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3、あまくて、からい。
クッキーのように甘くて
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柿本くんと付き合うようになってから、わたしのなかで何かが変わっていったような気がした。それはもちろん、孤独でしかなかったわたしに「柿本くん」という中身が生まれたことも含まれるんだけど、それ以外にもきっと、いろんなことがある。
まず、前ほど孤独じゃなくなった。
だから、前よりもオナ電をしようとか思わなくなった。そんなことをしなくても、よくなった。
だって夜になったら通話で柿本くんの声を聞いていればいい。
時々、どうしても寝付けなかったときとか、なんとなく柿本くんとうまくいかなかったような気がした日にはそういうこともしたけど、そういうときには柿本くんのことを思い出しながらするようにしていた。そうしていると、電話越しに聞こえる気持ち悪い声も、少しは平気になるから。
だから、今日も。
「んん、はぁっ……、きもちぃよ……」
『う、うん、ぼくもきもちいよっ、はぁっ、はぁ、はぁっ!』
わたしが通話しているのは、顔も知らないようなおじさんじゃない、柿本くんだ。柿本くんの声を聞きながら、柿本くんの吐息を電話越しに聴いて、柿本くんの命令でえっちな声を出している。そう思えば、この電話も苦痛ではなくなる。
必要としてもらえるうえに苦痛じゃないなんて、もう夢みたいなことじゃない?
だから、むしろ嬉しい気持ちで。
時々は本当に自分でしながら。
電話の向こうから聞こえてくる声に震えながら、わたしは優越感に浸ることができるようになった。きっと面と向かってじゃ何もできないくせに、声だけしか聴こえない間柄だったらまるで王様のように振る舞ってくる惨めな人たちにとって欠かせない存在になりながら、柿本くんを想っていられる。
『はぁ、はぁっ、ミキちゃん、そろそろっ、そろそろ、射精すよ! うっ、はぁ、うあぁ、』
「いいよぉ、我慢しないで……んっ、いっぱい気持ちよく、なって……、あぁぁ、」
本当の幸せを知ってから、人に偽物の幸せを振り撒いていくのが、こんなに気持ちいいなんて思わなかった。
ねぇ、虚しくない? 寂しくならない? だって別に、わたしはあなたの恋人じゃないんだよ? それどころか、あなたの声を聞きながら本当に好きな人のことを想ってるんだよ? ほんとにオナニーしちゃってるのだって、あなたの声じゃないよ、柿本くんの声だからだよ?
そんな風に、ただの代用品にされながらイクんだ? 可哀想、でも気持ち悪いよ?
思わず笑いたくなるのを堪えながら、わたしはもっと声を出す。柿本くんだと思いながら、もっと聴いていたいと思いながら、でも早く本物の声を聞きたい方が強いから、さっさと終わらせるために。
『う、うっ、うぅぅ、射精るっ……!』
「あぁ、あぁ、あっっ、いい、よ? いいよ……っ?」
『あ、あぁぁぁぁっ!!!』
電話の向こうからくぐもった声が聞こえて、イッた後みたいにぜーぜ―言っている声が聞こえてくる。……ほんとに気持ち悪い。さっきまで柿本くんの声だと思って通話していたから、なおさら気持ち悪い。
急いで通話を切って、また画面を開く。
もちろん、今度は柿本くんの画面。
「……ふふっ」
ホーム画面に貼られたわたしとのツーショット写真に思わず微笑みながら、わたしは通話をかけることにした。
まず、前ほど孤独じゃなくなった。
だから、前よりもオナ電をしようとか思わなくなった。そんなことをしなくても、よくなった。
だって夜になったら通話で柿本くんの声を聞いていればいい。
時々、どうしても寝付けなかったときとか、なんとなく柿本くんとうまくいかなかったような気がした日にはそういうこともしたけど、そういうときには柿本くんのことを思い出しながらするようにしていた。そうしていると、電話越しに聞こえる気持ち悪い声も、少しは平気になるから。
だから、今日も。
「んん、はぁっ……、きもちぃよ……」
『う、うん、ぼくもきもちいよっ、はぁっ、はぁ、はぁっ!』
わたしが通話しているのは、顔も知らないようなおじさんじゃない、柿本くんだ。柿本くんの声を聞きながら、柿本くんの吐息を電話越しに聴いて、柿本くんの命令でえっちな声を出している。そう思えば、この電話も苦痛ではなくなる。
必要としてもらえるうえに苦痛じゃないなんて、もう夢みたいなことじゃない?
だから、むしろ嬉しい気持ちで。
時々は本当に自分でしながら。
電話の向こうから聞こえてくる声に震えながら、わたしは優越感に浸ることができるようになった。きっと面と向かってじゃ何もできないくせに、声だけしか聴こえない間柄だったらまるで王様のように振る舞ってくる惨めな人たちにとって欠かせない存在になりながら、柿本くんを想っていられる。
『はぁ、はぁっ、ミキちゃん、そろそろっ、そろそろ、射精すよ! うっ、はぁ、うあぁ、』
「いいよぉ、我慢しないで……んっ、いっぱい気持ちよく、なって……、あぁぁ、」
本当の幸せを知ってから、人に偽物の幸せを振り撒いていくのが、こんなに気持ちいいなんて思わなかった。
ねぇ、虚しくない? 寂しくならない? だって別に、わたしはあなたの恋人じゃないんだよ? それどころか、あなたの声を聞きながら本当に好きな人のことを想ってるんだよ? ほんとにオナニーしちゃってるのだって、あなたの声じゃないよ、柿本くんの声だからだよ?
そんな風に、ただの代用品にされながらイクんだ? 可哀想、でも気持ち悪いよ?
思わず笑いたくなるのを堪えながら、わたしはもっと声を出す。柿本くんだと思いながら、もっと聴いていたいと思いながら、でも早く本物の声を聞きたい方が強いから、さっさと終わらせるために。
『う、うっ、うぅぅ、射精るっ……!』
「あぁ、あぁ、あっっ、いい、よ? いいよ……っ?」
『あ、あぁぁぁぁっ!!!』
電話の向こうからくぐもった声が聞こえて、イッた後みたいにぜーぜ―言っている声が聞こえてくる。……ほんとに気持ち悪い。さっきまで柿本くんの声だと思って通話していたから、なおさら気持ち悪い。
急いで通話を切って、また画面を開く。
もちろん、今度は柿本くんの画面。
「……ふふっ」
ホーム画面に貼られたわたしとのツーショット写真に思わず微笑みながら、わたしは通話をかけることにした。
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