 隣から聞こえてくる声は、どこか昔を懐かしんでいるみたいに聞こえて。

 うー、とかあー、とかちょっと唸る声が聞こえた。
 そんな姿がどこか懐かしくて、思わず噴き出してしまった。

「何かキモいよ、そうやって唸ってるの」
「まじか」
「うん、何か言いづらいことでもあるの?」
 わたしも覚えてることがある。
 江崎くんがそうやって唸り声を上げるのは、何か相手に遠慮してるとき。覚えてるっていうか、そういう風に唸ってる姿を見て思い出したことだけど。
 そういうの、意外とわかるんだよ?
 隣から、「あ~」と観念したような声が聞こえて。
 
「小学校のときさ、三好すっげぇ熱出したの覚えてるか?」
「熱?」
 熱なんて、きっと何回も出している。
 中学校のときなんて先生に看病に来てほしいっていう理由で何度もを出したし。もちろん、その後のことは言うまでもない。お母さんもお父さんもいない家の中ですることなんて、そんなに多くない。
 いろんなことを思い出して、目が回る。
「熱って、それでどうしたんだっけ?」
 だから早く聞いてしまうに限る。
 江崎くんがどんなことを思い出しているのかを。

「ん、いやさ。確か合唱コンクールだったかのときに三好、熱出したんだよ。明らかに辛そうなのに、誰よりも頑張っててさ。『だいじょぶだいじょぶ』なんて笑ってても呂律回ってなかったりして。
 何かさっきまで女子と話してた三好の顔が、ちょっとそんときの顔に似てたような気がしてさ。何かわかんねぇけど無理してんなら休んだっていいんじゃねぇの、とか思ってたんだよね。で、大丈夫なのか? きつそうだったら近くまで送るか?」
「いい、うちの近くとか来なくても」

 そう答えたわたしの声は、どんなだったろう。
「お、おぉ。悪い」
 そう返してきた江崎くんの声が少し強張っていて。ちょっとだけ胸が痛んだ。
 だから、そのお詫びに?
 たぶんちょっと違う。
 家に帰りたくないだけ?
 よくわかんない。
 たぶん、考えるよりも前に言っていた。

「うちじゃなくて、江崎くんちとか駄目なの?」
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