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1章 出会ったときには、もう。
6・アノニマス
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毎日、息が詰まる。あまりに続き過ぎると、「みんなよく飽きないな」なんて気持ちまで芽生えてくるけど、そんなものじゃ誤魔化しきれないほど、痛くて。
あまりにも、時間の流れが遅くて。
学校に行けば、教科書に落書きされるとか当たり前のことで、持って帰るようにしても、休み時間とか移動教室とか、どうしても離れないといけないときにその隙を見計らっていつの間にかされている。それこそ、漫画とか小説の中でしか見かけないような口汚い言葉が書いてあったり、下手過ぎるのにわたしと侑治のことだってわかる絵だったり。
あと、物がよくなくなるようになった。
戻ってくるときは必ず、ただ使っただけとは思えない汚れ方をしている。
今朝なんて、お母さんから貰って大事に使っていたハンカチが机の上に置かれていた。見た目が綺麗だったからホッとして持ったらびちゃっ、と濡れていて、それに生臭くなっていた。
粘り気のある、嫌な臭いが染みついていた。
「ねー、あれ何付けたの?」
「え、三好が好きなもんじゃねーの?」
「え、だから何?」
「んなこと言えねぇよ。俺らエロくねぇし」
「すっげぇ臭ぇんだけど」
「どうすんだろどうすんだろ」
周りから聞こえてくる、嫌な声。
わたしがどうするか、じっと監視している。
それを全部見て、わたしが何をしても笑いものにするための空気が、既に満ち溢れていて。その為だけに集まったみたいな教室にはいたくなくて、何も言わずにハンカチを洗いに行く。このままじゃ使えないし、家にも持って帰れないから。
「あ、逃げた逃げた」
「バカ、違うって。アレしに行ったんだよ」
「うっそ、学校で!?」
「つか、女子もすんの?」
「うっざ、知らんし。でもほら、三好ちゃんは吉井とヤッてたくらいだし」
「あー、もう学校とか普通なんか」
「臭いで興奮したんじゃね?」
「さっすが~」
ドアを閉めて教室を離れるまで、ずっとその声は聞こえ続けた。
でも、学校だけならマシだった。それなら、学校の間だけ耐えればいい。家に帰れば安心して、その間だけはこんな思いも忘れていられる。
わたしには、それも許されない。
通知音が、ひっきりなしに続いている。授業中は通知音を切って、スマホを見なければそれでいい。でも、その他の時間は見なきゃ。
だって、たぶん。
画面を見ると、やっぱりいつものようなメッセージばかり。
『写真見ました。もっと見たいからID交換しよ!』
『今度の土曜日駅前のホテルで待ってます』
『今ひま? ワシの見せるからマイちゃんも見せてや』
誰とも知らない人たちからのメッセージが、日に数百件届く。内容は、全部似たようなものばかり。その人たちが見たっていう写真を探して、削除して。
いくらやってもキリがないけど、見つけたら消さなきゃ。
誰が載せたかはわからない。でも、誰かが作って載せた、ひどいコラージュ写真。
写真を見て、そういう目的で誘おうとしてきた人から知ったその写真は……。
わたしの顔と、誰か知らない人の体を合わせ持った、実在しない女の人――マイ。
影のようにどこまでもつきまとう彼女に、わたしの逃げ場所は奪われてしまった。
あまりにも、時間の流れが遅くて。
学校に行けば、教科書に落書きされるとか当たり前のことで、持って帰るようにしても、休み時間とか移動教室とか、どうしても離れないといけないときにその隙を見計らっていつの間にかされている。それこそ、漫画とか小説の中でしか見かけないような口汚い言葉が書いてあったり、下手過ぎるのにわたしと侑治のことだってわかる絵だったり。
あと、物がよくなくなるようになった。
戻ってくるときは必ず、ただ使っただけとは思えない汚れ方をしている。
今朝なんて、お母さんから貰って大事に使っていたハンカチが机の上に置かれていた。見た目が綺麗だったからホッとして持ったらびちゃっ、と濡れていて、それに生臭くなっていた。
粘り気のある、嫌な臭いが染みついていた。
「ねー、あれ何付けたの?」
「え、三好が好きなもんじゃねーの?」
「え、だから何?」
「んなこと言えねぇよ。俺らエロくねぇし」
「すっげぇ臭ぇんだけど」
「どうすんだろどうすんだろ」
周りから聞こえてくる、嫌な声。
わたしがどうするか、じっと監視している。
それを全部見て、わたしが何をしても笑いものにするための空気が、既に満ち溢れていて。その為だけに集まったみたいな教室にはいたくなくて、何も言わずにハンカチを洗いに行く。このままじゃ使えないし、家にも持って帰れないから。
「あ、逃げた逃げた」
「バカ、違うって。アレしに行ったんだよ」
「うっそ、学校で!?」
「つか、女子もすんの?」
「うっざ、知らんし。でもほら、三好ちゃんは吉井とヤッてたくらいだし」
「あー、もう学校とか普通なんか」
「臭いで興奮したんじゃね?」
「さっすが~」
ドアを閉めて教室を離れるまで、ずっとその声は聞こえ続けた。
でも、学校だけならマシだった。それなら、学校の間だけ耐えればいい。家に帰れば安心して、その間だけはこんな思いも忘れていられる。
わたしには、それも許されない。
通知音が、ひっきりなしに続いている。授業中は通知音を切って、スマホを見なければそれでいい。でも、その他の時間は見なきゃ。
だって、たぶん。
画面を見ると、やっぱりいつものようなメッセージばかり。
『写真見ました。もっと見たいからID交換しよ!』
『今度の土曜日駅前のホテルで待ってます』
『今ひま? ワシの見せるからマイちゃんも見せてや』
誰とも知らない人たちからのメッセージが、日に数百件届く。内容は、全部似たようなものばかり。その人たちが見たっていう写真を探して、削除して。
いくらやってもキリがないけど、見つけたら消さなきゃ。
誰が載せたかはわからない。でも、誰かが作って載せた、ひどいコラージュ写真。
写真を見て、そういう目的で誘おうとしてきた人から知ったその写真は……。
わたしの顔と、誰か知らない人の体を合わせ持った、実在しない女の人――マイ。
影のようにどこまでもつきまとう彼女に、わたしの逃げ場所は奪われてしまった。
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