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第4章 わたしは誰?

2・レゾン・デートル

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 校舎3階の社会準備室。
 準備室――という名前はついているけど、たぶん実際はただの空き部屋。社会の先生たちがここを使っているところなんて、見たことがない。たぶん、鍵がなくなっていることにだって誰も気付いてないんじゃないか、って思うこともあるくらい。

 使うとしたら、一部の生徒。
 今のわたしたちみたいに、をしてる生徒たちだけだ。

「へぇ、それにしても随分綺麗な衣装だよね。器用な子もいるもんだね」
「そんな適当な褒め言葉はいいですから早く済ませてください、先輩」

 心にもないような褒め言葉を聞いている時間なんてない。それに、先輩とここにいるっていうことをできるだけ知られたくないから、早く戻りたい。クラスのみんなと過ごすあの空気の中に、早く戻りたいから。
「ふぅん…………、けっこうな態度じゃない」
 松永まつなが先輩の声が少しだけ低くなる。
三好みよしちゃんさぁ、忘れてない? 俺がってこと」
 まぁ、俺が言っても信じないかも知れないけどね――どうでもよさげに付け加えられた言葉にも、わたしは安心なんてできない。だって……。

「つっても、面白がっていろんな方面に拡散する連中はいそうだけどね。それこそ、遠くに離れた昔の友達にだって知られるかもなぁ~、今ってそういうことが簡単にできる時代だから」

 わたしは知ってる。悪い噂ほど広がりやすいってこと。
 そして、その悪い噂は間違いなく人と人の関係を変えてしまうことを。それでわたしは、中学校での居場所を失くして、大好きだった人を失って、帰る場所を失くした。
 あんなこと、もう2度と嫌だから。
「やめて、ください……」
「じゃあどうすればいいんだっけ? 三好ちゃんはから知ってるっしょ?」
 見下したような声。
 欲望まみれの声。
 それでも、逆らうことなんてできない。

「あれ、お返事がないなぁ~。ま、いっか。それにしても凄いよねぇ、他校の娘と仲良くしとくもんだよ。まさか美人って評判の新入生のショーゲキの過去?ってやつを知ることができるなんて。これ、たぶんみんなビックリしそうだな~」
「先輩、わたし、わかってます。わかってますから……。だから早く――」
 その言葉も言わせてもらえないまま強引にキスされる。
 口の端から垂れる熱くて粘っこい雫と、全身を伝う汗。
 誰も入ってこない空き教室に響く水音と、2人の声。

 ごめん、汚れたらちゃんと洗うから。
 言い訳にもならない言葉は、身体の奥から芽生える熱に溶けて消えた。
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