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第3章 再会、苦悩。
10・再会、苦悩。
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夏休みが近付いたのを1番実感できるのは、たぶん期末テストが終わった後くらいだ。でも、その後で夏休みがなくなってしまうんじゃ意味がない。
「はぁ……」
思わずついた溜息に答えてくれるのは、教室の窓から見える大きな木に止まっている蝉の鳴き声だけだ。まるでわたしを茶化すように騒ぐその声を聴いているのにうんざりはしたけど、こうなったのも自業自得だから仕方ないと言えば仕方ない。
夏休みが始まって数日くらい経った月曜日。
わたしは教室で補習を受けていた。
期末の成績がかなり悪くて、他の教科は日頃の授業態度とかも考えてくれる先生だから何とかなったけど、理科総合Bの先生だけはそれが通用しなくて、結局それだけ補習を受けることになってしまった。先生の都合で、夏休みが始まってから最初の月曜日――今日に受けることになった。
『ん~、三好さん普段のワークとかの課題はよくできてるのになぁ……、ちょっと調子悪かった?』
そんな先生の苦笑が頭によみがえる。
それは、ある意味仕方ないのかも知れない。
中間試験が終わったくらいの――夏の気配が感じられるようになってきた時期に、わたしはシンヤさんと出会ってしまったから。
シンヤさん――わたしが家に帰りたくなくて探していた「マイ」のお相手さんの1人。
夏服に袖を通して間もないくらいの頃に、この学校の辺りよりずっと都会っぽい駅前で出会った人。年齢は20歳。たぶん、すごく遊んでそうな人。こっちが真面目に好きになってもその気持ちには答えてくれなさそうな人。そして、ちーちゃんのお兄さん。
中学校で友達が1人もいなくなって、高校でやっとできた友達。
そんなちーちゃんのお兄さんと、わたしは出会ってからほとんど毎週セックスしていた。
シンヤさんは、気分次第でわたしを呼んでいた。それに応えなきゃいけないわけではない――別にわたしとのことをみんなに言いふらすとかそういうことを口に出すわけではなかったし、呼び出される時も『まぁ来られたらでいいからさ』と軽く笑いながらだ。
だけど、拒否するのが怖かった。
口でいくらいいことを言ったって、そうしようと思えばできる状態にシンヤさんはある。もちろんそんなことをしたらシンヤさんだって危険だけど、わたしは致命的だから。
だから、考え付くだけの理由を作って、わたしはシンヤさんと会っていた。
それが続くうちに、たぶん疲れがたまっていたんだと思う。
家に帰ればどうせ、1番いやなことが待っているに決まっている。実の父親から向けられる性欲ほど気持ち悪いものなんて、きっとそうはないに違いない。
だったらまだ、こうやって補習とかになって家にいずに済む方がよっぽどいい。あ、でも遊びに行ったりできなくなるのはやっぱりつまらないかな……?
そう思いながら先生が来るのを待っていたら、教室の後ろのドアがガラッと開いて、江崎くんが入ってきた。
「あれ、三好? へぇ~、こんなところにいるイメージないなぁ」
ジリジリと響く蝉の声以外の音が、どこか静かだった教室に沁み込む。その後、江崎くんが「何か暗くね?」と言った声で、教室の電気をつけてなかったことに気付いた。
「江崎くんも補習?」
「まぁね。生物のところがよくわかんなくて」
「――――」
言葉を失った。
照れたように笑う江崎くんは、まるで居残り授業を受けさせられている小学生みたいに無邪気に見えた。当然あの頃よりずっと背も高くなったし、声だって低いし、顔だちだって大人びている。
だけどどうしてか、その笑顔はあの頃のままに見えて。
そんな彼を通してあの頃の自分を見せつけられているような気持ちになって。
『なんでそうなっちゃったの?』
昔の自分から、そう言われたような気持ちになって、どうしようもないくらい頭が痛くなって。
その日は久しぶりに、お父さんが起きているうちに家に帰った。
「はぁ……」
思わずついた溜息に答えてくれるのは、教室の窓から見える大きな木に止まっている蝉の鳴き声だけだ。まるでわたしを茶化すように騒ぐその声を聴いているのにうんざりはしたけど、こうなったのも自業自得だから仕方ないと言えば仕方ない。
夏休みが始まって数日くらい経った月曜日。
わたしは教室で補習を受けていた。
期末の成績がかなり悪くて、他の教科は日頃の授業態度とかも考えてくれる先生だから何とかなったけど、理科総合Bの先生だけはそれが通用しなくて、結局それだけ補習を受けることになってしまった。先生の都合で、夏休みが始まってから最初の月曜日――今日に受けることになった。
『ん~、三好さん普段のワークとかの課題はよくできてるのになぁ……、ちょっと調子悪かった?』
そんな先生の苦笑が頭によみがえる。
それは、ある意味仕方ないのかも知れない。
中間試験が終わったくらいの――夏の気配が感じられるようになってきた時期に、わたしはシンヤさんと出会ってしまったから。
シンヤさん――わたしが家に帰りたくなくて探していた「マイ」のお相手さんの1人。
夏服に袖を通して間もないくらいの頃に、この学校の辺りよりずっと都会っぽい駅前で出会った人。年齢は20歳。たぶん、すごく遊んでそうな人。こっちが真面目に好きになってもその気持ちには答えてくれなさそうな人。そして、ちーちゃんのお兄さん。
中学校で友達が1人もいなくなって、高校でやっとできた友達。
そんなちーちゃんのお兄さんと、わたしは出会ってからほとんど毎週セックスしていた。
シンヤさんは、気分次第でわたしを呼んでいた。それに応えなきゃいけないわけではない――別にわたしとのことをみんなに言いふらすとかそういうことを口に出すわけではなかったし、呼び出される時も『まぁ来られたらでいいからさ』と軽く笑いながらだ。
だけど、拒否するのが怖かった。
口でいくらいいことを言ったって、そうしようと思えばできる状態にシンヤさんはある。もちろんそんなことをしたらシンヤさんだって危険だけど、わたしは致命的だから。
だから、考え付くだけの理由を作って、わたしはシンヤさんと会っていた。
それが続くうちに、たぶん疲れがたまっていたんだと思う。
家に帰ればどうせ、1番いやなことが待っているに決まっている。実の父親から向けられる性欲ほど気持ち悪いものなんて、きっとそうはないに違いない。
だったらまだ、こうやって補習とかになって家にいずに済む方がよっぽどいい。あ、でも遊びに行ったりできなくなるのはやっぱりつまらないかな……?
そう思いながら先生が来るのを待っていたら、教室の後ろのドアがガラッと開いて、江崎くんが入ってきた。
「あれ、三好? へぇ~、こんなところにいるイメージないなぁ」
ジリジリと響く蝉の声以外の音が、どこか静かだった教室に沁み込む。その後、江崎くんが「何か暗くね?」と言った声で、教室の電気をつけてなかったことに気付いた。
「江崎くんも補習?」
「まぁね。生物のところがよくわかんなくて」
「――――」
言葉を失った。
照れたように笑う江崎くんは、まるで居残り授業を受けさせられている小学生みたいに無邪気に見えた。当然あの頃よりずっと背も高くなったし、声だって低いし、顔だちだって大人びている。
だけどどうしてか、その笑顔はあの頃のままに見えて。
そんな彼を通してあの頃の自分を見せつけられているような気持ちになって。
『なんでそうなっちゃったの?』
昔の自分から、そう言われたような気持ちになって、どうしようもないくらい頭が痛くなって。
その日は久しぶりに、お父さんが起きているうちに家に帰った。
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