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第3章 再会、苦悩。

2・土色の春

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「え、あの、それはえっと、あのね?」
「やっぱりそうか、お父さんたちがどうなったかなんて興味ないか、そうだよな、麻衣まいはもう、昔の麻衣じゃないんだもんな」

 わたしの話を聞こうとせずに話を進めていくお父さんからは、お酒の臭いがした。
 だいぶ前に、お母さんに止められてやめていたお酒の臭いが。
「麻衣がこの家を出てすぐ、お母さんも出て行ったんだ。どこに行ったのかは知らない。たぶんお父さんと2人だけになったのが嫌だったんだろうなぁ。お父さんもお母さんも、たぶん麻衣がいるから一緒にいた――そんな感じなんだよ?」
 小さな声で、俯きながら浴びせられる言葉。

 それはどこか、お父さんとお母さんは一緒にいたんだ、って言われてるみたいで。

「そんなの、わたしの責任じゃないじゃん」
 思わず、そんな言葉が口から飛び出していた。
 わたしの家族。
 半年くらい前にわたしと当時の先生とのを知られてしまってからすっかり変わってしまったけど、わたしは自分の家族が大好きだった。

 いつもニコニコしていて、明るいお父さん。時々変なこと言ったりするけど、面白いから好き。
 いつもは怖いけど、とっても優しいお母さん。悩んでるとすぐ気付いて、話を聞いてくれる。

 そんな、あったかくて優しい家族が、わたしはとても好きだった。
 お父さんの言葉は、そんな家族がまるで偽物だったって言っているようなもので。そんなの、聞きたくない。わたしの知ってた温かい場所が、本当は嘘だったなんて……!

「麻衣がいなくなっちゃうとな、お父さんとお母さんが一緒にいる理由なんてないんだよ」
「やめてよ、そんなこと言わないで!」
 思わず、お酒臭いお父さんの胸を叩く。
 酔っ払って冗談を言っているんだ……ちょっと変な夢と現実がごっちゃになってるだけなんだ……、いろんな理由を探した。お父さんの言葉が本当の言葉じゃない理由を、いくつもいくつも探して、納得したくて。
 その時間を作るためにお父さんの言葉を止めたくて、何度も、何度も。

 でも、それはお父さんの「鬱陶しいし、うるさいよ」という言葉と、乱暴に振りほどく腕の一振りで終わらされてしまった。
「いたっ!?」
 床に背中を打ち付ける。
 一瞬空気が全部外に出て、息ができなくなって。
 どうにか息をして起き上がろうとしたら、手首が押さえつけられた。

「――――――っ!!!?」

 見ると、お父さんがいた。
 ぞっとするような、暗くて…………、燃えるような目でわたしを見ながら。

「え、嘘だよね? 冗談だよね? だって、……違うよね? 違うよね?」
「昔とはもう違ってるんだよなぁ、麻衣はもう、男を知っちゃってるんだよなぁ」
 うわ言みたいに同じ言葉を繰り返すお父さんに、わたしの言葉は届かなかった。



 朝の光に目を覚まして、毎回裏切られる。
 目を覚ますとき、未だにここが美希みきさんとれんさんの部屋なんじゃないか、ってつい期待してしまう。でも、そんなことはないんだって、その数秒後に思い知らされる。

 そんな繰り返し。
 そして今日も、朝日を浴びた居間の中で、こぼれたお酒がキラキラと光っている。
「……おはよう」
 隣で大きないびきをかくお父さんに声をかけて、わたしは立ち上がる。

「もう行くね」
 シャワーで体をしっかり洗い流して、新しい制服を着て、鏡を見る。
 自分の姿なんて見たくないけど、今日から変わらなきゃ。

 今日は、高校の入学式だ。
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