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2、それはまるで夢の国
不思議な小屋の中で
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場所を変えよう。
そう言って連れて来られたのは、高架下にひっそりとある公園――というには少し手狭な広場だった。その片隅に、なんの為に設置されたかよくわからない石のモニュメントがあった。柿本くんは、慌てた様子でわたしをそこまで連れてきて「た、たぶんここならそんな人目に付かないから」と言ってくれた。
正直、もうその頃には涙なんて引っ込んでしまっていたんだけど、そこまで気を遣ってもらえるのがすごく嬉しくて、また涙が溢れそうになった。
だめだ、あんまり泣いてたら迷惑になるのはわかってるのに……っ!
「ごめん、ごめ……、あの、今まで、いなかったんだよ、こんな風に、優しい言葉……っ、もらうなんて。だから、だからごめんね? ごめん、せっかく誘ってくれたのに……っ、っく、うぅぅ、」
「大丈夫だよ、堀田さん。ううん、有栖」
不意に抱き寄せられて、真剣な声で囁きかけれられた。
「――――、」
保健室で知り合ってから、ほとんど毎日学校で会っていたときみたいに優しくてちょっと面白い人……そんな印象だった彼の、もしかしたら初めて聞いたかも知れない真剣な声。そんな声をしている人だって思わなかったから、なんだかそのギャップで不意を突かれたような感じ。
抱き締めてくれた彼の身体はとても温かくて、今まで知っていた人たちとは全然違っていて――なんていうか、安心できる温かさだった。
こんな風にいられる人っているんだな、とかそんなことを本気で思っていた。
だって、わたしの周りにいる人たちなんてみんな――と思いかけて、でも考えてみたらわたしが直に触れられる場所にいる人たちはみんないい人なんじゃないかな、なんて思えてきて。
だって、吉田さんがあの手紙を『それって相当本気なんだと思うよ』って言ってくれなかったら、わたしはたぶん柿本くんのことを疑って、この約束をしなかった。
この約束をしなかったら、きっと、柿本くんみたいな人に出会うことなんてできなかった。
そういういろんな巡り合わせに、感謝したい気持ちだった。
たぶん、今まで生きてて1番いい日かも知れない。
こんなに「生きていてよかった」と思えた日はない。
「別に、俺たちが会えるのは今日だけじゃない。それに、有栖が泣いたからって、そんなことで俺が面倒くさがるようなことなんてないよ。もうそんなんじゃ変わりようがないくらい、俺は有栖のことが好きだったんだから」
熱のこもった言葉が、吹雪の中に迷うわたしの心を救い出してくれるような気がした。
だから、ぎこちない手つきでわたしも彼の背中に手を回す。
「ありがとう、柿本くん」
「別にいいんだよ、こんなことでありがとうなんて使わなくて」
それから、まるでそうするのが当たり前だったみたいに、わたしたちはキスをした。
真上を通り抜ける車の音なんて全然気にならなかった。
そう言って連れて来られたのは、高架下にひっそりとある公園――というには少し手狭な広場だった。その片隅に、なんの為に設置されたかよくわからない石のモニュメントがあった。柿本くんは、慌てた様子でわたしをそこまで連れてきて「た、たぶんここならそんな人目に付かないから」と言ってくれた。
正直、もうその頃には涙なんて引っ込んでしまっていたんだけど、そこまで気を遣ってもらえるのがすごく嬉しくて、また涙が溢れそうになった。
だめだ、あんまり泣いてたら迷惑になるのはわかってるのに……っ!
「ごめん、ごめ……、あの、今まで、いなかったんだよ、こんな風に、優しい言葉……っ、もらうなんて。だから、だからごめんね? ごめん、せっかく誘ってくれたのに……っ、っく、うぅぅ、」
「大丈夫だよ、堀田さん。ううん、有栖」
不意に抱き寄せられて、真剣な声で囁きかけれられた。
「――――、」
保健室で知り合ってから、ほとんど毎日学校で会っていたときみたいに優しくてちょっと面白い人……そんな印象だった彼の、もしかしたら初めて聞いたかも知れない真剣な声。そんな声をしている人だって思わなかったから、なんだかそのギャップで不意を突かれたような感じ。
抱き締めてくれた彼の身体はとても温かくて、今まで知っていた人たちとは全然違っていて――なんていうか、安心できる温かさだった。
こんな風にいられる人っているんだな、とかそんなことを本気で思っていた。
だって、わたしの周りにいる人たちなんてみんな――と思いかけて、でも考えてみたらわたしが直に触れられる場所にいる人たちはみんないい人なんじゃないかな、なんて思えてきて。
だって、吉田さんがあの手紙を『それって相当本気なんだと思うよ』って言ってくれなかったら、わたしはたぶん柿本くんのことを疑って、この約束をしなかった。
この約束をしなかったら、きっと、柿本くんみたいな人に出会うことなんてできなかった。
そういういろんな巡り合わせに、感謝したい気持ちだった。
たぶん、今まで生きてて1番いい日かも知れない。
こんなに「生きていてよかった」と思えた日はない。
「別に、俺たちが会えるのは今日だけじゃない。それに、有栖が泣いたからって、そんなことで俺が面倒くさがるようなことなんてないよ。もうそんなんじゃ変わりようがないくらい、俺は有栖のことが好きだったんだから」
熱のこもった言葉が、吹雪の中に迷うわたしの心を救い出してくれるような気がした。
だから、ぎこちない手つきでわたしも彼の背中に手を回す。
「ありがとう、柿本くん」
「別にいいんだよ、こんなことでありがとうなんて使わなくて」
それから、まるでそうするのが当たり前だったみたいに、わたしたちはキスをした。
真上を通り抜ける車の音なんて全然気にならなかった。
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