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1章 出会ったときには、もう。
1・アップルパイ
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「じゃ、またねー!」
「ばいばい」
終業のチャイムが鳴って、掃除も終わって、帰りの会も終わって。
今日もまた、クラスのみんなは散り散りになって帰っていく。明るい笑顔で手を振って帰って行く友達に笑顔を向けて、わたしは誰もいなくなった教室で机に座って、窓の外を眺める。
普段みんなで一緒に騒いでいるのも好きだし、楽しい。
そういう時間があると、嫌なこともほとんど忘れられる。
でも、そればっかりだとどうしてか息が詰まるから、たまにこうして窓から見える夕焼けに染まった景色に心を慰めてもらっていた。
前までは、ただそれだけの時間だった。
けど、今は。
「おっ、残ってたな? お待たせ、三好。じゃあ、帰るか」
「……うん」
今は、彼を待つ時間になっている。その待ち時間は、前より切実にわたしにとって必要なものになっていた。
「美味しそうだな、そのアップルパイ。一口いい?」
「はい」
ファストフード店の奥まった位置。テーブル席で向かい合っている彼が、にこやかな顔でわたしの頼んだアップルパイにかぶりつく。サクッ、という心地よい音とともにリンゴの香りのする湯気が湧き出て、食欲をそそる。思わずじっと見ていたのを悟られたみたいで、「悪い悪い、じゃあ何か俺の一口いいから」とハンバーガーを差し出される。
「ううん、平気」
「そう?」
「うん」
平気じゃなくても、何となくそうとは言いにくい。
彼は、そういうところをあんまりわかっていない。
だけど、やっぱり口に運んだアップルパイはとってもおいしかった。その時間は、とても幸せで、満足する時間だった。
見つかってしまったら、大変なことになるってわかってるのに。
お店の外はやっぱり寒い。といっても、わたしたちにはあんまり関係ないけど。
「じゃあ、行こっか」
車の中で、彼は楽しそうな声で言った。
わかってはいるけれど、確認の為にわたしは尋ねる。
「どこに行くの、先生?」
「決まってんじゃん♪」
そんな会話の最中にも、車はもう幹線道路沿いの真新しいラブホテルの車庫に入っていた。
「ばいばい」
終業のチャイムが鳴って、掃除も終わって、帰りの会も終わって。
今日もまた、クラスのみんなは散り散りになって帰っていく。明るい笑顔で手を振って帰って行く友達に笑顔を向けて、わたしは誰もいなくなった教室で机に座って、窓の外を眺める。
普段みんなで一緒に騒いでいるのも好きだし、楽しい。
そういう時間があると、嫌なこともほとんど忘れられる。
でも、そればっかりだとどうしてか息が詰まるから、たまにこうして窓から見える夕焼けに染まった景色に心を慰めてもらっていた。
前までは、ただそれだけの時間だった。
けど、今は。
「おっ、残ってたな? お待たせ、三好。じゃあ、帰るか」
「……うん」
今は、彼を待つ時間になっている。その待ち時間は、前より切実にわたしにとって必要なものになっていた。
「美味しそうだな、そのアップルパイ。一口いい?」
「はい」
ファストフード店の奥まった位置。テーブル席で向かい合っている彼が、にこやかな顔でわたしの頼んだアップルパイにかぶりつく。サクッ、という心地よい音とともにリンゴの香りのする湯気が湧き出て、食欲をそそる。思わずじっと見ていたのを悟られたみたいで、「悪い悪い、じゃあ何か俺の一口いいから」とハンバーガーを差し出される。
「ううん、平気」
「そう?」
「うん」
平気じゃなくても、何となくそうとは言いにくい。
彼は、そういうところをあんまりわかっていない。
だけど、やっぱり口に運んだアップルパイはとってもおいしかった。その時間は、とても幸せで、満足する時間だった。
見つかってしまったら、大変なことになるってわかってるのに。
お店の外はやっぱり寒い。といっても、わたしたちにはあんまり関係ないけど。
「じゃあ、行こっか」
車の中で、彼は楽しそうな声で言った。
わかってはいるけれど、確認の為にわたしは尋ねる。
「どこに行くの、先生?」
「決まってんじゃん♪」
そんな会話の最中にも、車はもう幹線道路沿いの真新しいラブホテルの車庫に入っていた。
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