ねぇ、神様。わたしはあなたに復讐したい。

鏡上 怜

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第4章 わたしは誰?

1・まっくら世界

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「おーい、衣装どんな感じ~?」
「みんなセリフ覚えたー?」
 学校の中はいつもよりずっと賑わっていて、わたしたちの教室にも独特の緊張感が走る。演劇部から借りた暗幕とか窓いっぱいの新聞紙とかを使って暗くされた室内では、開場を今か今かと待っている熱気と、緊張した熱が混ざり合っている。
 教室の外で受付を担当しているゆいちゃんたちが、事前の呼び込みを頑張っているのが聞こえる。

『空前絶後の、最恐お化け屋敷劇場やりますよー!』
『是非お願いしまーす!』

「うわぁ~、ちょっとハードル上がり過ぎ?」
「やっべぇこっちのクオリティめっちゃ低いって」
「練習したし、頑張ろ?」
 真っ暗な――薄明りだけの視界の中で、わたしたちは高校に入って初めての文化祭を迎えていた。
 食べ物の模擬店とか、テーマに沿った展示とか、そういうものが並んでいる中で、わたしたちのクラスは『ホラー劇』をすることになった。基本的には演劇なんだけど、その途中途中で観客を驚かせるようなホラー演出を盛り込んだ形の劇。

 出し物を決めるときに最後まで演劇派とお化け屋敷派で分かれていて意見がまとまらなかったから「じゃあくっつければいいんじゃない?」と誰かが言ったのがきっかけだった。

 確かに意見はまとまったんだけど、いざやるとなると凄く難しいことのような……。
「うまくできるかな……」
「まぁ、何とかなるでしょ」
 浮かれた声で賑わう中で、少し落ち着いた声でわたしを励ましてくれたのは、ちーちゃんだった。スラっと背が高くて、どちらかというと(見た目は)かっこいい部類なちーちゃんは、この劇でも主人公を助けるお兄さんの役をしている。
 薄明りで見えるその姿は、やっぱりかっこいい。励まされると何だかドキドキしてしまう。
「ありがと、ちーちゃん」
「みよ、めっちゃ練習頑張ってたじゃん。だから大丈夫だよ」

 ちーちゃんが男装している姿は、当たり前なのかも知れないけど、どこかあの人に似ていて。目の前にいる親友に隠さなくてはいけないものがあることに少しだけ胸が苦しくなって、「そうだね、ありがとちーちゃん」とだけ返す。

 でも、もう1つわたしには誰にも言っちゃいけないことがある。

 第1回の劇が終わって、30分くらいの休憩時間。
 スマホを見ると、やっぱり『3階の社会準備室』という淡白なメッセージ。

「ごめん、ちょっと出てくるね」
「おっ、次は11時だから早めに戻ってきなよ~」
 そんな軽い言葉で見送られても、わたしの心は重い。歩きながら『すぐ行きます』と返して、階段を上がる。それから誰も立ち寄らない3階に着いて、社会準備室の扉を開ける。
 その先には、いつものように。

「おっ、それ劇の衣装? お姫様のお付き役だっけ、何かよさげだね」
「あんまり汚さないでくださいね、先輩。まだこれ着て出るんで」
「わかってるって」

 信用なんてできそうにない笑みの形に顔を歪めている男の人――松永まつなが 孝多こうた先輩の姿があった。
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