ねぇ、神様。わたしはあなたに復讐したい。

鏡上 怜

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1章 出会ったときには、もう。

7・シューパイ

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「いってきます」
 その言葉に返事がなくなったのは、いつからだろう。
 お母さんは冷ややかな目をチラッと向けただけで、すぐにお父さんの方に向き直った。お父さんは、どこか気まずそうな顔でわたしを見たけれど、お母さんの咳払いでご飯に意識を向ける。

 悪夢みたいな季節が明けて。
 地獄みたいな時間を耐えて。

 ようやく訪れた、卒業の時期。桜の花はまだ蕾の中で眠っているけれど、これでやっと。
 やっと、ここを抜け出すことができる。
 連日大変だった。わたしや侑治ゆうじの意見なんて求められることなく、わたしたちの関係は全国で有名になってしまって。
 学校では周りから更に酷くなったいじめを受けるようになっていた。
 テレビの人とかがひっきりなしに家まで来て、を見たがった。そんなの、わたしじゃないのに。わたしは、可哀想なんかじゃないのに。

 だって、侑治との関係はわたしたちがお互いに望んでなったものだから。

 授業についての質問をしているうちに、段々個人的な悩みも聞いてもらうことが増えて。そのうちに、悩みとか愚痴だとかをただ受け止めてくれるのことがどんどん気になっていって。
 その気持ちが恋かも、なんて思ったりもして。
 だから、求められた時も拒む理由なんてなくて。
 初めてしたとき、恥ずかしくて、ちょっと怖くて、かなり痛かったけど、でも充たされた。
 侑治が、今は誰よりも近い。今は、誰よりも彼の近くにいる。そう思えることが幸せで、だから彼といたことでわたしが「可哀想」なんて言われる筋合いはない。

 だけど、それをわかってくれる人なんていない。
 ただ興味の対象として、軽蔑したような視線を向けられて、同情に似せた好奇の視線なんて何回浴びただろう。何冊の教科書を替えただろう。何個のカバンを買っただろう。美容室代とか、そういう嘘を繰り返して、何回も。
 ネットに散りばめられたコラージュ写真の削除が追い付かなくて。
 それでとうとう家まで突き止められて、もう限界に達してしまった。

 警察に相談するっていうことは、当然家族にも色々知られることになり。
 そういうコラージュ写真が作られるようになった経緯だとかもしっかり調べられて、報告されて。お父さんもお母さんも泣いて、怒って、その後、わたしと侑治の関係は公表されることになった。
『あの男に、しかるべき罰を』
 そう言ったお母さんの顔は、今まで見たどんな顔よりも怖かった。
 冷ややかな目に見送られながら、通学路を歩く。家にいたって息が詰まるだけだし、学校なら、まだ先生たちが守ってくれる。
 もちろん、侑治とのことがあってから見る目が変わっているのは知っているけど。

 それも、あと数日だ。
 耐えろ、耐えろ。
 リストバンドの中の疼痛がそう訴えかけてくるのを感じながら、わたしは校門を通り抜けた。
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